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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・42話

 再度出現した触れれば即死の【次元捕食網(じげんほしょくもう)】。

 しかし不幸中の幸いにも、ソレが雪女達を呑み込むまでまだ時間はある。

 雪女はできる限り冷静になるように務め、現状の把握を続けた。


「……つまり鶴、お前でもコレの解除は出来ん、という事か。防御はどうだ?」


「不可能ですわね……【次元捕食網(じげんほしょくもう)】の防御には、時空成分を分析して、自身の身体や周辺の空間をそれに合わせる必要があります」


「簡単に言うと?」


「自分で発生させた技であればいざ知らず、今迫ってきている【次元捕食網(じげんほしょくもう)】はもはや桃太郎様の技。わたくしには防げません」


 

 解除は不可能。防御も不可能。

 ならば残る可能性は、回避。


 迫りくるは隙間一つ無い即死の網。

 それをくぐり抜ける方法を、氷のように冷静な頭脳で即座に考えつき、実行を決断。グレーテルの方へチラリと目を向けた。

 グレーテルもまたその視線の意味を自分なりに解釈。両手でガッツポーズを取りながら口を開く。


「わ、私が今すぐ空間まほーに目覚めて、皆で脱出すればいいのね! がんばる!」


 グレーテルはそう言って頭に指を当てながらウンウンと悩み始める。

 そんなグレーテルにフッと微笑み、今度は鶴の方へ視線を戻した。

 鶴は、雪女の気持ちを完全に理解していた。そして雪女と同じように微笑む。


「ええ、よろしいですわよ雪女様。わたくしの命に情けをかけ、更に洗脳を解いて下さった貴女が望むなら、そのご恩をお返し致しましょう」


 鶴の言葉を聞き、雪女はその場で一度だけ大きく背伸びをした。

 背伸びを終え、口を開く。


「もういいグレーテル、こっちに来なさい」


 雪女の言葉に、呆けながら顔を上げるグレーテル。

 そして言われるがまま、トテトテと雪女のほうへ近づいた。


 雪女は、そんなグレーテルの頭に手を置くと優しく撫でる。


「よく聞けグレーテル、今から私と鶴が協力する事でここから出る。お前はその能力(ちから)に身を任せなさい」


 雪女の言葉に、グレーテルはパッと目を輝かせて大きく頷いた。


「うん! どうやって出るの? お姉ちゃん」


 グレーテルは方法を問いただす。

 その問いに、雪女はニコニコと答えた。


「あぁ、簡単な事だ。さっき見た通り、鶴は空間魔法の扱いに長けている。まずはその空間魔法で少し時空に穴を開ける。【次元捕食網(じげんほしょくもう)】のように相手を攻撃するような雑なものじゃダメだから、穴は小さくて不安定なものになってしまうだろう。しかも次元の穴なんてものは本来常人が入れるものじゃあない。準備も無しに入ればたちまち身体はバラバラになってしまう」


 そこで雪女は着物の裾を捲り上げ、華奢な腕で力こぶをつくる動作をした。


「しかしかぶを食べて元気モリモリの私の冷気も強力だ。私の力でその穴を凍らせて停止させる。その隙に、まずは天使の(機動力)と悪魔のレオタード(耐久性)があるお前が抜けるって算段だな。流石にこの世界までは抜けれない。精々が【次元捕食網(じげんほしょくもう)】の外に出る程度だろうな」


 グレーテルはその言葉をしっかり聞いた。

 話の内容と雪女のやけに優しすぎる態度に、何故だか心が少しざわついた。 


「『まずは』私なんだよね? それで、その後お姉ちゃん達はどうやって出るの?」


 その言葉に、雪女ははにかみながら頭を掻いた。

 鶴もやや困った笑顔を見せながら裾で口を覆っている。


「なあグレーテル、短い間だったけど私は楽しかったぞ? 周囲と殺し合うしかないと思ってた、このとんでもない世界でお前に出会えて。……お前は綺麗な顔立ちをしているな、これは将来美人になる。私が保証しよう」


 問いかけに対して全く関係のないはぐらかした回答。

 そんな雪女の対応に、グレーテルの中で嫌な予感が加速する。


「そうだ、そんなお前にプレゼントだ。天使の力がお前に移った(・・・)んだよな? それに一緒にかぶを食べた私達はとても波長が合うはずだ」


 言いながら雪女は、撫でているグレーテルの頭に、手を通して冷気を送る。

 冷気であるはずなのに、それはどこか暖かい力だった。


「グレーテル様、突然襲ってしまってごめんなさいね。貴女に天使や悪魔の力があるのなら、彼らが得意とする空間魔法もわたくしから分け与える事が出来そうですわ」


 鶴はグレーテルの手を取り、懐から出した糸をグレーテルの腕に巻き付けた。

 そこから紫色の小さな魔法陣が浮かび上がり、雪女と同じように暖かい何かをグレーテルの身体の中に送った。


 幼く思慮の浅いグレーテルにも、流石にそれらの意味がわかってしまった。首を横に振りながら雪女と鶴の顔を交互に見る。


「イヤだ、イヤだよ? 一緒に帰ろうって言ったじゃん。お姉ちゃんさっき、『まずはお前から』って言ったよね? みんなで出ようよ、私、頑張るから……」


 グレーテルは二人から後ずさり、逃げるように後ろを向いてうずくまった。

 再び頭に指を当てウンウンと悩むような作業に戻る。


 そんなグレーテルに対して、雪女は膝をつき背後から優しく抱き締めた。


「私達の力は貴女に分け与えられた。私達はいつでも貴女のそばにいるから、何も怖い事なんてない。良い子だから言う事を聞きなさい? ね?」


 グレーテルの瞳から、涙が溢れ出る。

 かぶを食べながら話をしていた時、グレーテルは雪女の話にイヤだと言った。言い続けた。ついさっきも言った。今でも言いたい。言って雪女の手を振りほどきたい。

 しかし、もうそれ以上は言わなかった。

 自分の死が恐いのではない。

 雪女達の最期の想いを、自分の我儘なんかで無駄になんて、出来るわけが無かったのだ。


 【次元捕食網(じげんほしょくもう)】はもうすぐそこまで来ている。

 あと数分も待たずに、この辺り全ては異空間に呑み込まれてしまうだろう。

 グレーテルは瞳に涙を貯めて振り返り、雪女を見上げる。

 雪女は微笑んでいた。

 優しく優しく微笑んでいた。

 グレーテルは涙を振り切り、わざと覚悟を決めたような目を雪女に向け直す。

 その顔を見て、雪女は再び満身の笑みを見せた。


「うん! 良い子だ!」


 もう本当に時間が無いのだろう。

 雪女の後ろで、鶴が髪を逆立てる程のエネルギーを迸らせ、ある一点に集中して口を開いた。


「【時空開口(じくうかいこう)】……!」


 鶴の言葉と共に、目の前の空間に小さな穴が空いた。

 子供が一人入れるかどうかの小さな穴。

 穴の奥は何やらぐにゃぐにゃ曲がりくねっており、その穴自体も歪んでいる。

 その穴の両端に、雪女が手をかける。


「【次元凍結抱擁ベッドインコキュートス】ッ!!」


 穴の歪みが固まった。

 しかし、その大いなる時空の力が触れている雪女にも影響を及ぼしているのだろう。

 穴の代わりに、雪女の腕がぐにゃぐにゃと揺れ始めた。


「……さぁ行きなさいグレーテル、チョコばかりじゃなくて色々な物を好き嫌いせずに食べるんだよ?」


 鶴は真剣な表情で穴を開き続けている。

 雪女は笑顔をつくりながら、多分に汗を垂らしている。


「鶴さんありがとう! ……お姉ちゃん、私も、私も本当に楽しかった! お姉ちゃんに会えて、嬉しかった!!」


 再び涙を溢れさせながら、グレーテルは二人に向かって叫んだ。そして真っ直ぐ穴に飛び込む。


 黒いレオタードを纏い、純白の翼で異空間を飛びさっていく後ろ姿を見送って、鶴と雪女はその場にヘタりこんだ。

 それと同時に時空の穴も姿を消す。


「雪女様、貴女はお名前とお顔に似合わず、お心は暖かい方なのですね?」


「顔は余計だ顔は。……こんな時によく嫌味を言えるな」


「これでご恩は返しましたもの、少しくらいよろしいではありませんか」


「あーはいはい、馴れ馴れしいヤツめ……そういや最初にお前、私に話が弾みそうな相手だ、とか言ってたな」


「ええ、住んでいた時空は違うかも知れませんけれど、姿格好を見る限り、出身が同じ国の同じ地方のようですものね? 何からお話致しましょう?」


「……そうだな、それじゃあ──」


 笑顔で雑談に取りかかる二人の着物和風美人。


 さほど時間をおかず、全方位から迫っていた【次元捕食網(じげんほしょくもう)】が、完全に縮みきった。

 役目を終えたその技は、跡形もなく完全に姿を消す。


 そして辺りの森一帯が地面ごと無くなった、摩訶不思議な風景だけがそこに残った。






『鶴』────死亡

『雪女』────死亡

 残り────4名

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