チート・ザ・50話
アスタリートの頭上から発射された【異世界輸送貨物自動車】。
それが桃太郎たちを襲おうとした時、いち早く前方に飛び出した者がいた。
それは白い着物に身を包んだ黒髪和風美人、鶴!
「【天魔障壁】!」
結界魔法を得意とする鶴の防護壁。
桃太郎と神が会話をしている間に、強固な魔法陣を33人全員を包囲するように浦島太郎の釣り糸で描いていた強力な物。
それを見て、アスタリートはニヤリと笑った。
確かにこの防護壁は強力無比。常人が個人で破るのは困難な物であるだろう。
しかしこちらは神たるものの奥義。それこそ一人の力で防ぎきる事などまず不可能。
────という予想に反し、必殺のトラックはその防壁に衝突すると動きを止めた。
「なにィ!?」
アスタリートは驚愕し鶴に目を向ける。
すると、その鶴の背後からもう一人の女が得意げに顔を覗かせた。
鶴と同じく和風黒髪美人。こちらの着物は赤色、織姫!
「女神様貴女、この魔法陣が鶴一人の手で編みこまれたものと思っていたでしょう? 本職である私も手伝っていたのよ? この【機工化学】でね!」
鶴と織姫が攻撃を防いだ隙をついて、女神に向かって攻撃を仕掛ける者達がいた。
「ひゃははははははははッ! 俺は最初からアンタと戦いたかったぜえぇッ!!?」
そのうち一人が釣り竿を操る浦島太郎!
浦島が釣り竿を振るう事により、複数の大蛇がのたうち暴れ回るような変則的な軌道で女神を襲う。
「小賢しい!」
強力な攻撃ではあるが、アスタリートは絶対神。手を横に振る事によってその釣り糸は粉々に砕かれる。
「はははははははははははははははは!! お次はコイツだあッ!!」
浦島が持ち上げるように大振りに釣り竿を振るうと、女神の足元から真っ白な床を突き破って更に複数の釣り糸が伸びた。それらが多方向から一斉にアスタリートを襲う!
「甘いわ! 私にはこの程度同じ事よ!」
だが、それもアスタリートが手を振るうだけですべての釣り糸が突如力を失い床に落ちてゆく。
────が、女神の死角となっている真後ろからの釣り糸。そこに括り付けられている者がいた。
「あら、甘いのは貴女じゃないかしら?」
括り付けられていた者、下半身が魚の尻尾である美女、人魚姫!
よく見ると人魚姫は釣り糸に括り付けられているのではなかった。釣り糸の先端、ルアーの部分を口で咥えていたのだ。
鋭利なルアーを咥える事で当然口内を出血する。だが、自らの血液こそが人魚姫の力。
「そのお顔、赤く染めてあげるわ! 【沸騰接吻】ッ!」
人魚姫渾身の息吹に女神は全身を包まれ、怯む。
そして浦島太郎と同時に行動を移していた者が、今攻撃の準備を終える。
それは笑顔を絶やさぬ若者、わらしべ長者!
素早い動きと器用さで接近戦を得意とするわらしべ長者が、浦島太郎より一手攻撃が遅れたのは理由があった。
彼は最初に着いた場所で必ず何か物を拾う癖がある。そしてその物を使って臨機応変な対応をすることが好みなのだ。
「この空間で最初に拾うのがまさか女だなんてなぁ」
わらしべ長者が手にしているモノ。それは本人がいう通り女性の足部分だった。
自らの足を掴まれているというのに、声を上げる様子もないのは銀の服を纏う銀髪の美女、銀の小野!
彼女はむしろその扱われ方こそが自身の本分とでもいうかのように、足を掴まれたまま女神を睨みつつ手刀を構えている。
わらしべ長者はアスタリートの下に跳躍し、そのまま銀の小野を大きく振るった。
その強烈な頭突きにより、女神の身体がぐらつく。
「おのれ小癪な……! ならばこれならどうだ!?」
アスタリートの背後で再び時空が歪んだ。
しかもその歪みは一つではない、先ほどよりは小さい歪みだが無数の穴から何かが出現しようとしている。
「ばらけ始めた今、この全ては防げまい! 超有名勇者をもその威圧だけで死亡転生させたこの奥義、受けてみよ! 【異世界輸送自動二輪車】ッ!!」
女神の叫びと共に、時空の歪みから無数のスクーターが飛び出し暴れ始めた!
トラックの時は内部まで確認する者は誰もいなかったが、そのスクーターにまたがるように人型の黒い靄が乗っている。どうやら完全に自動ではなく、女神の奥義はこの靄に操作させているようだ。
必殺のスクーター。それが複数この場で拡散されるのであればその被害は計り知れない。
いち早く察知した蒼服の若者が前に出て、その発射口目掛けて叫んでいた。
「【雄牛弾丸乱射砲】ッ!!」
その若者は彦星!
彦星が召喚した雄牛が次々とスクーターに激突! スクーターはその重量により破壊され、雄牛もまた魂ごと消し飛ばされて消えてゆく。
彦星の行動によりスクーターの弾数は随分と減ったが、それでもその残りが他の主人公達を襲いだした!
その内のいくつかが、末っ子ぶたの下へ向かう。
凄まじい強度を誇る【絶対防御大豪邸】を得意をする末っ子ぶたであったが、その技は時間がかかり、とてもではないが刹那の攻防の中で作製できるモノではない。
そんな末っ子ぶたの前に立つ者がいた。それは末っ子ぶたと変わらない姿形の長男ぶた!
「下がっておれ我が弟よ、ハァッ!!」
高速でせまる複数のスクーターに対して、長男ぶたは側面から拳をぶつけ大破させた。
その体術は、接近戦を得意とする他の参加者にも劣らない鮮やか且つ鋭い動き。
「に、兄さん!」
「ゲームでは後れを取ったが、我が体術まだまだ現役なり。狼でもない限り僕は倒せんよ」
末っ子ぶたは難を逃れたが、スクーターはそれで終わりではない。更に他のスクーターが参加者の一人を襲った。
襲われたのは他の参加者と比べて、いや一般人と比べても体力も腕力もない小柄な身体。
この乱戦の中、末っ子ぶたと違い独り孤立してしまっていた華奢な少女にはそれから身を守る術はない。
しかし、スクーターが当たる寸前に少女は確かに呟いた。
「【美貌光線】」
白雪姫の視線が、スクーターにまたがった黒い靄に向けられる。
靄に目のようなものは確認できていないが、それでもきっと存在するのだろう。視線を合わせる事で発動する白雪姫の能力がかけられたのだから。
スクーターは、そのまま勢いを止める事なく白雪姫を跳ね飛ばし、魂を次元の彼方まで吹き飛ばすその威力が華奢な身体をバラバラに砕く。
が、空中で四散する白雪姫の全身が時間が逆戻りするかのように再び合わさっていき、白雪姫は何事もなかったかのように地上に着地した。
同時にスクーターに乗っていた靄は掻き消え、制御を失ったスクーターはそのまま真っすぐ走っていき、適当な所で転倒する。
尚も白雪姫を襲う複数のスクーター。
「【美貌光線】」
白雪姫は跳ね飛ばされては着地する。という動作を、向かってくるスクーターが無くなるまで繰り返した。
またある方向にスクーターは走る。
その先にいるのは天使の翼を背中に生やした少年ヘンゼル!
「【え、天使乃座布団】!」
叫びと共に、背中の翼が大きく膨らみヘンゼルを覆う。だが、単独の防御技で女神の奥義を防ぎきる事は出来ない。
それを察してか、一人の女性がヘンゼルの隣に立った。
「私も手伝うわ、一緒にアレを防ぎましょう?」
それは金髪に金色の衣服を纏い、防御結界を得意とする金の小野!
ヘンゼルは金の小野の呼び掛けに頷くと、二人で前方に手をかざし叫んだ。
「「【玩具乃缶詰】!!」」
言葉と共に、二人の前方に半透明の巨大な円柱が出現した。
迫り来るスクーターがその円柱にぶつかったかと思えば、バイクはそのまま円柱をすり抜ける。
これでは防御技として意味がない────という訳ではなかった。
なんと円柱の中に入ったスクーターは、内側から外に出ようにもそこで障壁に阻まれてしまったのだ。
つまり、スクーターは易々と円柱の内部には入れたもののそこから出る事は出来ない。
複数のスクーターが円柱の内部に閉じ込められ、ぶつかりあっては転倒する。そして箱の中に敷き詰められる玩具のように動けなくなってしまった。
皆の活躍により、スクーターの数も随分と減っていた。
そのタイミングを見計らって、残りスクーター全てを対処しようと二人が動いた。
坊さん服を羽織った少年、坊主! そして白い着物を着こんだ美女、雪女!
二人はスクーターの軌道の前に立ちながら高らかと叫んだ。
「ドロー! 『砂山』のカード!」
「【雪山召喚】!」
二人の叫びと共に、スクーターの進路先に巨大な砂山と雪山が出現する。
それにより残ったスクーター全てはタイヤが砂に埋まり、または雪で滑り転倒した。
広範囲の奥義を放ちつつ、誰一人仕留める事の出来ていないアスタリート。その表情に苛立ちが現れる。
「舐めたマネを……!」
女神の背後の時空が歪んだ。
そして坊主と雪女が精製した二つの山に目掛けて更なる奥義を放つ!
「排除してくれる! 【異世界輸送盛土自動車】ッ!!」
出現したブルトーザーが二つの山に直撃!
更にそのパワーは砂山も雪山も根こそぎ奥へ押し込んでゆく!
「ぐわあああああああああああッ!!」
「きゃあああああああああああッ!!」
その出来事に何故かはわからないが、坊主は後方斜め上に大きく吹っ飛んだ。
雪女もまた何故かはわからないが衣服がビリビリと破れ、綺麗な素肌をあらわにしながら後退りを余儀なくされる。
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坊主
LP4000→2500
雪女
SP4000→16000
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「おい、なんだこの表示は」
雪女の冷たい視線と共に放たれた疑問を余所に、アスタリートの背後で更に時空が歪み始めた。