チート・ザ・49話
「何故だ? 何故お前達が今この場に立っている? 確かに死んだはずだろう……??」
尻餅をつきながら疑問を口にする女神に対し、33人の中央で桃太郎がため息を吐きながら口を開いた。
「やれやれ女神様、チート主人公達を相手に死亡を確認した程度で安心するのは、ちょっと甘過ぎるんじゃあないか?」
桃太郎の言葉に女神は言葉を詰まらせる。
全ては自分が創った世界。世界によっては天界や冥界、霊界といったものが存在し、死後の世界や蘇生の例もある。
「ゲーム序盤に俺が【黍団子通信】で蘇生能力があるお母さんやぎとマッチ売りの少女にコンタクトを取った。俺の【黍団子復活】だけだと30人強は流石に骨が折れるんでな。受信側にも特定の力が必要だったから、万能能力者のこの二人は正に打ってつけだった」
人間の限界をどこかで線引きし、ただデスゲームを見て楽しむ事しか考えていなかった女神は、その飛躍した可能性を予測する事が出来ていなかった。
「そして二人に【黍団子魂停滞】をかける事を了承してもらい、二人の死後、後から来る者達とも話し合ってもらい魂を停滞させる。後は全ての参加者をなるべく時間をずらして死んでもらい、アンタがマヌケにも中央世界に俺を引き込んだタイミングで全員を蘇らせた。ただそれだけだ」
桃太郎の話を黙って聞く周囲の主人公達。
その中で、猿とカニはふと思い出した。自分達がお母さんやぎと戦った時の事を。
──『貴女にはこの事態が何かわかるのですか? 解決策が無いのであればこの会話自体が無意味ではないですか?』──
──『考えがないわけではない、しかし決裂を望むのであればそれもまた一興。その生き様、力を持って私に示せ』──
考えがないわけではない。
お母さんやぎは、この時既に桃太郎と結託していたのだ。
そう考えれば、その後自分達を追い詰めた後、危険を侵してまで自分達の支配をしようとしたのも納得できる。
お母さんやぎにとって、どちらでも都合が良かったのだろう。
ここで自分達を支配出来ればゲームを有利に進められ、自分達に倒される事となっても死んだ後のプランが出来ている。
「参加者を一気に殺されるとコンタクトが面倒なので、北風と太陽には強制的に魂を停滞させながら先に死んでもらった。マッチ売りの少女達より早く死んだ浦島太郎と翁だけはどうにもならんと思ったが、浦島太郎の狂気的な戦闘執念がしばし魂をあの戦いだらけの世界に勝手に留まらせ、翁には何か外部から月光のような神秘的な力が働いて魂を保護されていたみたいだ。やれやれ、チートってヤツはどうも俺達だけじゃないらしい」
シンデレラもまた、一人自虐的に苦笑した。
桃太郎との最後の戦いの前、この男は確かに言っていた。
──『やれやれ不可能だな、お前一人で神を倒すことなど』──
お前一人。
桃太郎の中では既に出来上がっていたのだ。
一人では敵わないであろう相手に、全員で挑むプランが。
──『一人なんかじゃないわ、私には今、本当に沢山の人たちの力と想いが宿っている』──
──『やれやれ、わからないか?』──
桃太郎は自分に気付かせようとしていた。
自分がそこでその意図に気付いていれば、33人の中でも最強を誇るこの男を無駄に消耗させる事もなかっただろうに。
桃太郎の一通りの説明を聞き、女神は肩を震わせながら起き上がった。
「ふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
女神は立ち上がると、そのまま身体をふわりと宙に浮かせた。
33人全員が身構える。
「言いたい放題やりたい放題やってくれるじゃあないかお前達……私のゲームを裏から操っていた、だと? 人間風情が舐めたマネをしてくれたものだ……いいだろう!」
女神が頭上に右手を上げる。
その手の先で、時空が歪む。
「お前達、覚えていないようだな? お前たちが最初、どうやってこの世界に連れてこられたのか……」
歪んだ時空に禍々しい気配が漂ってくる。
「あらゆる世界を創造し、あらゆる生命の輪廻転生をも司るのがこの私、『絶対神アスタリート』だ。下等な存在にしては上質なほうのお前らを瞬時にこの世界まで連れてきた私の奥義、今一度みせてやろう……!」
女神アスタリートの後ろで、時空の歪みが更に大きくなる。
「そして今度は! その魂を粉々に砕いて時空の果てにばらまいてやる! 喰らうがいいッ!」
女神アスタリートが手を振り下ろした。
それと同時に時空の歪みから現れたのは、巨大な鉄の塊。
「【異世界輸送貨物自動車】ッ!!」
幾多の者達を殺害し異世界へと強制転生させた巨大なトラックが、33人を目掛けて発射された。