チート・ザ・14話
身体の大半を噛み千切られた花咲かじいさんは、傷口から血の代わりに出ている花々の間から更にツルを高速で伸ばし始めた。
それを八岐大蛇の巨大な身体に纏わりつかせ、そのまま身体を固定させ根付こうとする。
────しかしその時、丁度根付こうとしていた八岐大蛇の身体が破裂した。
破裂した部分から飛び出してきたのは赤ずきんちゃん。
【牢獄の灰】の中で既に八岐大蛇に呑まれていた赤ずきんちゃんは、内側から皮膚をぶち破ってきたのだ。
「おっはよー!」
無邪気にそう叫ぶ赤ずきんちゃんのほうへ、頭の一つが破壊された八岐大蛇は他の頭を向かわせる。
赤ずきんちゃんは空中で花咲かじいさんを鷲掴みにし、多方向から迫る巨大な竜の首の一つに、思いっきり投げつけた。
八岐大蛇はもはや人なのか植物なのかよくわからない花咲かじいさんの残りをそのまま丸呑みにしつつ赤ずきんちゃんへ迫る。
赤ずきんちゃんはその様子を確認すると、親指と中指をこすり合わせ軽快な音を鳴らした。
「どっごーん!」
すると、赤ずきんちゃんの魔力が込められていた花咲かじいさんが竜の口の中で爆発し、竜の頭は四散した。
「「「小娘があぁッ!!」」」
別方向から迫る6つの首。
その中の一番近いものに赤ずきんちゃんは自ら加速して口の中へ侵入する。
結果、彗星の如き速度とそこから発生する破壊力が、竜の頭をぶち破った。
「ぴゅーーー! あはははははは!」
小柄ながら圧倒的戦闘力を誇る赤ずきんちゃんに対し、八岐大蛇は作戦を変える。
残りを5つの首をそのまま向かわせるのではなく、遠巻きに赤ずきんちゃんを取り囲みつつ、口から炎を吐きつけたのだ。
「ぼーぼー!」
しかし相手は空を蹴る事で自在に飛び回る事の出来る赤ずきんちゃん。
炎噴出を上回る速度で宙を舞い、炎をかわしながら残る首に接近。赤ずきんちゃんの脅威的腕力により、また1つ竜の首が無惨に引きちぎられ地に落ちた。
残り半分となった竜の首が歯軋りをしながら後ずさる。
「ねぇドラゴンさん」
その時、赤ずきんちゃんの身体が忽然と消えた。
暫し呆然とする八岐大蛇。しかし、残る八つの瞳ですぐに周囲を見渡す。
「どうしてドラゴンさんの首はそんなに長いの?」
その警戒を嘲笑うかのように、1つの首の背後に出現した赤ずきんが瞬時にその首を撥ね飛ばした。
そしてその一瞬後に再び姿を消す。
残りの頭達は発狂した。
怒り狂って、或いは脅えるように四方八方がむしゃらに炎を吐き散らす。
しかしそんなモノが姿を消した赤ずきんちゃんに当たるわけもなく、辺りを無駄に炎の海に変えてゆく。
暫く炎を吐き続け息切れを起こす八岐大蛇。
少しだけ冷静になり、再び周囲を見渡すも赤ずきんちゃんは一向に出て来ない。
炎の海の中に佇む三つの竜頭。
その地獄のような光景の中で、火が燃え広がる音だけが不気味に響く。
拉致が開かないと八岐大蛇の首の一つが次の行動に出ようとしたその時、他の二つの首に異変が起こった。
一つは鋭利な刃物で切り裂かれたかのようにズルリと地に落ち、その切り口から赤ずきんちゃんが無邪気な笑顔を覗かせる。
「やっほー!」
もう一つは突如体内の水分が吸い取られたかのように干からびた。そしてその頭の上に生えてゆく蔓、葉、そして大きな花のつぼみ。
そのつぼみが開かれたかと思えば、中から完全に再生した花咲かじいさんが出現した。
「ふむ……」
姿を現した二人は、もはや残った竜の頭などは敵ではないとでも言わんばかりに八岐大蛇から視線を外し、それぞれ互いを見つめ合った。
先に動いたのは赤ずきんちゃん。
肉体を持って復活した花咲かじいさんの元へ一足飛びで接近する。
花咲かじいさんはソレを迎撃するために、右手を広げて小型の炎の鳥を複数発射した。
「小鳥さん、かっわいー!」
脚力により空中起動変換を可能にする赤ずきんちゃんはソレらをかわしながら拳で打ち落とす。
「ならば……」
その様子を見て、今度は花咲かじいさん自体が炎に包まれた。
先程は、燃え盛る塊を脱ぎ捨てるように不死鳥と共に炎の中から現れた花咲かじいさんだったが、今度はその逆。
花咲かじいさんの肉体はあっという間に燃え盛り、その炎は巨大な鳥の姿に形を変える!
数多の返り血で赤く染まった赤ずきんちゃんと、不死鳥と化して紅く燃え盛る花咲かじいさん。
その二人が空中でぶつかろうとしたその時、頭を1つ残すだけとなっていた八岐大蛇が、未だに首以外の身体は【牢獄の灰】の中にある身体が、突如大爆発を起こし、その大樹の牢獄を粉々に吹き飛ばした。
その中から現れたのは二本の足で地に立つ黒い影。
穏やかで、それでいて底知れぬ眼光を持ちながら影は呟く。
「【第五形態犬神】」
衣服を纏う二足歩行の黒犬と化した犬神がそう言い放ち何やら呪文の言葉を小さく呟いた時、炎の巨鳥の身体は時間が逆流したかのように萎んでいき、すぐに灰となって消滅した。
「花々、火の鳥、その不死の能力、大地や大気中にある微量な養分を吸いとる事で発揮していたな? ならばその元となる養分を分析し、我が魔力で消し去ればもはや生きてはいられまい」
花咲かじいさんがいなくなった赤ずきんちゃんはすぐに犬神のほうへ進路を変え、素早く接近する。
「やっぱり悪い狼さんに戻ったんだね」
そしてその勢いのまま、棒立ちの犬神の胸を右手の手刀で貫いた。
────が、犬神は倒れない。
それどころか僅かな血すら流す事なく、逆に胸回りの筋肉を締め付ける事で赤ずきんの右腕を固定し捕らえた。
「言ったはずだ、『不死鳥の力を取り込ませて貰った』、と。迂闊に近づいた事がお前の敗因」
赤ずきんちゃんは更に左手、両足も鋭く振るい、犬神の身体に突き刺す。
「えい、えいえい!」
が、右腕同様、それらも底無し沼に沈むかのように完全に取り込まれただけだった。
抱きつくように両手両足が犬神の身体に沈み、四肢を動かせなくなった赤ずきんちゃんを見つめながら、犬神は呟く。
「知性と暴力の両立、故に我無敵なり。そして生来の強欲故にその血肉を欲す」
攻める事も逃げる事も出来なくなった赤ずきんちゃんを、犬神は口を裂けさせ、頭から丸呑みにした。
花咲かじいさん────死亡
赤ずきん────死亡
残り────25名