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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・25話

 広がる草原に面する広大な森。

 その森に少しだけ入った位置にある岩陰に、綺麗なドレスを身に纏いガラスの靴を履いた美しい女性シンデレラが腰を下ろしていた。

 自身の姿を岩陰に隠し、草原方向は広範囲を見渡せる。危険を察知できれば森の奥へ移動すればいい。

 マッチ売りの少女との戦いで負傷したシンデレラは、少なくとも傷が癒えるまでは大きく動くことは止めておこうとこのような行動をとっていたのだ。


(あれから十数時間……足も大体は治ったわね)


 そしてその行動は正しかった様である。

 マッチ売りの少女との戦闘以降誰とも出会うことなく時間を過ごす事で、驚異的な自然治癒力により貫かれた両足は跳んで走れる程度には回復していた。

 シンデレラは立ち上がると、今までは生物の気配を感じてから目を向けていた草原の方向へ何の気もなしに目を向ける。

 そこで10メートル先の距離に、ボロボロな格好をした一人の少女がトボトボと歩いて来ている事に気が付いた。

 少女の名札の文字は『いばら姫』。

 極めて高い野性的な気配察知能力を持つシンデレラであったが、それ故に目視での安全確認を十分には行っていなかった。

 一方いばら姫は、自身の能力【茨式隠密歩行(ローズシーク)】により己の気配を消しながら体力の消耗を最小限に森の方へ歩いていたのだ。

 岩陰から急に立ち上がったシンデレラの存在に、いばら姫の方もそこで初めて存在に気が付く。

 ビクリと身体を一度だけ震わせてすぐに身構えた。


 この極限の世界で互いに視線を交わせば、相手の感情はなんとなくわかる。

 いばら姫もこちらと同じように戦闘には非積極的であり、他者との交戦により消耗したため一層戦闘を避けたい気持ちである事はシンデレラはすぐに把握した。


 相手もこちらの心境を察したのだろう。

 警戒は解かないまま少し遠巻きに歩みを再開し、今以上にはシンデレラに近づかないように進路を変え森へ進んでいく。


 しかし、いばら姫はある地点で歩みを止める。

 それと同時に周囲を威嚇するようにいばら姫が立つ周囲の地面から無数の太い茨が姿を現しだした。

 その威嚇はシンデレラに向けられたものではない。シンデレラも持ち前の気配察知力で異変に気が付く。

 異なる世界のプリンセスは、二人共同時に上空を見上げた。

 飛来するは二つの影。

 一つは着地と同時にドスンと大きな音と多量の砂埃を巻き起こす。

 一つは華麗にスタリと着地を成功させた。

 出現したそれらは一組の男女。姿形はまさしく美男美女であったが、それ以上に眩しく光り輝くその色が見る者の視線を奪う。

 女は二つに分けて束ねた光り輝く黄金の髪が特徴で、しかし対照的に瞳からは色が失われており生気を感じない。

 男の方は髪や衣服にとどまらず肌も含めた全身全てが黄金そのもの。黄金でない部分は数少なく、その内二つの両の眼は蒼く吸い込まれるような輝きを見せるサファイアの瞳。携えた黄金の剣の取っ手の一部炎のように情熱の色を魅せるルビーであった。


 光輝く二人であったが、二人共シンデレラたちと同様に胸につけられた名札は何の変哲もない白い名札。そこの文字はそれぞれ『金の小野』に『幸せの王子』。


(一度にゲーム参加者三人と遭遇(エンカウント)するなんてね……!)


 胸中で毒づきながらシンデレラは疑問に思う。

 最初に現れたいばら姫はともかく、後の二人は同じ方向から一緒にやってきた。二人が争っているような様子もない。


(つまり手を組んでいる……というより操っているといった感じね!)


 四人のバトルロイヤルであればまだなんとでもなる。

 しかし事情がなんであれ内二人がチームを組んでいるのならば各個撃破に乗り出されると数的不利は避けられない。

 

「金の小野、余はいばら姫を仕留める。お前はシンデレラの相手をしろ」


 そこで幸せの王子が声を上げた。

 願ってもない作戦。多人数が入り乱れる混戦よりも一対一のほうがシンデレラとしても戦いやすい。


 幸せの王子の命令通り、金の小野はシンデレラの方へ虚空の視線を向けた。


(操られる程度という事は、今度の相手は何でもありな程デタラメじゃないはず!)


 シンデレラは相手を撹乱するように連続で左右に跳び回った。

 その超スピードにより複数の残像が現れ、地面を蹴る反動で大きな土煙が大量に舞い上がる。

 土煙と共に舞い上がった複数の小石を手で掴み、連続で金の小野の方へ投擲した。


(先ずは迂闊には近づかない! さあどう出る!?)


 多方面から迫る投石に対し、金の小野は左手を前に突き出した。

 それにより半透明の障壁が出現し、それが投石の威力全てを遮断する。


(なるほどいい技ね! でも守るだけじゃ────うっ!)


 高速反復横跳びを繰り返すシンデレラは、突如なにかぶつかった。

 それは金の小野が展開している障壁より色が更に薄い、それでいて同質の結界。


「いつの間に……」


 金の小野が展開した障壁は音も無く視認性も低く、しかしそれでいて素早く広がっており、それがシンデレラの側面まで来ていたのだ。


(なら一度距離をとる!)


 そこでシンデレラは金の小野からは視線を外さず真後ろに大きく跳んだ。

 これでとりあえずかなりの距離は稼げるはず────


「きゃっ!」


 しかし、跳んだ先でもほぼ不可視の障壁に当たる。

 金の小野は投石から身を守るために自分の周りにのみ障壁を張ったのではない。シンデレラを閉じ込めるために極めて広範囲に展開をしていたのだ。


「防御一辺倒の結界特化の能力が、まさかこんな風に使えるなんてね」


 ここでシンデレラは選択に迫られる。

 『金の小野を倒すべく、結界を破りながら接近する』もしくは『後ろまで伸びている結界を破り逃亡する』か。


(どっちにしてもこの結界は破らなければならない……まずはどの程度の強度か試す!)


 シンデレラが拳を構えたその時、はるか遠方で何かがキラリと光るのが見えた。

 シンデレラはソレがなにか直観し、身をよじる。


 遠方で光った何か。それは金の小野達を掌握している金太郎が遠方からシンデレラに向けた黄金の銃口であった。

 通常の銃では考えられない速度で殺意の弾丸が飛来する。

 しかし直前で察知したシンデレラは回避に成功する、はずだった────


「あっ!」


 身をよじった先で、またしても不可視の結界に衝突。

 それにより一瞬シンデレラの動きが止まり、輝く凶弾がシンデレラの脇腹を捉えた。

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