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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・35話

 森の中を進むシンデレラといばら姫。

 神速無双の体術を誇るシンデレラと、千近い能力(スキル)を幼い身一つで扱ういばら姫であったが、その二人でもこの出来事に対しては戦慄せざるを得なかった。

 はるか前方上空に、突如巨大な化け物が現れたかと思えばその化け物は明らかにこちらの位置がわかっているように襲い掛かってきたのだ。


 その化け物の正体は先程桃太郎から与えられた黍団子を食らい殺神生物兵器(テュポーン)へと姿を変えた、ゲーム参加者の一人『犬』。

 ゲーム参加者として十二分な身体能力が変身効果により更に跳ね上がり、巨体による威圧(プレッシャー)と合わさって瞬く間にシンデレラ達の元にたどり着く。

 そしてその勢いのまま、殺神生物兵器()は剛腕を二人に向かって降り下ろした。


 一撃で地形を変える拳を、シンデレラはいばら姫を背負ったまま大きく跳んで回避。

 しかし降り下ろしにより発生した風圧だけで宙に浮いたシンデレラ達はバランスを大きく崩す。


「はぁッ!」

「【茨式光線(ローズビーム)】!!」


 それでも二人は空中から殺神生物兵器()へ反撃を試みた。

 シンデレラは足を大きく振るう事でカマイタチを生み出し、いばら姫は操る茨から熱線を発射する。それらの攻撃は全て殺神生物兵器()に命中。


「小蝿が……」


 しかし、それらは殺神生物兵器()に全く効いていなかった。

 殺神生物兵器()は上空のシンデレラ達をギロリと睨み付けながら、今度は下半身である蛇の尻尾を大きく振るった。それが空中で身動きの取れないシンデレラ達を襲う!


「【茨式魔障壁(ローズバリアー)】!!」


 巨大な尾が二人に当たる一瞬前に、いばら姫が防御結界を周囲に貼った。

 それは驚異的な齧歯力を誇るチュー子ですら破る事が出来なかった、いばら姫最大の防御壁!

 ───しかし殺神生物兵器()の一撃はその結界を容易く撃ち破り、シンデレラ達を大きくなぎ払う。その攻撃により二人の姫はバラバラに地面に落ちた。


 破壊されたとはいえ【茨式魔障壁(ローズバリアー)】が多少はクッションの役割を果たしたのだろう。幸運にも、あるいは不運にも一撃で致命傷になる事はなかった。

 地面に転がった二人は痛む身体を無理矢理起こし、巨大で強大な殺神生物兵器()を見上げる。


「ほう、まだ息があるか。グハハハハ! さて、貴様らの肉、どちらから喰らってほしい?」


 殺神生物兵器()が笑いながら文字通り二人を見下す。

 そんな下卑た笑いを聞きながら、シンデレラが立ち上がった。

 驚異的な身体能力を誇るシンデレラは、あの一撃を喰らって尚、完璧な受け身をとっていたのだろう。ドレスについた土を払いながら、キッと殺神生物兵器()を睨む。


「こっちよ」


 次の瞬間、シンデレラの姿が消えた。

 そう思えるほどに(はや)殺神生物兵器()の懐に潜り込んだシンデレラ。


「はああああああああああああぁッ!!」


 そのまま金太郎を葬った猛ラッシュを殺神生物兵器()の身体に叩き込む。

 が、


「こちょばゆいな」


 やはりこの巨体には通じない。

 次にシンデレラは多方向に散らばる残像を生み出した。

 突如現れた複数の残像を反射的に目で追おうと、殺神生物兵器()はキョロキョロと視線を左右に動かす。

 その隙に、シンデレラは殺神生物兵器()の眼前まで跳んでいた。


「たあああぁッ!!」


 そして繰り出す渾身のキック。狙いは生物にとって等しき急所、眼!


「ふんっ」


 殺神生物兵器()は鼻で笑う。

 シンデレラの一撃は完璧に殺神生物兵器()の右目を捉えていた。

 だがその攻撃でさえも殺神生物兵器()の眼球の膜に、何と傷一つつける事すら出来なかったのだ。


 それでもシンデレラは諦めない。

 再び神速の動きで姿を消し、今度は殺神生物兵器()の背後に回る。


「あまりいつまでも夢を見るなよ?」


 その言葉と共に、今度は殺神生物兵器()の巨体が突如消えた。

 不可視の能力、ではない。

 殺神生物兵器()の背中にぶつけようとしていたシンデレラの一撃が、虚しく空を切ったのだ。


「!?!?」


 あり得ない事態にシンデレラは混乱を極める。

 不可視でなければその身体を風にでも変化させたのか? そう思った時、いばら姫が声をあげた。


「シンデレラ! 後ろ!」


 殺神生物兵器()はどうやったのか、いつの間にかシンデレラの背後に回り込んでいたのだ。

 いばら姫の声を聞いたシンデレラはすぐに背後から攻撃がくると察し、後ろを振り返る事なく前方に駆けた。

 一瞬後、降り下ろされる殺神生物兵器()の剛腕。

 シンデレラは間一髪直撃を避ける事には成功した。が、それでも回避方向が悪かった。

 大振りの一撃から発生する衝撃波がそのままシンデレラに命中。シンデレラはいばら姫のすぐ近くまで吹き飛ばされ、その身体は再び地面に転がった。


「うぅ……一体、なにが起こったというの……?」


 シンデレラの言葉に、遠方から起こった出来事を把握していたいばら姫は反射的に目を反らす。

 そんないばら姫の代わりに答えるように、殺神生物兵器()がニタニタ笑いながら口を開いた。


「なんて事はない。小娘貴様、スピードには多少自信があるようだな? だが、それも精々が我と五分だったというだけだ」


 その言葉に、シンデレラの背筋が凍った。

 重なるダメージにより立ち上がる事すら一苦労の状態。しかし、それ以上に確信してしまったのだ。


 ────この相手には、どうやっても敵わない。

 ────この相手からは、どうやっても逃げられない。


 『殺神生物兵器(テュポーン)』。ソレは神話史上最大最悪最強の怪物。

 通常のソレが相手であれば、規格外(チート)且つ主人公(特別)であるゲーム参加者達にならば討ち取る事が可能な相手なのかも知れない。

 しかし、相対している殺神生物兵器()もまた、シンデレラ達同様一つの物語の主人公。

 最悪最強(怪物)でありながら規格外(チート)且つ主人公(特別)である殺神生物兵器()は今この瞬間、各々の世界で百戦錬磨を誇る他のゲーム参加者にすら追随を許さない圧倒的な存在として、若く可憐な二人の姫君の前に立ち塞がる!


 シンデレラは起こしかけていた膝をその場でついた。そして顔も下に下ろす。

 そんなシンデレラの元へ、絶望の権化たる殺神生物兵器()がゆっくりと近づいてくる。


「立ってシンデレラ」


 その時、今度はいばら姫が立ち上がった。

 シンデレラは真っ青になった表情のまま、いばら姫を見上げる。

 肉体へのダメージにより足は震えているものの、その闘志は折れていない事が瞳の色でわかった。


「化け物、今度は私が相手をするわ」


 多種多様の能力(スキル)を保有するいばら姫ではあるが、総合戦闘力ではシンデレラより劣る。

 シンデレラですら赤子同然のようにあしらった殺神生物兵器()に対して、一体彼女に何が出来るというのか。


「さぁ立ってシンデレラ、そして一つだけお願いを聞いてほしいの」


 いばら姫は優しく微笑みながらそう言った。

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