チート・ザ・1話
むかしむかしある所に、あらゆる世界を管理統一する唯一無二の空間がありました────
漆黒と静寂が支配する闇の空間。
その中央に、突如眩い光が当てられた。
スポットライトの中央に姿を現したのは一人の女。
女が自身の華奢な指をパチンと鳴らすと、その周囲にも次々とスポットライトが降りていく。
それぞれの灯りの中央には、やはり一つずつの人影、あるいはそれに近いものが姿を現す。
最初のものを含め、現れた光の数は全部で27。
「……ここは?」
「なんだ? お前らは」
「あれ? 私は死んだはずじゃあ……」
後から現れた者達は、自分が置かれた状況がわからないようにどよめく。
その時、中央の女が声をあげた。
「静粛に、これより私が説明しよう」
その言葉に、全員が口を閉じる。
「まずは私の事を簡単に説明しようか。私は簡単にいうならば『神』だ。それも圧倒的な力を持った『絶対神』。故にお前達は私に逆らう事は出来ない」
突然の高圧的な説明に、眉を潜める者、怒気を放つ者、様々ではあるが皆、今のところは静観している。
「お前達はそれぞれ異なる世界で非常に力をもった勇者達だ。中には物語の中で生命活動が停止してしまった者もいるが、私の力で蘇生させ、まとめてこの『中央世界』に召喚した」
女の説明。
それは常人であれば何一つ理解が追い付かない内容であろう。
しかし、この場の全員がそれを静かに聞き入れる。
歴戦の実力者である彼ら彼女らは感じ取ったのだ。女の言葉が決して偽りではないものである事を。
「殆どの者達は初対面であるな? どれ、先ずは互いが解りやすいように『名札』を付けてやろう」
言葉と共に女の指先が光る。
────その瞬間、場の全員の胸に、あるいはそれに近い部分に電撃のような衝撃が走る。
「うっ!」
「な?!」
「……こ、これは」
全員が衝撃を受けた箇所を見下ろす。
その部分には服の上、あるいは素肌に直接長方形の入れ墨のような物が浮かび上がり、更にそれぞれ異なる文字が刻まれる。
女は、その文字一つ一つを順番に読み上げた。
「『長男ぶた』
『次男ぶた』
『末っ子ぶた』
『お母さんやぎ』
『シンデレラ』
『猿』
『カニ』
『翁』
『ヘンゼル』
『グレーテル』
『桃太郎』
『マッチ売りの少女』
『北風』
『太陽』
『浦島太郎』
『鶴』
『雪女』
『金太郎』
『坊主』
『白雪姫』
『犬』
『チュー子』
『幸せの王子』
『かぶ』
『人魚姫』
『わらしべ長者』
『花咲かじいさん』
『金の小野』
『銀の小野』
『織姫』
『彦星』
『いばら姫』
『赤ずきん』
……26の世界から集いし33の英雄達よ」
そこで女は言葉を区切り、鉄面皮だった表情を少しだけニヤリとした笑いに変え、言葉を続けた。
「────今から君達に、殺し合いをしてもらう」
女の言葉に周囲は再びどよめく。
中には女に向けて殺意を放ち臨戦態勢に入る者もいた。
しかし、周囲が動く前に女が更に口を開く。
「まぁ落ち着け英雄達よ、まだ説明の途中だ。……大きなルールは3つだけ」
女は右手の指を一本立てた。
「1つ、殺し合いは同じ物語から来た者達のみが生き残った時のみ終了する……多くの者は1人でここに来たであろうが、例外はいくつかあるな?『3匹のこぶた』『猿かに』『ヘンゼルとグレーテル』『北風と太陽』『金の小野、銀の小野』『織姫と彦星』、お前達の事だ。良かったな、協力すれば勝率は上がるかも知れんぞ」
女の言葉に、『坊主』の名札を付けた男が声をあげる。
「な、なんだそのルールは?! 明らかに不公平じゃないか!」
「ああ、そうかも知れんな。だがな、『元の物語で複数の主役がいた』それも運の1つ。……そして、運も実力の内という事だ」
坊主の言葉を一蹴した女は2本目の指を立てた。
「2つ、殺し合いが終わった時点で勝者をこの『中央世界』を通じて元の世界に戻す。逆にいえばそれ以外にお前達が元の世界に戻るすべはない」
理不尽極まりない女の言葉に、また別の男が動いた。
男の胸に付いている名札は『浦島太郎』。
「笑わせんな、テメーを殺してさっさと帰らせてもらう」
そう言いながら浦島は手に持っている釣竿を振るった。
浦島の放つ釣竿の鞭は、軽く1振りするだけで鋼をも鋭利に切断し、全力で複数回振るえば海底都市をも滅ぼす必殺の刃。
────だが、その攻撃は女には届かなかった。
いや、届かなかったどころではない。浦島太郎が当てられているスポットライトに見えない壁があるかのように、斬撃は全て1つの光の中で跳ね返ったのだ。
「……ほう?」
浦島はその様子をみて、かすかに笑うと更に釣竿に力を込めた。
しかし、それ以上浦島が行動する前に、女が指をパチンと鳴らす。
────すると、浦島太郎の身体はスポットライトごと跡形もなく消えた。
「気の早いヤツだ。……ヤツが暴れて時間を喰うのも無駄なのでな、一足先に『フィールド』に送らせて貰った」
女はそこで3本目の指を立てた。
「3つ、殺し合いは今、浦島太郎が先に向かった1つの島で行って貰う。自然の地形も活かして精々頑張ってくれたまえ」
そこで女は再び指を鳴らそうと構える。恐らく浦島太郎を送った能力の発動条件なのだろう。
その指が鳴る前に、『シンデレラ』の名札を付けた少女が叫んだ。
「待って! 一体なんなの?! 貴女は何故私達にこんな事をするの!?」
シンデレラの悲痛な叫びに、女は頭を掻いた。
「……あぁ、動機か? 簡単な事だ。私は今まで沢山の世界を見て楽しんできたが、なんだか飽きてしまってな。こうすると面白そうだと思ってな」
「な……!」
女の余りにも身勝手な言葉にシンデレラは絶句する。
その様子すらも楽しむように女は嗤うと、高らかに叫んだ。
「さぁ私を楽しませてくれよ古の英雄達よ! ゲームスタートだ!!」
その声と共に女は大きく指を鳴らすと、女を当てている以外のスポットライトは全て消えた。
今章は別作品にもあげている『チート・ザ・バトルロワイヤル』と同じ内容になります。
第七回ネット小説大賞にて一次選考通過した記念に投稿させて頂きました。
『同作品を何度も投稿してはいけない』という本サイトの規約に触れるのでは? とも思い、以前運営様に確認も取りましたが問題ないとの事です。
本作を読んで気に入って頂けたなら、ネット小説大賞のほうも応援していただけると嬉しいです。