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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
54/95

チート・ザ・26話

 シンデレラと金の小野が戦いを繰り広げているすぐ傍で、消耗しきっているいばら姫に歩みを寄せる幸せの王子。黄金の身体故の重量により、一歩一歩が重い音をたて地面を少し沈ませる。

 敵意を漲らせながら近づいてくるその黄金の塊は、いばら姫の瞳には実物よりも巨大で邪悪なモノに映った。


(【茨式懐刀(ローズソード)】のような大技はもう出せない……出せる手札で何とかする!)


 迫る脅威を退けるため、いばら姫は手を前方にかざす。その動きに応じるように、ワサワサと動いている周囲の茨も幸せの王子の方へ先端を向けた。


「【茨式煉獄(ローズファイア)】!」


 いばら姫の叫びと共にいばらの先端から炎が噴き出す。

 その炎は幸せの王子に全て命中。爆発を起こしながら黄金の身体は真紅に包まれる。


「……ぬるいな」


 しかし、その獄炎等何でもないかのように速度を緩める事なく歩を進める幸せの王子。

 その様子をみていばら姫は息を上げながら歯ぎしりする。


「なら……【茨式迎撃(ローズデリート)】!」


 今度は炎を噴いた巨大な茨群そのものが大蛇のような動きをみせ、幸せの王子にけしかかる。

 茨による渾身の体当たりが幸せの王子に次々と命中!


「無駄じゃ」


 だがその高速超重量の攻撃も、幸せの王子に当たった所で巨大な絶壁に当たったかのように挫かれた。

 幸せの王子が歩みを進めるだけで、茨群は物理的に押されズズズ……と音を立てながら後退する事となる。


「これならどう!?」


 いばら姫は更にかざした手を捻るように動かした。

 すると今度は茨群は幸せの王子を閉じ込めるように四方から巻き付きだす。


 あっという間に完全に茨に埋もれた幸せの王子。

 しかし幸せの王子を呑み込んだ茨の塊は、やはり先ほどの幸せの王子の歩みと同速度でいばら姫の方へ進みだした。


(全く効いていない……文字通り足止めにもならないと言うの?!)


 ゆっくりと自分に近づいてくる茨の塊を見ながら、いばら姫は自身の無力さを噛みしめる。

 ゲーム開始当初は、状況を傍観するかのように楽観視していた。

 しかし自分と同等以上の実力者であるチュー子やわらしべ長者と遭遇し、決して自分が万能では無い事を知った。

 そして今、またしても自分の力が何一つ通じない強大な相手に追い詰められている。


 突如、前方の茨が弾けた。

 中から出てきたのはルビー付き黄金の剣を抜き去った幸せの王子。

 防御力だけではない、攻撃力も先に戦った二人に勝るとも劣らない実力者。

 その相手を見据え、いばら姫は自虐的な笑みを浮かべうつむいた。


(私は、自分が強いと思っていた……元の世界ではあの人の次くらいに、世界で二番目くらいには強いかなって……でも、私は弱い……ひょっとしたらこの世界では、一番弱いのかな……?)


 いばら姫は顔を上げる。

 数秒前までにしていた、何かを諦めたような顔ではない。チュー子との戦いで見せた強い意志を持った覚悟の顔でもない。


(実力が足りないなら、賭ける(・・・)! 悩んでも振り返っても仕方がない! 精一杯頑張って足掻いてかき乱して! それでダメなら仕方がない!)


 いばら姫は両手をクロスさせるようなポーズを取り、再び叫んだ。



「【茨式解錠(ローズディスペル)】ッ!」


 その呪文と共に、残っている茨群が一斉に変化を見せた。

 緑色の蔓は、霊体のような半透明の青色に変わり、ある方向へ向かって空を飛ぶ。

 幸せの王子の元、ではない。

 幸せの王子の頭上あるいは側面を通り過ぎ、その後ろ、シンデレラと戦っている金の小野が展開した半透明の障壁に次々と突き刺さっていく。


「なんだ? 何をしている?」


 幸せの王子の疑問を余所に、突き刺さった茨が弾ける。茨同様半透明の為視覚ではわかりにくいが、突き刺された障壁もまた穴を空けて崩れていった。


「……後方の包囲結界の解除? それが余とお前になんの関係があると……」


「【茨式光線(ローズビーム)】!!」


 いばら姫は続けて叫ぶ。

 まだ消えていない茨の先端から熱線が噴出され、防御結界を失った虚ろ目の女、金の小野が爆発に包まれる。

 金の小野はソレを躱す事が出来なかった。

 意思を奪われ『シンデレラの相手をする』という大雑把な命令に忠実に従った結果、後方から迫るいばら姫の攻撃には対応する意思(プログラム)が無かったのだ。


「……余に勝てぬと踏み手駒のほうを潰してくれるとは、くだらん悪あがきを」


 幸せの王子は顔を歪ませる。

 いばら姫の行動は幸せの王子達が予想できない事であり、幸せの王子達の戦力を削るには極めて有効な手段だった。

 しかし、それは同時に眼前の敵の怒りを煽り、且つその眼前の脅威からは無防備となる極めて悪手。

 幸せの王子には、その行動が命を賭した嫌がらせとしか思えなかった。

 幸せの王子は黄金の剣を握りしめる右手に力を込め、いばら姫の方へ踏み込もうと足に力を込める。

 

「よかろう! 余を無視した代償、その命で償っ────」


 踏み込みと同時に、幸せの王子の視界は暗転した。

 その眼には突如地面が映りそのまま激突。衝撃と共に少しの間だけ身体の機能が停止する。

 顔を地面に埋めながら、踏み込みの勢いを利用して自分が投げ飛ばされたのだと気づくのに数秒かかった。 


 幸せの王子は顔を上げ、前方に視線を戻す。

 そこに映るのは満身創痍な二人の女性。一人は当然今まで自分が相対していたいばら姫。

 そしてもう一人は血を滴らせる脇腹を片手で抑えながらこちらを睨みつける美しい女性、先ほどまで金の小野と戦闘をしていたシンデレラ!

 いばら姫とシンデレラは、中央世界での集合を除けば先ほど出会ったばかりの敵同士である。

 しかし互いに目を合わせ互いに戦う意思がない事を確認した。

 その後二人に迫る幸せの王子達が飛来し、二人共追い詰められた。

 『共通の敵を撃退する』、一言の会話も交わしていないシンデレラといばら姫であったが、同盟組む理由はもはや充分であったのだ。


 今にも倒れそうないばら姫ではあるが、してやったりという顔を浮かべながら幸せの王子に吐き捨てるように言葉を発する。


「貴方、人を見る眼はイマイチのようね? 自分の力には自信があるようだけど……」


 その隣でシンデレラも幸せの王子に向けて口を開いた。


「女の子を自分勝手にオモチャにするような男だもの、一つ自信を持って言える事があるわ……」


 地面に這いつくばったままの幸せの王子を見下ろし、二人の姫は同時に叫ぶ。


「「例え同じ一国の王子様でも、貴方はあの人の足元にも及ばない!」」


 二人の口撃をその身に受けつつ、幸せの王子はゆっくりと立ち上がった。


「天界に旅立つ事もまた幸福の一つだと言うのに、なんと愚かな……よかろう、小娘二人、この余自ら地獄へ叩き落してくれようぞ」



 『金の小野』────死亡

 残り────16名

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