チート・ザ・舌切り雀
むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
心のやさしいおじいさんは、毎日遊びに来る一羽の雀によく餌をあげて可愛がっていました。
おばあさんは怒りやすい人で、趣味でノリをつくっています。
そんなある日、雀がおばあさんがつくったノリをツンツンと突いて食ベてしまいました。
空っぽになってしまったノリの箱を見て、おばあさんはビックリした後にカンカンに怒ります。
「このいたずら雀め! 城をも呑みこむほどのノリを全て食らったというのか……!」
「ちゅーんちゅんちゅんちゅん! 中々のノリでしたわよおばあさん、この【亜空無限舌】のおやつには丁度良かったですわ」
「……たまげたものだ、だが、まだ気がついていないのか?」
「ちゅーんちゅんちゅんちゅん! 負け惜しみですかおばあさん? ……! こ、これは! わたしの口の中がくっ付いていく!?」
「私のノリがただのノリだと思うなよ! 古の邪神を束縛するために我が力を込めて創った神聖封印具の一つだ! それをあれほど体内に取り入れて無事でいられるはずが無かろう」
「ちゅんちゅん……! わたしを罠にハメたという事か!」
「しまっておいたノリを勝手に食いつくしておいて笑止な言い草よ! さあノリのついでに私の奥義も喰らうがいい、【断罪鬼斬鋏】ッ!!」
おばあさんの持つハサミから放たれる衝撃波が雀に迫る。
雀はなんとか身をよじりそれを躱そうとするが、口を開いたまま舌が固まっていたため、ギリギリで躱しきる事が出来ず、出していた舌が斬り飛ばされてしまった。
「お前が躱したのではないぞ。お前は腐ってもおじいさんが可愛がる鳥、命までは奪わん……さあこの家を去るが良い、次に私の前に姿をみせたならば、舌だけではすまんぞ」
「ちゅん……このわたしに下らん情けなどかけた事……必ず後悔させてくれるぞ……!」
雀は泣きながら、やぶの中へ逃げていきました。
間もなくおじいさんが仕事から帰ってきましたが、いつもなら遊びに来ている雀の姿が見えません。
「おばあさん、今日はあの子はきておらんのか?」
「……あの雀はもう来ない。おじいさん、所詮、人と雀は相いれる事は出来んのだよ」
その言葉を聞き戦いの爪痕を見て、おじいさんは何があったのかを悟った。
「なんと可哀そうに……くっ! 雀よ、無事でいてくれ!」
心の優しいおじいさんは舌を切られたスズメの事が心配でならなくなり、逃げていったやぶに雀を探しに行きました。
「おーいおーい、雀や雀。舌切り雀はどこにいる?」
するとやぶの奥から、雀の鳴く声が聞こえます。
「ちゅんちゅんちゅん、おじいさん、ここですよ。雀のお家はここですよ」
やぶの中から雀達が大勢現れました。よく見ると、舌を切られた雀もいます。
「おお、ウチのばあさんがすまなかった。どれ、舌を見せてごらん、【完全究極罠解除】!」
おじいさんが唱えると、雀の口内を未だに封印していたノリの呪縛が解け、切れ落ちた舌も完全に再生した。
「ちゅんちゅんちゅん! ありがとう、おじいさん。さあさあ、わたし達のお家で休んでいってくださいな」
雀達はみんなでおじいさんを雀のお家へ案内しました。
そしてみんなで踊ったり美味しいご馳走をたくさん出してくれたりしました。おじいさんは、大喜びです。
「それでは暗くならないうちにおいとまをしよう。雀さん達、ありがとう」
おじいさんがお礼を言って帰ろうとすると、雀達は大きなつづらと小さなつづらを持ってきました。
「ちゅんちゅんちゅん! おじいさん、お土産にどちらか好きな方を持っていってくださいな」
雀達が言いました。
「おおありがとう、ワシはこの通りおじいさんだから、あまり大きなつづらは持つ事が出来ない。小さい方を貰おうか」
おじいさんは小さなつづらをお土産にもらうと、背中に背負って帰っていきました。
そして家に帰って雀のお土産を開けてみると、不思議な煙が溢れ出てきます。
その煙がおさまると、なんと中には大判小判に宝石やサンゴなどの美しい宝物がたくさんおじいさんの視界に写るではありませんか! 雀達はやさしいおじいさんに、みんなでお礼のおくり物をしたようです。
「ほっほっ、雀達よありがとよ、ほっほっ、ほっほっ、舌切り雀よありがとよ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ」
そのおじいさんの様子を、おばあさんが後ろから見つめます。
「おじいさん……」
おばあさんはおじいさん背中を優しく抱きしめ、静かに呟きました。
「こんな物を貰うなんてね……おじいさん、私もちょっと、あの雀の下に行ってくるわ……」
おばあさんもまた、やぶの奥の雀のお家へ出かけていきました。
おばあさんが雀の家に辿り着くと、玄関を無理やり蹴破り無理矢理入ります。
無数の雀の中からすぐに一度舌を斬り捨てた雀を見つけ、鋭い眼光で言葉を投げかけた。
「踊りもご馳走もいらないよ。用件はわかっているねこのいたずら雀……すぐに帰るが、土産だけは貰ってやろう」
その言葉に舌切り雀が声を張り上げます。
「ちゅーんちゅんちゅんちゅん! お久しぶりですねおばあさん! はいよろしいですわよ! では、大きいつづらか小さいつづらか……」
「お前ら頭数はいるようじゃないか、小さいつづらじゃその首全ては入りきるまい……大きいつづらに決まっているだろう!!」
「ちゅーんちゅんちゅんちゅん! 小さいつづらですらあれほどの効果であるのに大きい方を選ぶとは何とも欲深いおばあさんですこと! 良いでしょう、お受け取り下さい! 【金銀財宝闇葛籠】ッ!!」
雀が放った大きなつづら。それをおばあさんは正面から受け止める。
おばあさんの力は一流である。しかし舌切り雀最大の奥義である【金銀財宝闇葛籠】の威力はおばあさんの力に勝るとも劣らない。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
おばあさんはその強大な力に必死で抗った。そのエネルギーから発生する凄まじい余波が撒き散らされ、雀のお家もやぶも消し飛ばされてゆく。
結果、その威力を全て受け止める事には成功するものの、おばあさんは地に付けた足を何百メートルもずり、なんとおじいさんとおばあさんの住む家まで押し戻される事となった。
「はあ、はあ……これがお前の真の力か……!」
雀とおばあさんとの距離は数百メートル、聞こえる距離ではないがおばあさんがそう呟くと、反撃に出ようと再び雀に近づくために足に力を込める。
が、その時、受け止め切った【金銀財宝闇葛籠】の蓋が、ひとりでに開きだしたではないか。
「こ、これは……」
中から出てくるのは天を衝く勢いで伸びる巨大なムカデ、1メートル以上の大きさを誇るハチの群れ、伝説の怪物である八岐大蛇に恐ろしい顔の幽霊達。
そう、【金銀財宝闇葛籠】の真髄は単なる飛び道具ではない。そこから召喚される数々の怪物達による広範囲蹂躙であった。
その様子を隣で見ているおじいさんは、
「ほっほっ、おばあさん、かわいいスズメの舌を切ったり、ほっほっ、欲張って大きなつづらをもらったりしたから、ほっほっ、ほっほっ、バチがあたったのだよ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、これからは、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、生き物を可愛がっておやり。ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、それから決して、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、欲張らないようにね、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ、ほっほっ」
とおばあさんに言いました。
「ええおじいさん、少し待っていてくださいね。必ずあのいたずら女狐の呪縛から、すぐに解き放ってさしあげますから……!」
おばあさんはそう言い返しながら拳を構えると、前に駆けた────
めでたしめでたし