チート・ザ・33話
相も変わらず一つのディスプレイだけが光を放つ闇の空間『中央世界』。
「ふふっ! あははははははははははははははははっ!!」
その唯一の光を眺めながら女は独り、愉快に笑う。
「まさか! まさかまさか! 一人もしくは同じ世界の一チームしか生き残れないこのゲームで! ここにきて四つの勢力に分かれるなんてな!」
よほど可笑しな事だったのだろう。
左手で腹を抱え、右手で額を覆い、笑いすぎたその目には涙が滲んでいる。
「さぁてこの4チーム、一体どんな戦いをしてどんな結果を見せてくれるかな??」
その時、暗闇の空間に更に複数のディスプレイが起動しだし、それぞれが明かりをつけだした。
そちらには各参加者が一画面につき一人ずつ映っている。
全部で33の画面があるようだが、そのうち明かりがついているのは13個だけのようだ。
女は最初からついている画面にまとめた四つのデータと今ついた大量の画面を照らし合わせながら、大きな独り言を盛大に続ける。
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○チーム1
・白雪姫
・長男ぶた
・次男ぶた
・末っ子ぶた
・幸せの王子
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白雪姫達が映る画面は、どうやら建物の中のようだ。
白雪姫と幸せの王子がテーブル越しに対面しながら椅子に腰をかけ、その前には紅茶かなにかの飲み物も置かれている。
長男ぶた、次男ぶた、末っ子ぶたの三人はそれぞれ茶菓子を運んだり掃除をしたりと働いているようだ。
しかし白雪姫以外の四人は目の焦点が定まっておらず、何やら同じ言葉を連呼している。
「このチームはやはり白雪姫が要か? コイツは元の世界では七人の小人に慕われ隣国の王子と結婚したというデータがあるが……このゲームで三匹の家畜と置物王子を支配下に置くなんて中々洒落た事をしてくれるじゃないか!」
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○チーム2
・シンデレラ
・いばら姫
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シンデレラといばら姫が映る画面。
シンデレラがいばら姫をおぶりながら歩を進め、背中に担がれたいばら姫は更に自分の背中から出している茨をシンデレラの足やわき腹に当てている。
その茨の先端から優しげな光が出ている所を見ると、シンデレラは体力の無いいばら姫をフォローし、いばら姫は自身の能力でシンデレラの傷を癒しているようだ。
「こっちは異世界の姫同士が情に絆されペアを組んだんだったか。……ププッ! 他者を支配する訳でもなく、共に生きれる算段がある訳でもないというのにっ! 一応利用しあってる可能性も期待しておいてやるか!」
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○チーム3
・桃太郎
・犬
・猿
・鶴
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桃太郎達四人は一糸乱れぬ隊列を組み、無駄話一つせずにグングンと進んでいる。
「……個人性能も本命の桃太郎だが、コイツが他者数人を従えたのであればその総合戦力は圧倒的だな! 依然本命! いや大本命!! 支配能力にどれ程の効力があるか、足を掬われるようなつまらん真似だけは止めてくれよ!」
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○チーム4
・雪女
・グレーテル
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雪女とグレーテルもまた、二人並んで歩いている。
グレーテルは雪女の顔を見ながら明るい表情で何やら話し、雪女はそんなグレーテルに前方不注意を呼びかけるような仕草をとっている。
「コイツらが組むのは一番意外だったな。かぶを食う事で戦闘力が更に上がったらしいし……このゲームから抜け出すナメた算段もしてやがるが、ま! 楽しませてくれるならそれでもいいか!」
そこで女はプレイヤー達全員の現在地がわかるレーダーを画面に映した。
「13人生き残っているが、洗脳されている奴等を仮に除くとするならもう残り6人か、そろそろ終盤だな! やはり一番気になるのは桃太郎達だが……お、このまま桃太郎達が北上を続ければ白雪姫達と遭遇しそうだ……ん? これは……」
そこで女はある事に気が付いた。
先に断っておくと、生き残ったゲームの参加者達は気配察知能力や探知能力にも長けている者が多いが、それ以上に気配を消し無用に他者に気付かれない技術にも長けている。
にも関わらず、桃太郎達四人と白雪姫達五人の丁度中央地点辺りに、残りの2チームが別方向から近づいていっているのだ。
各チーム、そこに敵がいる事がわかって向かっているわけではない。つまりこれは全くの偶然である。
何にせよそう遠くない時間、4チーム全てが、つまりはこの島の全参加者が1ヵ所に集まる事になるだろう。
「ふふふ……ははははははははははははははははははっ!! 全く! 一体どうなっているというんだ! ……いいだろう!」
女は椅子から勢いよく立ち上がり、狂喜の表情を浮かべ画面を見下ろす。
「歴史ある異世界から集いし偉大なる英雄達によるこの『チート・ザ・バトルロワイヤル』! 最終局面を見届けてやろうじゃないかッ!!」