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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・ヘンゼルとグレーテル

 むかしむかしある所に、ヘンゼルとグレーテルという仲の良い兄妹が住んでいました。

 しかし二人が住む家はとても貧しくお父さんお母さんを合わせた四人が食べていくお金はとてもありませんでした。


 ある日の晩、布団に入ったままお腹が空いて寝つけないヘンゼルとグレーテルに、隣の部屋からのお父さんとお母さんの話し声が聞こえます。


「ねぇあんた、このままじゃあ家族四人とも飢えて死んでしまうよ、可哀想だけど子供達二人は手放しましょう」


「なんだって!?」


「だってこのままじゃあ皆飢えて死んでしまうよ、子供たちを生かして私たちが飢えて死んだらどの道あの二人だって生きてはいけない」


「しかしあの二人を捨てるなんて……」


「明日二人を遠い森に連れ出してそのまま置いて行くの。運がよければ私たちも子供達も助かるでしょう」


「……」


 悲しいお話ですが、この時代にはよくこんな事がありました。

 食べ物がないために子どもを殺したり、わずかなお金で子どもを人買いに売ったりする親もいましたから、この両親はまだましな方かもしれません。


 しかしその両親の話を、ヘンゼルとグレーテルはキチンと聞いていました。

 妹のグレーテルが、悲しくてシクシクと泣き出します。

 そんなグレーテルに、兄のヘンゼルは優しく話しかけました。


「泣かないでグレーテル、僕がついているから、きちんと家には帰れるよ」


 ヘンゼルはそう言うと、窓から外へ抜け出して道に落ちている白い小石を集めました。






 次の朝、まだ夜が明けきらないうちに、お母さんが子どもたちを起こしました。


「今日は、森へ行きますよ。はい、これお弁当のパンよ。食事はこれっきりなんだから、食べたくてもお昼になるまでがまんするのよ」


 お母さんはヘンゼルとグレーテルの二人に小さなパンを渡し、四人は揃って森へ出かけます。

 お母さんとお父さんに連れられて、二人は今まで行ったことが無いくらい深い深い森の奥までたどり着きました。


「さあお前たち、小えだをたくさん集めておいで」


 子どもたちが小えだを集めると、お父さんが火を付けて言いました。


「寒くないように、たき火にあたって待っていなさい。お父さんとお母さんは、この近くで木を切っているからね。仕事がすんだら呼びに戻るから」


 お母さんはそう言うとお父さんと二人で更に森の奥へ姿を消していきました。

 しかしお母さんはその場には戻らずに別の道から家に帰るつもりです。



 ────ごめんね二人とも、騙す事になってしまって。お母さんとお父さんはもう戻らないよ。でもこれは仕方がない事なの。

 願わくは神様が貴方たちを助けてくれることを祈っているわ。



 ────と、お母さんは思っているのだろう。でも僕の事を見誤ったね。幼い僕ら二人だけならば自力で家に帰る手段なんてないとでも思ったかい?



 それからどれだけ時間がたったでしょう。

 あたりはすっかり暗くなりましたが、お父さんとお母さんは戻って来ません。

 グレーテルは、声をあげて泣き出しました。


「あーんあーん! やっぱり私たちは捨てられたんだー!」


 そんなグレーテルを、ヘンゼルはなぐさめながら言います。


「泣かなくても大丈夫だよ。ちゃんと帰れるから。僕はここに来るまでに昨日集めておいた小石をすこしずつ落としてきたんだ。それを道しるべに家に帰る事が出来る」


「本当? でもこんなに暗いと石なんか見えないよお兄ちゃん」


「僕がついていると言ったはずだよ? さあ見てごらん【幸光道標(フェアリーストーン)】!」


 ヘンゼルが唱えると、落としてきた小石が次々と優しい光を放ちだします。

 その幻想的な空間を楽しみながら二人は小石を辿り、家に向かって歩き出しました。

  

 帰ってきた二人を見て、お父さんもお母さんもビックリです。


「お前たち、帰ってきたんだね!」


「大丈夫だったか!」


 お父さんはヘンゼルとグレーテルを抱きしめて泣いて喜びます。

 森の中に置いてきた二人の事が心配で心配で仕方がなかったのです。


 お母さんもそんな二人を見ながら後ろで涙を流して喜びます。

 抱きしめられるヘンゼルと立っているお母さん、ふと目が合いました。

 共に泣き顔に笑顔を浮べる二人でしたが、食べ物がない事には変わりはありません。



 ────ヘンゼル……まさか帰ってくるなんてね、知らない間に強くなっちゃって……

 でも、余計な足掻きを。それほどの力があるのならわかるでしょう? 苦しみが長引くだけになる事を。



 ────お母さん、今泣いて喜んでいるお母さん。グレーテルは僕が必ず守る。貴女の思い通りになんてさせやしない。



 しばらくはお父さんとお母さんが自分たちの食べ物も子供たちにあげる事で、ヘンゼルとグレーテルは元の暮らしをしていましたが、両親二人ももう限界です。


 数日後、お父さんとお母さんは、また子どもたちを別の森に連れて行きました。

 それがあまり急だったので、ヘンゼルは小石を拾う暇がありませんでした。



 ────さあどうするのヘンゼル。あの日の帰り道を調べる事で、お前が石を頼りに帰ってきたことは確認(チェック)したわ。昨日は疲れて早くから寝入ってしまった事もね。

 今日はもう、小石なんて持っていないのでしょう?



 ────と、お母さんは思っているだろう。まだまだ甘いよ。僕の【幸光道標(フェアリーストーン)】が小石にのみ発動すると思い込んでいたね! 

 ……今日、ほんの一日だけ飢える事さえを覚悟すれば、この程度の事、なんの問題もないッ!



 そこでヘンゼルはお弁当のパンを細かくちぎって、それを目印に道のところどころへ落としながら歩きます。

 そしてたどり着いたのは先日とはまた別の場所の森の奥。

 お父さんは先日と同じように、二人に枝を集めさせ、同じように焚火をつけ、同じように二人を残しお母さんと二人でその場を去りました。


 そしてすっかり辺りが暗くなった事、ヘンゼルもまた同じように唱えます。


「さあお家に帰ろうグレーテル、【幸光道標(フェアリーストーン)】!」


 ところが落としてきたはずのパンくずが光りません。

 目を凝らしてよく見ると、パンくずそのものがどこにもありませんでした。


 遥か遠く、既にお家に帰っているお母さんが窓から空を見上げながら胸中で呟きます。



 ────ヘンゼル、パンくずを道標にするように誘導するため(・・・・・・)、敢えて残り少ないパンをお前達に渡したことに気がつかなかったようね。

 そして力を隠していたのが自分だけだと思っていたことが最大の敗因よ。私の能力【操り小鳥群(スティールバード)】でお前の落としたパンくずは全て小鳥に食わせておいた。

 今度こそさようなら、私の子供達……



 ヘンゼルとグレーテルは、ついに迷子になってしまいました。

 一晩中歩き回りましたが、森から出られるどころかドンドン奥へと迷い込んでしまったようです。


「どうしよう、森から出られないよ」


 その時、どこからかきれいな白い小鳥が飛んできて、二人の少し前を飛び回りました。

 二人が小鳥に近づくと、小鳥は少し先へ行ってまた二人が近づくまでその場を飛び回ります。


「もしかして、僕たちを呼んでいるのかな?」


 小鳥に導かれてしばらく行くと、そこには小さな家がありました。

 小鳥はその小さな家の屋根に止まっていましたが、二人が近づくと姿を消してしまいました。


「あれ、小鳥が消えちゃった……それにしても、この家はいい匂いがするな」


「お兄ちゃん、みて! この家、お菓子で出来ているよ!」


「えっ? ……本当だ!」


 おどろいた事にその小さな家は、全部がお菓子で出来たお菓子の家だったのです。

 屋根の瓦が板チョコで、まわりの壁がカステラで、窓のガラスが氷砂糖で、入り口の扉はクッキーと、どこもかしこもお菓子でした。

 二人のお腹はペコペコだったので、ヘンゼルは窓ガラスを外してガリガリと食べました。

 氷砂糖のシンプルな甘みが口一杯に広がる。その糖分は一晩中歩き回り、疲れ切った幼い身体の五臓六腑に沁みわたる。

 その味にヘンゼルは驚愕の表情を浮かべ語った。

 

「こ、これは美味しいッ! こんな甘い物は今まで食べたことが無い!! それでいて口の中でベタつかず溶ける様に、いや融けるように消えていって後味も最高だ!!」


 グレーテルは瓦を剥ぎ取るとそれをムシャムシャ食べました。

 チョコレート独特の完成された甘み、割ることで鳴る『ぱきっ』という心地よい音、噛む事と舐める事でそれぞれ違いを楽しめる茶色の悪魔をグレーテルは目を閉じながら存分に堪能し、目線を鋭くし口を開いた。


「……私がいままで食べていた麦やパンは、なるほど小鳥のエサだったようね」


 丁度その時、家の中から誰かの声がしてきました。


「だれだい、わたしの家をかじるのは?」


 クッキーの扉が開いて現れたのは、年を取ったおばあさん。


「きゃー!」

「わあー!」


 二人はビックリして、逃げ出しました。

 そんな二人を、おばあさんが呼び止めます。


「これお待ち。逃げなくてもいいよ。おばあさんは、一人で退屈していたところなんだ。さあ、お家へお入り。お菓子ばかりでは口の中が甘くなってしまうだろう。中で温かい飲み物でも飲もう」


 それを聞いて、二人はほっとしました。


「なんだ、叱られるんじゃなかったのか」


「よかったわ」


 二人が家へ入ると、おばあさんは飲み物や果物をたくさん出してくれました。

 それに気持ちよさそうな子ども用のベッドも、二つならべてありました。


「さあ、どんどんお食べ。おかわりはたくさんあるからね」


 二人は飲むだけ飲んで食べるだけ食べると、ベッドへもぐって寝てしまいました。

 おばあさんは子どもたちの寝顔を見ると、ニヤリと笑いました。


「ヒッヒッヒッ、久しぶりの御馳走だ! さぁてどっちの子から食べてやろうか」


 なんとおばあさんは、人食いの魔女だったのです。

 白い小鳥で子どもをおびきよせ、お菓子の家を囮に待ちぶせていたのです。


 朝になると、おばあさんはヘンゼルを大きな鳥かごに放り込んで、戸に鍵をかけてしまいました。

 それからグレーテルを叩き起こして言いつけます。


「いつまで寝ているんだい! さっさとお前の兄の食事をつくりな! お前の兄は痩せててこのままじゃ不味そうだからね! たっぷりと太らせてから食ってやるのさ」


 可愛そうにグレーテルは、お兄ちゃんを太らせる料理を作らなければならなくなったのです。






 しばらくたったある日、おばあさんはヘンゼルを入れた鳥かごにやってきて言いました。


「どうだいヘンゼル、少しは太ったかい? さあ、指を出してごらん」


 おばあさんは目が悪いので、ヘンゼルの顔もよく見えません。

 そこでヘンゼルは指の代わりに、スープのだしがらの鳥の骨を出しました。

 おばあさんはその骨を掴むとそれをヘンゼルの指だと思い込みこう言います。


「むうぅ、まだそれっぽっちか。お前はどれだけ食べたら太るんだい」


 そこで隣にいたグレーテルがおばあさんに声をかけました。


「おばあさん、やっぱりこんなレシピじゃ駄目よ。これじゃあみずみずしくて美味しくないしカロリーも少ない。ダイエット食もいい所だわ」


「なんだってグレーテル! お前は私のレシピにケチをつけようと言うのかい!」


「だってお兄ちゃんがいつまでも太っていかないのがいい証拠でしょう? おばあさんはいつも子供ばかり食べてて偏食家だから人間の好みがわからないのよ。外のお菓子や最初に貰ったミルクは美味しかったけど、それは殆どが素材の味よ。貴女のレシピではお兄ちゃんは太らせれない。そこでコレをつくってみたわ」


 そういってグレーテルは一つのメニューをおばあさんに差し出した。

 あったかいご飯に茶色のコッテリとした何かがかかっており、食欲をそそる刺激的な香が周囲に立ち込める。


「この家のレシピ本を参考に作らせてもらったわ、『カレーライス』というものよ、さあ今までの貴女のレシピが如何に未熟だったか、思い知りなさい!」


 グレーテルは手にしたカレーライスを鉄格子越しにヘンゼルに手渡す。

 ヘンゼルはそのアツアツのカレーライスをスプーンですくうと、唾を飲みながら口に運んだ。


「辛い……だがなんだこの辛さは! 辛さが刺激となりドンドン食べたくなる。あっさりとしたご飯との相性も抜群だ!」


 ヘンゼルは驚愕しながらカレーライスの感想を口にする。そして二口三口とドンドン口に運んでいった。


「一緒に入っているのは牛肉、それにジャガイモにニンジンに玉ねぎか……これらさえもカレーと絶妙にマッチし、肉や野菜本来の甘さが染み出てくる……! お菓子のソレとは違う素材の味が、またカレーそのものの辛さを際立だせるぞ……!」


 夢中になってカレーを貪るヘンゼル。その様子をみてグレーテルは勝ち誇った笑みを浮べ、おばあさんはその後ろでよだれを垂らし始める。

 更にこのお菓子の家にヘンゼルたちを誘いこんだ白い小鳥もどこからかやってきて、ヘンゼルと一緒にカレーライスを食べだした。


「ドッシリと腹に溜まるのを感じる、お腹はもう膨れてきているのだろう……! でも! それでもまだ食べたくなるぞこの味はッ! グレーテル! おかわりだッ!!」


 ヘンゼルはよそわれてきた二杯目も平らげると多分に汗をかきながら冷たい水を飲みほし、一息つくと鋭い目つきでハッキリと札を掲げる。

 札に書かれていたのは『10』の数字。それはこのカレーライスが最高評価であることを意味していた。

 更に一緒にカレーをついばんでいた白い鳥も、羽を手のように扱い上品に口を拭きながら空いた羽で札を掲げる。この札もやはり10点の札!


「ば、バカなっ!」

 

 おばあさんが声を張り上げながらグレーテルを睨み付けた。

 手は強く握り締められ怒りで震えているにも関わらず、その口からは涎が止まらない。そしてお腹も音を立て始めた。

 そんなおばあさんにグレーテルは更にもう一杯カレーライスをよそい、おばあさんの目の前に置く。


「さあ! コレはおばあさんの分よ! このカレーが何点の評価なのか!! 教えて頂きましょうッ!!」


「こんな……こんなものッ!!」


 おばあさんはそう言いながらカレーライスを口にかっ込む。そしてその瞬間、おばあさんの身体に電撃が走った。



 ────ヘンゼルの坊やの言う通りだ! カレー本体、ライス、それぞれの具が完璧にマッチしそれぞれを際立たせている。カロリー自体も高く満足度は十分! 更に肉野菜穀物をバランスよく入れている事により脂質ビタミンミネラルなんかの栄養価も満点だ! ……そして、この旨辛さの中に僅かに潜めるパンチの利いた味……これは、家の瓦のチョコレート! 隠し味にこんなものまでいれているなんて……ッ!!!!



 スプーンを握り締めながらおばあさんは戦慄く。

 ここで自分も10点の評価を下せば審査員満場一致での満点評価。それすなわちグレーテルへの完全敗北を意味していた。



 ────ここでわざと0点の札を掲げる事も出来る! だが、だがこの味は……! このカレーライスはッ!!



 おばあさんは真っ赤にした顔を下に向けたまま、札を掲げた。

 そこに書かれていた数字は、『10』!

 その札をみたグレーテルは、真っ直ぐな眼でおばあさんを見据え、親指を立て人差し指をおばあさんに向けながら声高らかに叫んだ。


「そう、それが素直な答えよおばあさん。さあ私の勝ちよ! 今すぐにお兄ちゃんを鳥かごから出しなさい!!」


 カレーライスを食べ満足してしまったおばあさんにヘンゼルを閉じ込めておく理由はこれ以上ありません。

 そして、グレーテルに完全敗北した以上相手の言う事を無視するわけにも行きませんでした。

 おばあさんはヘンゼルを解放するかわりにグレーテルにカレーライスの作り方を教えてもらいます。

 その過程で大きなカマドを覗き込んだ時、後ろからグレーテルに押されてカマドの中に落ちて死にました。

 持ち主を失ったお菓子の家から宝石や真珠、金塊等様々な財産が沢山見つけます。

 ヘンゼルとグレーテルはソレらを持てるだけ持って、再び森を何日も歩き家に帰りました。


 家に帰るとすっかり痩せてしまったお父さんとお母さんが、今度こそ本当に泣きながら喜んで二人を出迎えます。

 お菓子の家から財産を沢山持ってきた二人は、その後家族みんなで幸せに暮らしましたとさ。



 めでたしめでたし

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