チート・ザ・6話
少女は身軽な動きで森を駆けていた。
ヒラヒラとした森を走り回るには似つかわしくない美しいドレスを身に纏い、足には光り輝くガラスの靴を履いている。
誰もが思わず振り返る程整った綺麗な顔立ちをした美しい少女、その胸に縫い付けてる名札の文字は『シンデレラ』。
(凄い戦いが起こっているみたいね)
先ほど森をゆっくりと歩いていたら、突如その横を、全てを粉砕していく極太の破壊光線が通り過ぎた。
耳を澄ませば、光線が来た方角からは戦いの音が更に響いていたため、巻き込まれては敵わない、と持ち前の脚力を活かし場を離れていたのだ。
(……!)
しかし、ある程度の場所でシンデレラは立ち止まった。
いつのまにか周囲に白い靄が発生していたのだ。
「霧、じゃあないわね……これは、煙?」
森で煙の自然発生する事はまずない。
つまり、これは誰かが人為的に起こした物である可能性が高いと推測できる。
通常の煙であれば大きな問題はないが、この島は異世界の英雄達が殺し合いのために集められた場。煙にどんな効果があるのかなどわかったものではない。
(つまり、触らない事が一番ね)
シンデレラは煙がない方向へと進路を変え、再び走り出した。
どれだけか走った後、シンデレラは再び足を止める。
(周囲の煙が増えてきているわね……風圧で消し飛ばしたほうがいいかしら?)
一瞬考えて首を横に振った。
(いいえ、そんな目立つ行為は出来るだけしないほうがいいわね。森は隠れる事も出来るから選んだのだから、自分からはなるべく行動を起こさないでおきましょう)
シンデレラもこのバトルロイヤルには非積極的であった。
殺し合う以外になにか脱出する方法が見つかるのであればそれでよし、それが叶わないならば『参加者』が少なくなり消耗する後半戦までは力を温存しておくべき。
その考えに従い、更に煙を避けるように足を進める。
更に進む事数分、シンデレラは胸中舌打ちをした。
避けていたはずの煙は更に増え、自分の左右及び来た道であるはずの後方を覆っている。
そして前方だけが煙に侵される事無く綺麗に空いている。
つまり、
「誘われていた、ってわけね」
理解するのは遅かったが過去を嘆いても仕方がない。
シンデレラは初めは躊躇っていた煙への攻撃を行う決意をする。
足元まであるドレスの裾をまくり、長く綺麗な足をあらわにした。
そしてその場で回し蹴りを行うことで強力な突風を生み出し、煙を遠くへ追いやる。
(ってこの位じゃ焼け石に水か)
シンデレラはもう一度回し蹴りを行い、今度はその勢いのままその場で回転を始めた。
それによりシンデレラを中心に竜巻が発生し、周囲の木々は大きく揺れシンデレラを囲んでいた煙は全て遠くに流される。
────はずだった、が、その前に近くの煙からシンデレラ目掛けて突如矢が発射される。
「ん!」
シンデレラはそれを見切り、攻撃を中断。
すぐにその矢を手で掴み防御した。
(煙に紛れて飛んできた……敵は近くにいるの?)
シンデレラの疑問を余所に、周囲の煙から次々と矢が飛来する。
四方八方から迫りくるそれをシンデレラは最小限の動きで躱し、もしくは手刀で叩き落した。
(複数人? でも気配がない……)
矢が終わったと思えば今度は鉛玉が飛来する。
矢とは比べ物にならない速度と威力を持つ攻撃ではあるが、それも難なく躱すシンデレラ。
更に攻撃は砲弾や光線、炎や雷となって次々とシンデレラに襲い掛かった。
(デタラメな! どういう事!?)
攻撃自体はさほど大した事はない。圧倒的反射神経とそれに見合う身体能力で全て捌くだけ。
しかし、煙の奥から人の気配もなく多種にわたる攻撃が展開されている。その謎の現象がシンデレラの思考を混乱させる。
そこでシンデレラは、砲撃や雷を捌きながらも攻撃が発生する場所を最大限に集中して観察した。
そこである事に気が付く。
(これは、煙の向こうから攻撃が来ているんじゃない! 煙そのものが矢や炎に変化している!)
シンデレラはそのまま攻撃を捌き続けながら、周囲広範囲にも意識を広く向け索敵を広げた。
すると前方の煙の向こう、数キロメートル先に人の気配がする。
気が付けば空いていたはずの前方も煙に覆われてきたが、シンデレラは覚悟を決めてその煙に飛び込み、前方を全力で走った。
尚も煙から発生する攻撃がシンデレラを襲ったが、高速で動くシンデレラにそれらはまるで当たらない。
あっという間に煙を抜けた先に、一人の少女が立っていた。
背丈もシンデレラと変わらない、みすぼらしい姿をした少女。
その少女が持つ短い棒の先端から、シンデレラを覆っていたものと同じ煙が発生している。
シンデレラは少女の胸元に目を向けた。
そこには自分と同じ名札がつけられており、そこに書いてある文字を静かに読み上げた。
「マッチ売りの少女……」