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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・マッチ売りの少女

 むかしむかしある所に、雪が降りしきる大晦日の晩に、外でマッチを売っている一人の少女がいました。


「マッチはいかがですか? 誰かマッチを買ってください」


 でも、誰も立ち止まってくれません。


「お願い、一本でもいいんです。誰か、マッチを買ってください」


 今日はまだ、一本も売れていません。

 冷たい雪の上を行くうちに、少女の足はぶどう色に変わっていきました。

 しばらく行くと、どこからか肉を焼くにおいがしてきました。


「ああ、いい匂い……お腹がすいたなぁ……」


 でも少女は、帰ろうとしません。

 マッチが一本も売れないまま家に帰っても、お父さんはけっして家に入れてくれません。

 それどころか、「マッチの一つも売ってくる事が出来ないのかこの役立たずめ!」と、ひどくぶたれるのです。


 少女は寒さをさけるために、家と家との間に入ってしゃがみこみました。

 それでも、じんじんとこごえそうです。


「そうだわ、マッチをすって暖まろう」


 そう言って、一本のマッチをすります。

 マッチの火は、とても暖かでした。

 少女はいつの間にか、勢いよく燃えるストーブの前にすわっているような気がしました。


「なんて、暖かいんだろう。……ああ、いい気持ち」


 少女がストーブに手を伸ばした時、少女は初めて気がつきます。


「こ、このストーブは本物!?」


 なんという事でしょう、少女が寒さから逃れるために想像で生み出したストーブはそこに実体をもって出現していたのです。


 少女はまたマッチをすってみました。

 辺りはパアーっと明るくなり、光が壁を照らすとまるで部屋の中にいるような気持ちになりました。

 部屋の中のテーブルには、ご馳走が並んでいます。

 少女はそのご馳走を一つずつ手に取り確認をしました。


「この鳥の丸焼きもこのスープもこのケーキも! どれも本物……?! 一体どうして……」


 そこで少女は気づきます。

 想像を創造する力────それが本来自分が持っていた力である事に。

 そしてそれを理解した時、少女は確信した。


「この力があれば──」


 少女は拳を握りしめ、マッチ以上に燃える瞳を天に向けハッキリと叫んだ。


「──お父さんに叱られず帰れる!」







 家に帰った少女は、まだ寝ているお父さんの近くでマッチを擦り、マッチを売った際と同額のお金を生み出します。

 そのお金を持ってお父さんに近づいた時、突如お父さんの姿が消えた。


 その瞬間、背後から殺気を感じ取った少女は本能的に身を屈める。

 一瞬前までに少女の頭があった場所に光速の熱線が通りすぎ、それは家の壁を貫通し夜の街に大爆発を起こした。


「ようやく力に目覚めたようだな娘よ、だが、その程度でこの父を欺けると思っていたとはな……」


「別に欺けるとは思ってはいないわ。ただ一瞬でも戸惑わせる事が出来れば良いと思ったのだけど、それすらも叶わなかったようね」


 少女はがっかりして、もう一度マッチをすりました。

 すると、どうでしょう。

 光の中に大きなクリスマスツリーが浮かびあがっていました。

 枝には数え切れないくらい、沢山の蝋燭が輝いています。


「でもこの力があれば貴方を倒せる! 喰らいなさい! 【幾千の灯火(クリスマスフレア)】ッ!!」


 クリスマスツリーにつけられた無数の蝋燭の焔が意思を持っているかのようにお父さんを襲う!

 が────


「無駄だ! 力に目覚めたばかりの想像力では所詮その程度。マッチの真の使い方を教えてやろう……! 【幻影優記憶ミラージュグランドマザー】!」


 お父さんがそう言いながらマッチを擦った時、パアーっと辺りが明るくなり、その光の中で少女が大好きだったおばあちゃんが微笑んでいました。


「……! そんな……!」


 それは辛い現実を受けてきた少女にとって、最も優しかったおばあちゃんの笑顔、最も楽しかったおばあちゃんとの思い出。

 そのおばあちゃんが、そっとやさしく少女を抱きあげ、二人は光に包まれて、空へ向かって昇ろうとします。


 少女はその優しい抱擁に身を任せようとした時、その眼で複数の流れ星が落ちる瞬間をとらえました。

 そしてその時、目の前のおばあちゃんからではない、しかし確かにおばあちゃんの声がきこえます。


『星が一つ落ちる時、一つの魂が神様のところへ昇っていくんだよ』


「あぁ……いくつもの魂が天に昇っていく……あれは……さっきお父さんの光線で犠牲になった人達の魂……」


 少女はそこで自らのマッチをもう一本すった。

 それにより創造した剣を振るい、おばあちゃんの幻影を斬り裂く!


「なに!」


 少女のその行動にお父さんは驚愕の声をあげる。


「お父さん……やはり私はまだ少しの間だけ、本当のおばあちゃんの所に逝くわけにはいきません。貴方を……倒すまではッ!」


 そこで少女は持っている全てのマッチに火をつけた。

 そのいくつは淡い光と化し、先程お父さんが消し飛ばした街の方向へ向かい──


「これで先程死んだ人達の魂を呼び戻し、壊れた街を復元します。そして……!」


 ──残りの炎全てがそれぞれ姿を変える!

 全てを斬り裂く聖剣に! 全てを貫く魔槍に! 全てを粉砕する剛斧に! 全てを射止める神弓に! 

 そしてそれらは一斉にお父さんを襲う!


「や、やめろ娘よッ! それほどの力を使えばお前自身もただではすまんぞッ!!」


「あらお父さん、何て事をいうのです。私は先程、貴方が見せてくれた幻影のおかげで天に昇る覚悟は出来ました。……貴方を地獄に突き落としてからねッ!」







 新年の朝、少女は微笑みながら死んでいました。

 集まった町の人々は、「可哀想に、マッチを燃やして暖まろうとしていたんだね」と口々に言います。


 少女がマッチの火でこの街を、今口々に好き勝手言っている人々を救い本当のおばあさんに会いに天国へ昇った事など、誰も知りませんでした。



 めでたしめでたし。

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