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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・15話

 巨大な木々が生い茂る深い森、その暗い空間とは対照的な派手な色をした二人の美女が歩いている。

 一人は輝く黄金の髪を長く伸ばし、それを二つに束ねたツインテールの髪型を。

 もう一人も負けないくらい美しい銀色の髪を同じ位の長さで、こちらは一つに束ねたポニーテールの髪型を。

 衣服もまた髪の色を基調とした動きやすそうなものを着ており、色と髪型、眉の形を除けばまるで双子のようにそっくりな顔と体形をしている。

 胸にはやはり例の名札が付けられており、それぞれ文字は『金の小野』と『銀の小野』。

 二人は互いの死角を補い合うように周囲を警戒し、雑談をしながら森を進んでいた。


「この森の中だと、私たち逆に目立つんじゃないかしら、銀」


「でも金、それは森から出ても同じことだと思うよ。最初の予定通り森の地形把握から一つずつやっていこ? 私たち、チームを組める分他の参加者よりも少し有利なんだから」


「参加者が皆集まっていた世界にいたあの女、『主役が複数いる奴らは運がいい』とかそんな感じの事言ってたわよね、私たち、主役だったかしら……?」


「……その辺は考えても仕方ないと思うよ、主であるあの人がこの世界に巻き込まれなかっただけ良しとしましょう」


「銀、貴女前向きねえ」


「現実主義なの、私は」


 この戦いに巻き込まれた事の不満や不安も多いが、それでもやはり孤独ではないという事は心理的にもプラスに働く。二人は愚痴をこぼしながらも、比較的明るく島の探索をしていた。


 その時、二人の視界の丁度死角を突くかのように、巨大な刃物が回転しながら飛来した。

 狙いは銀の小野! しかしそれにいち早く気付いた金の小野は、すぐに刃物の前に躍り出て手をかざす。


「銀! 危ない!」


 叫びと共に金の小野の前に現れるは、黄金色をした半透明の障壁。

 壁に当たった刃物は跳ね返り、大きな音を立てて地面に落ちた。

 この二人が得意とする基本戦術。それは金の小野が結界による防御を主体に行い、銀の小野が接近戦による攻撃に回る。

 攻守の役割をキチンと分担した息の合ったコンビネーションである。


 二人は落ちた刃物に目を向ける。それは金の小野の髪にも負けず劣らず輝く黄金色の巨大な(まさかり)

 飛んできた方向へ目を向けると、そこに一人の男が立っていた。

 真っ赤なスーツに身を包んだオールバック長身の男。黒いサングラスをつけているため表情は読めず、細身ではあるがわずかに見えるその肌からは鍛え抜かれた筋肉を身に着けている事が感じ取れる。

 金の小野達の位置からは見えないが、そのスーツの背中には大きな〇の中に『金』の一文字がデカデカと書かれており、それを意味するかのように胸につけられた名札の文字も『金太郎』。


 森の奥から姿を現したその男に視線を移し、金の小野は苦笑しながら口を開いた。


「この私に黄金の斧だなんて、大したご挨拶、ね……」


 更に銀の小野も一歩前に出て金太郎を睨みつける。


「奇襲は失敗して残念だったわね。それで貴方、私達を相手に1VS2で勝てるつもりかしら?」


 銀の小野の問いに、表情の見えない金太郎は腕を組みながら言葉を返した。


「失敗? 1VS2?」


 その時、木の上から何かが金太郎の横に降ってきた。

 ソレはすぐにゆっくりと立ち上がり、その全貌を明らかにする。

 金の小野以上に全身をまっ金金に染めるその男。

 それもそのはず、男は体毛や衣服が金色なのではない。その身体自身が黄金そのもので出来ており、その像のような金属の身体が肉で出来ているかのように自然に動いているのだ。

 サファイヤの瞳にルビーの付いた剣を携えた全身黄金の男ではあったが、一か所胸の部分だけは縫い付け垂れた白い布のようになっている。それは金の小野達と同じ名札であり、書かれている文字は『幸せの王子』。


「なるほど、2VS2というわけね、でも……」


 銀の小野はそこで疑問に思う。同一世界から来た自分と金の小野とは違い、この二人は別々の世界からきたゲーム参加者のはずである。

 それならば最終的に生き残れるのは一人だけ。この二人が手を組むのは不自然なのである。


 そんな口には出し切っていない疑問を察し、幸せの王子が口を開いた。


「余は元々像故に本来自力では指先一つ動かせぬ身。その理を金太郎殿が捻じ曲げて下さった。ならばその恩、忠義にかえ果たそうとおもったのじゃ」


 その隣で金太郎もまた腕を組んだまま少しだけ口を開く。


「僕に動かせない金はない」


 それでも尚不満そうな顔の銀の小野に、黄金の剣を鞘から抜き去りながら幸せの王子は更に続けた。


「更に余は、元の世界で死に絶え天界にて幸せに暮らしていた身。最後に金太郎殿の為に死しても構わん。寧ろ元の天界に戻れるのであらばそれは願ってもない事。娘よ、お主も同じように金太郎殿の下に付く気はないか? さすれば無駄な戦いも避けられよう」


 幸せの王子の提案に、銀の小野は目つきを鋭くして叫ぶ。


「笑わせないで! 私達はアンタみたいに気楽に死ねればいいわけじゃない! 生きて元の世界に帰るの! 数が同じで女二人相手なら余裕で勝てると思って?」


 銀の小野はそこで臨戦態勢に入る。

 先に攻撃すべきは剣を抜いた幸せの王子か、武器を手放している金太郎か、そこまで考えた時、腕を組んだままの金太郎が人差し指を立てながら再び口を開いた。


「まだ勘違いしているぞ?」


「なんですって?」


 銀の小野が怪訝に眉を潜めて聞き返した時────銀の小野の胸が、背後から貫かれた。


「……え?」


 訳も分からず赤く染まった自分の胸を見下ろし、そのまま崩れ落ちる銀の小野。

 背後に立ち、自分の胸を貫いた相手、

 ────それは虚ろな眼をした金の小野だった。


「3VS1、だ、幸せの王子は言っただろう? 『お主も同じように』と、君だけ(・・・)に投げかえた言葉を」


「な、何故……いつの……間に……」


 地に伏せる銀の小野に、金太郎はやれやれと首をふりながら答えだした。


「僕が最初に投げた(まさかり)さ、アレには最先端の生物化学を駆使して造られた薬品を染み込ませてあり、個人差はあれど相手への洗脳効果がある。彼女も防いだつもりだっただろうが、彼女へは非常に相性が良かったみたいだ。障壁を通して彼女の脳にその力は確実に浸透していたのさ。……ま、その相性が良い事は僕の眼力と経験で見抜いていたものだがね」


 信じられない顔をしながら金の小野を見上げる銀の小野。

 その悲痛な表情も、信じていた想いも、今の金の小野には届かない。


「とまぁコレが一応理屈ではあるんだけど、要は簡単な事さ」


 金太郎は倒れたままの銀の小野から目を離し、踵を返すと元来た道を歩き始めた。

 幸せの王子も剣を治めると、それに続いて歩き出す。

 残った金の小野が、横たわる銀の小野にトドメを指すべく手刀を振り上げた。


「僕に動かせない金はない」




 銀の小野────死亡

 残り────24名

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― 新着の感想 ―
[良い点] 銀<私たち、主役だったかしら……? なんて正しい気付き! 正しすぎて吹きました。
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