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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・30話

 【渋柿ジェノサイドダークネスメテオストライク】の爆風が消えうせる頃、その中から姿を現すいくつかの人影。

 カニ、猿、犬神()の三人はあの凄まじい破壊力(エネルギー)の中で皆原型を留めて生存していた。


 猿はそもそも自分が産み出した必殺技に対してある程度の耐性はある。そしてその後ろからカニが、【世界樹創造ユグドラシルクリエイション】の枝を通して回復魔法を送り込んでおり、それにより致命傷とはならなかったのだ。

 カニ自体も、その強固且つ神秘的な世界樹が盾となっていたことにより爆風の直撃を回避。

 そして、犬神()もまた元々取り込んでいた不死鳥の生命力に加え、突き刺さった枝の回復エネルギーを吸収することで肉体の再生速度が爆発のダメージを上回らせていたのだ。


「う……雑魚犬が……」

「ぬ……ゴミ猿め……」


 しかし、そこで猿と犬神()の両名が崩れ落ちるように膝をつく。

 耐え切ったとはいえ周囲数キロを吹き飛ばす威力を誇る【渋柿ジェノサイドダークネスメテオストライク】を至近距離で受けた二人。その身体はもはや限界に近づいている。


「猿!」


 そこでまだ比較的ダメージの少ないカニが二人の方へ駆け寄った。

 猿を介抱するにしても犬神()にトドメを刺すにしても近寄らなければ始まらない。

 お母さんやぎとの戦いで四本にまで減ってしまった足をたくみに動かし二人に接近。猿のすぐ後ろまで来た、その時!


「うわ!」

「なに……?!」

「ぬ、何だ……!?」


 三者とも一様に驚愕の声をあげた。

 三人を囲うように、突如地面から巨大な魔法陣が浮かび上がったのだ。


 猿と犬神()の戦いで殆どの泥が吹き飛んだこの湿地帯であったが、近くに一箇所だけ、不自然に沼が残っていることに三人は気がつく。

 その沼の中から生えるように姿を現すのは和の服に身を包んだ美しい女性。


「皆様見事な戦いぶりでした。しかしそれもここまで、一網打尽にさせていただきます」


 それはゲームの参加者の一人である鶴!

 森の活動ではすぐに浦島太郎に見つかってしまった鶴は、今度はこの湿地帯の地中に身を隠し他の戦いから逃れていたのだ。

 鶴は戦闘には非積極的ではあったが、それはあくまで自身の消耗を避けるため。最終的に一人もしくは一チームしか生き残れないのであれば、このゲームを勝ち抜くために他者を犠牲にする覚悟は出来ている。

 たまたまではあるが潜伏場所の近くで複数人が戦闘を始め、更に全員が消耗したのであれば勝負に出ない手は無い。


「【包囲滅殺陣(ほういめっさつじん)】。この結界はこれからどこまでも小さくなってゆき、最後は潰すように貴方がたの命を奪います」


 鶴の言葉に反応するかのように、その結界は輪を縮め始めた。

 魔法陣作成に使われている道具は鶴自身の質の良い純白の羽、そしてやはり浦島太郎が使っていた強固な釣り糸も使われている。

 その強度は驚異的戦闘力を誇る浦島太郎自身も破ることが出来なかった実績付き。


「く、くそ!」


 カニは直ぐに結界に(ハサミ)を打ち付けた。しかし当然びくともしない。


「舐めやがって……!」

「ふざけるなよ女ぁ……!」


 猿と犬神()も震える身体を無理やり起こし、それぞれ背を向けて結界を破るべき真逆に走り出した。

 結界までたどり着くとカニ同様に攻撃を仕掛けるが、やはり破れる様子は無い。


「残酷ではありますがコレも殺し合いの運命(さだめ)……お三方、お覚悟くださいまし」


 鶴の落ち着いた言葉が三人の耳に冷たく響く。

 結界は見る見るうちに小さくなっていき、散らばった三人は直ぐに背中合わせの距離まで近づく事となった。

 歯軋りをしつつ焦りを見せる猿と犬神()。そこでカニが冷静に口を開いた。


「猿……そして犬神()も聞いてくれ。今から僕が結界の一点を、全力(・・)で攻撃する。二人は、ソレに続いて更なる攻撃をして欲しい」


 カニの提案、それはこの場の三人が力を結束させて結界を破ると言うもの。その言葉に犬神()は当然反論する。


「この我が敵である貴様らと、このゴミ猿と力を合わせろというのか? カニよ、大体貴様ごときに何が出来る? 貴様の全力がどれほどのものだと言うのだ?」


 犬神()は本来であれば生き残るためであらば多少のプライドを捨ててでも最善を尽くす。それが敵と組むこととなっても、だ。

 しかし、それでも猿と協力する事だけはとても了承できなかったのだ。


 猿も犬神()と同様の気持ちのはずである。が、それにも関わらずしばし沈黙し、そして静かにうなずいた。


「ああわかった、おいらは乗ろう」


「貴様正気かゴミ猿め! 勝手に話を進めて我がそれに従うと思うか!」


 声を荒げる犬神()に、カニは視線を向けて静かに言い放つ。


「猿と決着をつけたいんだろう? ここで意地を張って三人とも死ぬか、この場だけは一時的に協力して生きるか、どっちがいいんだ?」


「ぐぬ……!」


 犬神()は言葉を詰まらせた。

 猿の方へ目を向ける。猿はこちらに視線は向けない、が、やはり静かに聞いている。

 犬神()は気がついた。敵である二人が冷静なのに対し、自分だけが駄々をこねる子供のような立場になっている事に。


「……いいだろう、だが、結界から抜けた瞬間、まず貴様らから殺してやるぞ……!」


 犬神()も覚悟を決め、カニが見定めている攻撃箇所に視線を移した。


 犬神()の様子を確認したカニは、(ハサミ)の中の最後の柿の種を強く握る。

 ────そして、その(ハサミ)を己の身体に突き刺した。


「な……?!」


 犬神()の口から驚愕の声が漏れる。

 対照的に、猿は静かであった。

 猿にわかっていたのだ。

 このカニは、元の世界では父の敵を討つために遥か上の存在である自分に命がけの戦いを挑んだ。

 この世界ではそんな自分のために自らの足を犠牲にしてお母さんやぎ(強敵)を倒した。

 このカニは自己犠牲が強すぎる。

 このどうしようもない【包囲滅殺陣(ほういめっさつじん)】に対し、『全力で攻撃する』と言った。

 このろくでもないゲームで、『チームが生き残るため』にはあらゆるものを犠牲にする覚悟でいる必要があると、最初から理解しているのだ。

 つまり、今から行うことが自らの命と引き換えにするほどのものだという事が、猿にはわかっていたのだ。


「──真の姿をこの場に現せ柿の種! この命を糧として、悪をちょん切りし聖なる剣へと進化せよ! 【世界樹聖剣ユグドラシルエクスカリバー】ッ!!」


 カニの体が光った。

 そこから現れるのは目が眩むほど眩しく輝く光の刃。

 それは一点に向かって真っ直ぐ伸び、【包囲滅殺陣(ほういめっさつじん)】の一部に突き刺さる。

 猿にも犬神()にも浦島太郎にも、誰も傷一つつけることが出来なかった鶴の結界にヒビが入った。


「ま、まさか……!」


 鶴は戦慄する。最強を誇るはずの己の結界が破られようとしているその事実に。


「おおおおおおおおおッ!!!!」

「カアアアアアアアアッ!!!!」


 身体から光を放ち続けるカニの左右から、猿と犬神()は渾身の力で結界に殴りかかった。

 ────無敵の結界は音を立てて崩れ、霧散するように姿を消した。


「こんな……事が……」


 鶴はその場でへたり込む。

 浦島太郎との戦いで大きく消耗し、更にこの場での結界作成に極めて多くのエネルギーを消費した。

 これまでの疲労とそこまでして作成した無敵の【包囲滅殺陣(ほういめっさつじん)】が打ち破られた事による精神的ダメージが、鶴の身体を立たせることをさせなかったのだ。


「へへ……猿……後は……頼ん……だ……」


 カニの覚悟の通り、猿の予想の通り、甲殻類の小さな身体は────その言葉を最期に活動を止めた。


 猿はその様子をみて、歯を食いしばりながら静かに眼を閉じる。 

 犬神()もまた『結界から抜けた瞬間、まず貴様らから殺してやる』と公言したにも関わらず、カニへの敬意の気持ちが優先し、動けずにいた。


 鶴、猿、犬神()。歴戦の実力者である彼らがかつて無いほど大きく消耗し、それぞれ心に様々な思いが駆け巡っている。

 それでも彼らはすぐに次の行動に移るだろう。

 精神面もすぐに立て直し克服する事が、一流の実力者である条件の一つなのだから。


 ────しかし、この瞬間を完璧に狙っていたかのように、更にもう一つの人影が突如この場に現れた。

 その一瞬の出来事に戸惑うことしか出来ない三人。

 三者の身体と心がもっとも不安定なこのタイミングで、現れた男はあるモノを掲げながら大きく叫んだ。


「今こそ目覚めよ我がしもべ(お供)達よ、【黍団子調教(ディスティニーテイム)】!」


 突如現れた男、桃太郎が握る黍団子から伸びる光の筒が、犬神()、猿、鶴の身体を包み込んだ。





『カニ』────死亡

 残り────14名

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