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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・バトルロワイヤル
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チート・ザ・12話

 猿とカニがお母さんやぎとの死闘を行った川の遥か下流、荒野が広がる大地を川沿いに一人の老人が歩いている。

 そう、そこは確かに荒野だった(・・・)はず。

 しかし老人が歩いた道は、一枚の紙に鮮やかなインクをつけた筆をなぞらせた後のように、草木や花々が生い茂り咲き誇っていた。

 老人の胸に付けられた名札の文字は『花咲かじいさん』。

 彼は手持ちの灰を巻きながら歩いている。その灰に込められた魔力が死の大地に命を吹き込んでいたのだ。

 己の使命を果たすがごとき素晴らしき行動ではあるが、このサバイバルゲームを生き抜く事を目的とするならば、その非常に目立つ行動は愚かという他ない。


 案の定、花咲じいさんは一匹の獣に見つかった。

 真っ黒な毛並みを持つその獣もまた名札を脇の近くに付けており、こちらの文字はシンプルに『犬』。


「ジジイ、いいモノもってんじゃねーか、この俺に吠えられたくなければソイツを置いてゆけ」


 『欲しい物は力づくで取る』

 生来自らの強欲を抑えず己の力を振り回す事で生きてきた犬は、このサバイバルゲームの中でもその考えを貫いていた。

 しかし犬にもプライドがあるのかはたまた思いつかないのか、不意打ちや闇討ち等のマネはしない。

 あくまで、正面から堂々と相手を服従させる事を信念としており、今回も先に花咲かじいさんを遠目から発見したにも関わらず、自ら姿を現したのだ。


「犬、か。ワシもシロという犬を飼っていての……お主とは真逆の真っ白な毛並みの犬じゃった……」


「ジジイ、俺の言葉を無視するたぁいい度胸じゃねーか。死ね、【終末咆哮(ヘルズハウリング)】」


 犬はそこまで喋ると大きく息を吸い込み、張り裂けんばかりの叫び声をあげた。


「ギュルボゲッバーッ!! ベルギョギョムレヴァニラムッシャギャシャガーーーーーーーーーッ!!!!」


 その強烈な雄叫びにより、空気が振動し周囲に衝撃波が撒き散らされる。

 花咲かじいさんも勿論その射程に入っており、真空の刃をその身に浴びた。


 全身をズタズタにされた花咲かじいさん。

 しかし身体から噴き出るのは赤い血ではなく桃色の花々。


「なに……?」


 全く予想が出来なかった事態に犬は呻く。

 そんな犬の様子など知ったことではないかのように、もはや人なのか花なのかよくわからない花咲かじいさんは声を発した。


「本当にお主はシロとは真逆じゃ……シロはとても賢い犬じゃったのにお主は……」


 花咲かじいさんは桃色の腕をスッと前に突き出した。そして唱える。


「【虹色の灰(フラワーズグレイ)】」


 花咲かじいさんの腕から多量の灰が噴射された。

 真っすぐ飛ぶソレを犬もまた横に跳んで躱す。

 【虹色の灰(フラワーズグレイ)】が荒野に付くと、そこから瞬時に草花が生い茂りだす。その様子を横目で見ながら犬は考えた。


(これがジジイの能力か、しかし、喰らった所で直接害はなさそうだが?)


 犬がそう思った矢先、自らの身体に異常を感じる。

 右足の部分からモゾモゾと何かが生える感覚(・・・・・)


「こ、これは……花!? 俺の足から花が生え始めただと!?」


「そう、ワシの【虹色の灰(フラワーズグレイ)】にわずかにでもかかったものはそこから綺麗な花が育つ……宿主を栄養にしてな」


 花咲かじいさんが放つ灰の光線を難なく躱したつもりであった犬だったが、その灰は周囲に散布されながら発射されており、完全に躱しきる事はまず不可能。

 そしてその攻撃を一度喰らえば、体中のエネルギーはみるみる内に植物に吸いつくされてしまう。


「ふざけるなーーーーーッ!!!!」


 犬は吠えた。

 それにより生えている花々も、それを生み出している身体に付いた灰もまとめて吹き飛ばす。

 先ほどの【終末咆哮(ヘルズハウリング)】と同じように周囲に衝撃波も撒き散らし、それがまた花咲かじいさんを傷つけ、じいさんの身体にまた多くの花を咲かせた。


 犬が発する(オーラ)はそのまま更に大きくなり、犬の身体が見えなくなるほどの光を放つ。

 その光の中のシルエットは元々の身体の二倍ほどに膨れ上がり、更に頭の部分も三つに分かれた。

 ────光が掻き消えたとき、そこに首が三つになった大型犬が姿を現す!


「【第二形態三首魔犬(ケルベロスチェンジ)】! ジジイ~! 覚悟しやがれよコラァッ!!」


 荒野で出会った老人と黒犬は、一戦交えただけで植物と魔獣に変わった。


 異形の二人がしばし睨み合い互いに必殺技を放とうとしたその時、近くの崖の上から一つの影が飛び出してきた。

 反射的に二人は上を見る。

 日に照らされながら空中宙がえりをする人影。赤い服に赤いフードを身に着けた人間の少女。

 アクロバティックな動きで二人に接近しながら少女は呟く。


「お花が綺麗だから摘みに来たのだけど、ココにも悪い狼さんがいるのね。それも三匹?」


 少女にも二人と同様の名札が胸に付けられており、その文字は『赤ずきん』。

 赤ずきんちゃんは宙がえり中に、足で何もない空間を思いっきり蹴った。

 その反動により、その小柄な身体は犬の方へ流星のごとき急接近し、そのスレ違い様に犬が増やしたばかりの頭が一つ飛んだ。


「ぐわああああああぁぁぁッ!!」


 残りの二つの頭が大きく悲鳴を上げながらのたうち回る。

 赤ずきんちゃんは更にもう一度跳び、いましがた跳ね飛ばした犬の首を空中でキャッチしながら地面に着地する。


「一匹倒すと他の二匹も痛がるのね、変わった狼さん」


 犬はたまらずその場を飛びのき赤ずきんちゃんと距離をとった。

 赤ずきんちゃんはとりあえず犬からは視線を外し、先ほどまで犬と戦っていた花咲かじいさんの方へ目を向ける。


「ねえ、おじいさん」 


 三首魔犬(ケルベロス)と化した犬は『狼さん』という認識にも関わらず、花の固まりと化した花咲かじいさんは『おじいさん』の認識のようだ。

 そんな事も考えた花咲かじいさんであったが、とりあえず自分に敵意はなさそうな赤ずきんちゃんの問いかけに返事を返した。


「なんじゃ?」


「おじいさんの身体はどうしてそんなにお花なの?」


 その瞬間、赤ずきんちゃんが持っていた葡萄酒が花咲かじいさんの身体に降りかかる。

 直後行われた赤ずきんちゃんの指パッチンを火種に、花咲かじいさんの植物の身体は炎に包まれた。

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