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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・29話

 一歩進めばたちまち足が膝まで沈んでしまう泥まみれの湿地帯。そんな中を茶色い毛並みの一匹の獣が二本の足で力任せにズンズンと進む。

 いや、よく見ると一匹だけではない。その獣に沿って動くように二つの赤いハサミが沼地をスイスイと進んでいた。


「お前、もう少しこう……何とかならんのか?」


 一匹の獣、猿がそのハサミに問いかける。

 するとハサミの主は浮かび上がるように沼地から湧き出るように姿を現す。


「ぷはっ! え? なにか言ったか猿?」


 全貌を現したのは猿の相方、カニ。

 陸上生物である猿にはこの湿地帯は動きにくく不愉快な地形ではあるが、水陸両用のカニは全身を泥だらけにしながらも生き生きと目を輝かせている。


「……いや、なんでもない」


「なんだよ、おかしなヤツだな」


 半眼で呟く猿に対し、無い首を傾げるカニ。

 そんな他愛の無いやり取りをしている二人に、前方から凄まじい殺気(プレッシャー)が放たれた。

 思わずそちらに振り向く猿とカニ。

 そこに姿を現したのは二足歩行で腰に布を巻きつけた黒い毛並みの動物。

 猿のように湿地に足を取られながら手間取っているわけでも、カニのように泥の中を泳ぐように進んでいるわけでない。

 この相手は泥の上が、固い土の陸地であるかのように真っ直ぐに立っているのだ。

 その胸につけられている名札の文字は『犬』。



「敵が二匹、貴様らも我が血肉となるがいい」


 隠す気の無い明らかな敵意を放ちながら、猿とカニ(実力者二人)を相手に真正面から勝負を挑んできた犬神()。カニはその戦士としての態度を、心の中で素直に賞賛した。


「猿、この相手も強いぞ、気をつけろ」


 身構えながら隣の猿に話しかけるカニ。しかし、返事は返ってこない。

 疑問に思い猿の方へ視線を向けると、猿は凄まじい嫌悪の表情を浮かべながら犬神()を睨んでいた。


「……猿、どうした?」


 カニの言葉に猿は少し冷静な表情を取り戻す。


「……ああ、すまん」


「『すまん』じゃなくて、どうしたんだって」


「わからん。だが、この相手はどうも存在が気にくわねえ」


 初対面の相手に対しそう呟く猿に、カニは疑問を感じざるを得ない。

 しかし、そこでまた犬神()も猿を見据えながら口を開いた。


「奇遇だな、我も貴様が生理的に受け付けぬ」


 犬神()の言葉に、猿は抑えていた怒気を大きく撒き散らし臨戦態勢に入った。

 その様子を見て、犬神()もまた凶悪で神秘的な(オーラ)を開放する。

 両者が突如荒れ狂う嵐のような変貌を見せたことに、カニはあっけに取られ後ずさってしまう。

 その間に、猿と犬神()が互いに向かって駆け出した。


「オオオオオオオオオオオオォッ!!」


「カアアアアアアアアアアアァッ!!」


 戦闘力の高い二人が、怒りに身を任せ近接戦闘で小細工なしでラッシュの応酬を開始する。

 その余波だけで空気が振動し、周囲の泥が大きく吹き飛んだ。


 猿も犬神()も、普段ならば冷静に戦況を見極め最善の手段で自分が有利になるように戦いをコントロールしようとするだけの知能はある。

 しかし、今この場においては自らの力で相手を屈服させる事を優先せざるを得なかった。


 犬猿の仲。

 犬神()と猿が出会ったばかりの相手に異常な嫌悪感を感じたのは、理由があっての事ではない。

 互いの心の奥底に、深く深く刻まれていたのだ。この相手とは憎み合うべきなのだという本能が。


「凄い戦いだ……でも……!」


 少し離れた位置からその戦いを見ているカニは異変に気がついた。

 猿が押され始めている。


 これまでに一戦ずつ終えてきた両者であったが、お母さんやぎとの死闘で負傷した猿に対し、犬神()は花さかじいさんの力と赤ずきんちゃん自身を喰らっており、むしろ力を付けてこの場に挑んでいる。

 身体能力(フィジカル)のみの戦いであれば、こうなるのは必然であった。


 押されている猿を援護すべく、カニは後方から詠唱に入る。


「──今こそ育て柿の種よッ! 大いなる成長と共に彼の者をちょん切れ! 【世界樹創造ユグドラシルクリエイション】ッ!」」


 カニの呪文と共に、カニの(ハサミ)の中にある柿の種が爆発的速度で真正面(・・・)に成長する!

 猿であらばこの援護を察知し回避するであろう。そしてこの幾股の矛がそのまま犬神()に突き刺さればそれで良し、相手もまた回避するようであればそれはそれで距離をとり戦況を立て直せる。


 と、言うのがカニの考えであった。

 が、猿は、背後から迫る援護射撃を回避する事なくそのまま受けた。


「ゴフッ!」


「さ、猿!」


 カニに動揺が走る。

 自分の攻撃が猿を追い込む事になるなど、考えてもいなかったのだ。


(僕はバカだ! 猿は強敵を相手に刹那の戦いをしている、それならばこの攻撃を避けきれない事なんて十分あり得る話なのに……!)


 カニは胸中で自分を責める。

 しかし、そうではなかった。

 猿は、その気になればカニの思惑通り背後から迫る【世界樹創造ユグドラシルクリエイション】を回避する事は十分可能だった。

 しかし猿は自身が貫かれる事を覚悟の上で、【世界樹創造ユグドラシルクリエイション】を避けることなく大木の矛が自身を貫くタイミングで犬神()の手を掴んだのだ。


「ぬ、ぬうぅぅぅぅ……!」


 手を掴まれた犬神()の口から苦痛の声が漏れる。

 犬神()は猿の決死の行動により、猿もろとも串刺しになっていたのだ。

 猿は口から血を流しながらニヤリと笑う。

 そして更なる追撃をしようと左手を動かした。


「なんてな」


 そこで犬神()もまた笑った。

 先の戦いで花さかじいさんが扱う不死鳥を喰らった犬神()は、この程度の攻撃はダメージになっていなかったのだ。

 余裕の表情を浮かべながら猿よりも早く、拳で猿の胴体をぶち抜いた!


「終わりだなぁバカ猿がああぁぁ!!」


 知的な態度が一転、初期形態のような下劣な表情を浮かべて犬神()は勝利を確信する。

 が、猿は身体に幾つもの穴を空けながら、犬神()と同じく勝利の笑みを浮かべる。


 追撃するために動かした左手。それは犬神()を直接殴りつけるための動作ではない。

 【世界樹創造ユグドラシルクリエイション】により、真近くに現れたモノを手中に収めるための行動だったのだ。

 ソレをもいだ猿の左手が犬神()の胸に押し当てられる。


「アホ顔浮かべて勝ち誇っているんじゃねえぞクソ犬が……! 消し飛べ!! 【渋柿ジェノサイドダークネスメテオストライク】ッ!!」


 猿の左手と犬神()の胸を中心に爆散するエネルギーが、一帯全てを包み込んだ。

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