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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・桃太郎

 むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に向かいます。


 おばあさんが川で洗濯をしていると川上から大きな桃がどんぶらこっこどんぶらっこと流れてきました。

 おばあさんは大きな桃を拾い上げ家まで持って帰り、おじいさんにその出来事を話します。


 その夜二人が桃を切ってみた所、なんと桃の中から元気な男の子が出て来たではありませんか。

 おじいさんとおばあさんは大層よろこんで、その男の子に『桃太郎』と名付け育てる事にしました。


 桃太郎が立派に育った15歳の誕生日、桃太郎はおじいさんとおばあさんに言いました。


「父上、母上、鬼が島に住む悪い鬼の手により近隣の村々は甚大な被害を受けていると聞いた。ここまで育ててくれた礼だ、俺がその鬼共を退治してくる」


 おじいさんとおばあさんはその話を聞くと、おじいさんは立派な刀を、おばあさんは黍団子(きびだんご)をそれぞれ用意し桃太郎に渡し、見送りました。






 旅に出てから数日。

 とある廃墟を酷い大雨の中歩いていると、路地裏に人が倒れているのが目に入った。

 なんだ、あれは? ……遠目でよく見えないが、女の子?

 俺はそちらに早足で近づく。

 雨に打たれながら倒れていたのは全身が汚れた長い白髪の小さな女の子。

 それを見下ろしながら、俺は悟った。

 自分が如何に恵まれた環境で育ってきたのかを。

 村の外を一歩出れば、こんな小さな女の子が行き倒れなければならない現実を。

 

「おい、しっかりしろ!」


 俺はその場にしゃがみこみ倒れている女の子に声をかける。


「ぅ……」


 相手の目が薄く開かれ、声をかけた俺のほうを見返してくる。

 全てに絶望したような濁った眼。一切の光を宿さない絶望の瞳。

 よくみると女の子の格好は薄汚れているだけでなく、頬までコケ痩せ細り、至るところが細かい傷だらけ。

 ……住む場所も食うものもない中、今まで必死に生きてきたがとうとう力尽きた所だったのだろう。


 俺は腰袋から黍団子を1つ取り出すと、倒れている女の子の口に無理矢理押し込んだ。


「……! ん! んん~!」


 黍団子を食わされた女の子は突然の事に目を見開き、声をあげる。

 そしてその黍団子が女の子の喉を通った時、女の子の瞳が驚きと共に光に満ち、痩せ細った肌はみるみる内にみずみずしい弾力を放ち、薄汚れた白髪は誰もが見惚れる美しく滑らかな髪に変わる。更に全身にあった細かい傷も瞬く間に塞がった。


 女の子はガバッと起き上がると信じられないような顔をしながら自身の身体を見下ろしている。

 やれやれ何をそんなに驚いているんだか。おばあさんの黍団子を食えばこの程度の衰弱ならば全回復は当たり前なんだがな。

 しかしこれほど変わるとは、みすぼらしいと思ったが元は逸材のようだ。これなら誰もが振り替える美少女といっても過言ではないだろう。


「凄い……もう死んじゃうかと思っていたのに……あ、あの……貴方は……?」


「俺の名は桃太郎、これから鬼ヶ島の鬼どもを懲らしめに行く者だ」


「わ、私犬子っていいます! 桃太郎さま! 助けて頂いてありがとうございます! 是非私もお供させてください!」


 やれやれ、回復力したとたん元気な娘だ。しかしまさかお供とはな、そんなつもりじゃあなかったんだがな、やれやれ。






 犬子を連れて再び旅を続けて数日。

 俺達はデカイ街にたどり着いた。人々の賑わう声が聞こえる中、俺は村には決してなかった場所で足を止める。


「奴隷市場、だと?」


 俺の言葉に犬子はキョトンとした顔で俺を見上げてきた。


「どうしたんですか桃太郎さま、奴隷をお探しですか? 何かしてほしい事があるなら、わ、私でよければ何でも!」


 突然胸に手を当て慌てながら言ってくる犬子。

 やれやれ、何を言っているんだお前は。


「いや、こんな所があるなんて知らなかったものでな。俺の住む村は人々に格差などなかった」


「ほぇ~、桃太郎さまは平和な所で暮らされていたんですね~、あ! だからとっても優しい心もお持ちなんですね! 流石は桃太郎さんです!」


 突然俺を褒め出す犬子を尻目に、1人の奴隷が目に止まる。

 歳は犬子と同程度だろうか、茶色の短髪の少女が虚ろな目をしながら鎖に縛られている。

 ────その眼は、数日前の犬子を彷彿させた。

 こんな商売がまかり通る世の中など絶対に間違っている。

 しかし、奴らもあくまで合法で行っているため口出しはできない。

 それならば、全うに買い付けてやるだけだ。


「おい親父! そこの奴隷をくれ!」


「おぉ兄ちゃん、御目が高いねぇ! しかしコイツは逸材だ、500万円になるがすぐに払えるのかい?」


 店主が俺の格好を頭から足元までジロジロみながら疑わしげに言ってくる。若く金持ちでもなさそうな俺に経済能力がないと思っているのだろう。


「残念だが金はない。代わりにコイツでどうだ?」 


 俺はそう言って腰袋から黍団子を1つ取りだし、店主の前においた。

 

「あぁん? なんだそりゃ金がねぇなら冷やかしは止めな! さぁ帰った帰っ……」


 そこで店主はハッとした顔をし、慌てて黍団子を手にとった。


「こ、これは……まさかこんな物か……」


「これでは不足か?」


「い、いやとんでもねぇ! すまねぇ旦那、失礼しやした!」


「釣りはいらん。あの子を貰っていくぞ」


「へへっ! 毎度!」


 店主は態度を一転させ揉み手をしながら少女の入った檻を開ける。

 俺はその茶髪の少女と犬子を連れ、無言で場を後にした。


 少女は俺に買われた後も、魂が抜けたような、人生を諦めた目をしたまま素直に俺に着いてくる。

 人気のない場所までたどり着くと、少女の鎖を外し口を開く。


「さあこれでお前は自由だ、どこへなり行くがいい」


「え……?」


 俺のその言葉に少女は間の抜けた声を出しながら俺を見上げた。


「もう自由だ、と言ったんだが?」


「どうして……?」


 困惑の言葉が口から漏れる。やれやれ、さっさとどこにでも行けばいいものを。既に奴隷としての悲惨な人生を覚悟していたんだろう可愛そうに。


「お前の眼が、出会った時のそこの犬子と同じ目をしていた。それで気紛れで助けたやっただけだ」


「そ、それであんな高価な物をあたしのために……?」


 少女は少しその場で考え込んだ。

 そして顔をあげると、先程とはうって変わって真っ直ぐな瞳で俺を見つめ、口を開いた。


「いいえご主人様! あたしは貴方に買われたのです! あたしは猿美と言います! 奴隷として貴方の手足となりましょう! どうかお供させてください!」


 やれやれ、こう言われては断る訳にもいくまい。美少女のお供が二人になってしまったな、やれやれ。






 犬子と猿美を連れ、再び歩く事数日。

 とある吊り橋の下を通るとき、吊り橋の上からバリバリと音が聞こえた。

 俺はすかさず上を向くと、なんと壊れた瞬間の吊り橋が目にはいる。

 そしてその吊り橋から1つの人影が俺めがけて降ってきた。


 俺はすかさず腰袋から黍団子を取りだし、頭上に掲げた。

 すると黍団子はあっという間に巨大化し、俺達に対しては盾となり吊り橋の残骸から守り、落ちてきた人影に対してはクッションとなり落下の衝撃から守った。


 残骸の落下音が修まる頃、巨大化した黍団子を地面に置くと俺達はその黍団子をよじ登った。

 そして落ちてきた人影を3人でみやると、そこには翠色のツインテールの少女が目を回しながら巨大黍団子に下半身をハマらせていた。


 俺達がその子に近づくとハッとして気がつき、こちらを見つめ返してきた。


「あ、あの、ボク、吊り橋渡ってたら、吊り橋壊れちゃって、ええとボクが重くて壊れたわけじゃなくて、元々吊り橋がオンボロで……」


 突然顔を真っ赤にさせながらなにやら言い訳してくる少女。

 どうでもいいが半身が黍団子に埋まったまま手をブンブン振る様はすげーシュールだぞ。

 俺はその少女の訴えはとりあえず無視し、脇を持って引っ張る事でズボッという音と共に少女を黍団子から引っこ抜いた。


「あ、ありがと……ボク、雉江っていいます……」


「俺は桃太郎だ、落ちて死にかけたというのに抜けた奴だな」


「う、うん……」


 う、うん、って本当にわかっているのかコイツは。

 俺は持ち上げた雉江を降ろすとやれやれとため息をつく。


「じゃあ俺達はもう行くぞ、鬼ヶ島に鬼退治に向かう途中だったんでな」


「うん……」


 俺達は黍団子から飛び降りると、再び歩きだした。

 そしてその時、俺の中で少しだけ悪戯心が芽生え、少し足を止める。


「吊り橋を重みで壊す少女、か……」


 一言そう呟き止めた足を進めさせると、後ろから雉江が大急ぎで追いかけてきた。


「ま、待ってよモモタロさん! ボクも鬼退治手伝うからそれ黙っておいてよ~!」


 やれやれ、まったくやれやれだ、やれやれ。





 こうして三人の美少女を仲間にした俺は、巨大化させた黍団子を船にし鬼ヶ島に到着した。

 

 鬼達の住む城の門までたどり着くが、その大きな門は固く閉ざされたまま開かない。

 そこで猿美が無い胸を張り笑顔で鼻息を鳴らす。


「ここはあたしが開けて来ますねご主人様!」


 そういって猿美は忍者のごとき動きで垂直にそびえ立つ門を走るように駆け上がり、その内側に飛び降りる。


「【開錠(アンロック)】」


 猿美の呪文と共に大きな門が音を立てて開かれる。

 やれやれ、その魔法があるなら内側に入る必要もないんじゃないか猿美。


 そんな疑問はさておき。俺たちが門の中に入ると人の倍ほどの大きさを持つ筋肉隆々の男達、鬼ヶ島に住まう鬼たちが一斉にこちらに襲いかかってきた。

 そこで雉江が俺の一歩前に出る。


「雑魚共はボクに任せてねモモタロさん! その代わりちゃんとあの事はナイショにしてね! 【嘴乱れ撃ち(ウインドバルカン)】!」


 雉江の呪文と共に前方に無数の刃が展開され、その一つ一つが鬼たちの両目を正確に抉る。

 やれやれ、俺が出るまでもなく鬼たちを全滅させるとは流石は雉江だ。

 

 悲鳴をあげながらのたうち回る中、犬子が俺に話しかけてきた。


「桃太郎さま! 私の【財宝嗅覚(トレジャーサーチ)】があちらの方角に反応しています! きっと鬼の親分はそちらにいます!」


 やれやれ、お前の活躍だけなんかセコくないか犬子。

 

 こうして犬子のいう通りの方角へ足を運ぶ俺達。

 数分歩くと、そこには他の鬼たちよりも更に二回りは大きい凶悪な顔をした漆黒の鬼が佇んでいた。


「生意気な小僧共め! 俺様が懲らしめてやろう!」


 漆黒の鬼は大木の幹ほどの太さがある巨大な金棒を担ぎ上げる。

 やれやれ、デカければいいってもんじゃあないぞ、戦いってものはスマートに決めなければならないからな。

 そこで俺はおじいさんから譲り受けた刀を抜刀する。


「ソレは……神刀『草薙正宗菊一文字くさなぎまさむねきくいちもんじ』……貴様のようなガキがなぜソレを持っている!?」


 俺の刀をみて鬼が驚愕する。

 なるほど、鬼をもビビらせる名刀だったか。おじいさん行く前に教えてくれ。


「だが! いくら武器が強かろうと使い手が貴様ではただのナマクラよッ! ひねり潰してくれるッ!!」


 鬼はそう言いながら手にした金棒を俺に向かって思い切り振りおろした!

 しかしそれよりも早く、俺は空いた左手で腰から黍団子を取り出し、鬼に向かって投げつけながら叫ぶ!


「【黍団子爆弾ディスティニーエクスプロージョン】ッ!!」


 黍団子は鬼に当たった瞬間大爆発を起こし、鬼の上半身を消し飛ばした。


 こうして鬼達を見事退治した俺達は、残党狩りついでに【黍団子怪光線(ディスティニービーム)】で鬼ヶ島を焼野原にし、鬼達の持つ財宝と一緒に【黍団子転移(ディスティニーワープ)】で村に帰り、三人の美少女達を嫁にして幸せに暮らしましたとさ。



 やれやれやれやれ。


 間違えた。



 めでたしめでたし。

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バトルロワイヤル読んでから来たけど、ちょっと思ってたんと違った。 チート主人公みたいなことしてたんか。あんな策略巡らしてたのに
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