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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・39話

 グレーテルと共に森を歩く雪女。しかしある境にふとした事に気がついた。


「私の冷気に何かが触れて、いる……?」


 鶴が張り巡らせた糸に掛かった相手を感知するように、雪女もまた周囲に生み出した冷気の温度差で周辺への異変を感じ取っていたのだ。

 呟き立ち止まる雪女に、グレーテルが首をかしげて話しかける。


「どうしたの? お姉ちゃん」


「……お前が最初に私の冷気に触れてすぐに、私の【美麗圧縮冷気(オーロラランジェリー)】を見てビックリしただろう、あれは私の冷気にお前が触れた事がわかったから展開したものだ。今回、似たような事が起こっている」


 雪女は敢えて『同じ事』ではなく『似たような事』と表現した。

 侵入者がいるのであれば、相手の体温で大体の大きさや強さも把握できる。しかし今回、雪女が生み出した冷気(テリトリー)の端で、温度が消えた(・・・)のだ。


(温度が消える? そう表現するしかない……なんだこの感覚は? 何が起こっている?)


 雪女の疑問を余所に、その不可解な範囲はドンドン大きくなりこちらに近づいて来ている。


「【美麗圧縮冷気(オーロラランジェリー)】」


 雪女はその周辺に高密度の冷気を生み出し迫る何かを迎撃しようと試みた。

 しかし、生み出したばかりの【美麗圧縮冷気(オーロラランジェリー)】もまたすぐにかき消されてしまった。


「グレーテル、これは何かがマズイ! 進路を変えるぞ!」


「え? う、うん!」


 そう言って迫る何かから距離をとろうとする雪女とグレーテル。

 しかし、その先に回り込むように一つの人影が木の上に姿を現した。


「流石はここまで生き延びた方々。危機察知能力は一流ですわね」


 姿を見せたその相手は、ゲーム参加者の一人、鶴。

 雪女とよく似た白い着物を纏い、可愛らしくも凛とした瞳でこちらを見下ろしている。


「……お前も、私に気づかれる事なくここまで接近するとはやるじゃあないか」


 元々雪国出身の鶴は寒さ関係には慣れており、桃太郎の【黍団子調教(ディスティニーテイム)】の能力増強効果も合わさって、気配を完全に冷気と一致させながら雪女たちの退路方向へ回っていたのだ。


「お褒め頂き光栄であります雪女様。貴女の事は『中央世界』で私とよく似た姿の方がおられると、最初から少し気にしておりましたの」


 人魚姫との戦いの前、鶴の姿形にカモフラージュしていた雪女もそれは同様。

 雪女は苦笑いをしながら枝の上に立つ鶴を見上げる。


「中々お話の弾みそうなお相手ではありますが、このデスゲームの悲しき運命(さだめ)。お二人にはここで死んでいただきます故」


 鶴はそう言いながら着物の裾から何かを飛ばした。

 それは無数の白い鳥の羽。高速で飛来するソレらに対し雪女が叫ぶ。


「【冷凍障壁(フリージングドレス)】!」


 次の瞬間、雪女の正面に氷の結界が出現。迫る羽【冷凍障壁(フリージングドレス)】に当たるとことごとく弾かれ地面に落ちた。


「やりますわね、ではこれはどうですか?」


 鶴の言葉に呼応するように、正面からだけではなく四方八方から白い羽が襲来。

 雪女がソレを迎撃しようとした時、今度は隣のグレーテルが叫んだ。


「【天使乃座布団(エンゼルパイ)】!」


 グレーテルが背中につける純白の翼が輝いたかとおもうと、それらが大きく膨れ上がりグレーテル自身と雪女を包み込む。


「おわっぷ!?」


 予想していなかった事に雪女は呑まれながら叫びを上げた。

 その一瞬後に降りかかる白羽の雨が【天使乃座布団(エンゼルパイ)】に次々と命中!

 しかしその鋭い攻撃を、弾力性のあるクッションのように全てポヨンと跳ね返した。

 これは本来グレーテルの力ではない。織姫と彦星戦で起こった大爆発の際、ヘンゼルが死して尚グレーテルを守り、グレーテルに授けた能力(ちから)。翼で宙を飛ぶだけでなく、必要に応じて様々な形に変化させる事が出来るのだ。


「私だっているんだから!」


 グレーテルが叫びながらビシッと鶴に指を突き付ける。

 その横で、その巨大クッションから何とかはい出る雪女。何とも複雑な表情を浮かべながら雪女も鶴の方へ視線を戻し、どこか八つ当たりするように鶴に向かって氷の息吹を噴き出した。


「【氷結息吹(アイシクルキッス)】!」


 息吹は鶴の眼前に迫る。が、そこにも何か結界のようなものがあるようで、【氷結息吹(アイシクルキッス)】はかき消されるように霧散する。


「互いに遠距離戦では大した事は出来んようだな」


 雪女は相手に接近するべく思考を深めた。そこで鶴が声を上げる。


「そうですわね、しかしそれこそがわたくしの狙い」


 そこで雪女はハッとした。

 鶴との戦闘で思わず忘れていたが、自分たちの背後から何か不可思議な現象が迫ってきている。

 つまり、鶴の攻撃はソレ(・・)が来るまでの時間稼ぎに過ぎなかったのだ。そしてソレは、今まさに接近を完了させる。

 

「【次元捕食網(じげんほしょくもう)】、呑まれて下さいましお二方」



 森の草木も地面さえも、音もなく消滅させながら二人に迫る、黍団子の力を借りた鶴の奥義。

 姿を現したのは、綺麗に綿密に、そして広範囲に紡がれた極細い糸。

 鶴の魔力を込められながら一定の間隔で紡がれたその糸は、触れたものを異空間に呑みこみ賽の目に切断する強固で巨大な網となっていたのだ。

 その網に触れたが最期、肉体や能力の物理的防御力など関係なく森の草木同様、完全に消滅させられてしまうだろう。


 広範囲且つ高速で迫る一撃必殺。その攻撃に対し雪女は、グレーテルの襟首を掴むと鶴の方角へ思いっきり駆けた。

 鶴は逃すまいと手をかざし、再び無数の白羽を発射する。


「【氷界演舞(アイジングローション)】ッ!」


 雪女が足を踏み込んだ先に、薄く美しい氷の膜が出現した。

 雪女はその膜をスケートのように滑ることで【次元捕食網(じげんほしょくもう)】が迫る以上の速度を出し振り切ろうとする。


「え、【天使乃座布団(エンゼルパイ)】!」


 迫る白羽に対してはグレーテルが再び翼をクッションにする事で防御。

 雪女の身体が前に進むたびにその足元から氷の膜が更に生み出され、雪女が進む先に氷のコースが広がるように現れる。


 鶴から見て、あっという間に通り過ぎ去っていく二人とそれを追うように進む【次元捕食網(じげんほしょくもう)】。

 この網が通った後、鶴自身及び鶴が立っている一本の木とそれを支える地面の一部を残して、全てが消滅する。


「……逃がすものですか」


 去り行く二人を視線で追いながら、鶴もまた行動に移した。

 鶴がやや腰を落としたと思ったら、その姿は衣服のみを残して消えてしまう。

 そして脱ぎ去られた着物から飛び出すは、グレーテルにも劣らない純白の翼を持った華麗な一羽の鳥。

 雪女達を追って、鶴は大きく飛翔した。

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