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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・あかずきんちゃん

 むかしむかしある所に、可愛らしい女の子が住んでいました。

 女の子はおばあさんがつくってくれた頭巾がお気に入りでいつもかぶっています。

 そしてその頭巾が真っ赤な色をしているため、皆からは『あかずきんちゃん』と呼ばれていました。


 ある日、お母さんはあかずきんちゃんに向かってこう言います。


「あかずきん、おばあさんが病気になってしまったの。お前もおばあさんには良く可愛がってもらったでしょう? このケーキと葡萄酒をもってお見舞いに行ってあげなさい」


「はいお母さん、わかりました」


「途中で道草を食ってはいけませんよ。あと狼にも気をつけなさい、狼はとっても悪い動物で何を考えてるか得体が知れないから話しかけられても返事をしてはいけないわよ」


「もう、大丈夫よお母さん! 行ってきます!」






 あかずきんちゃんが歩いてしばらくすると、森の陰からひょっこり狼が顔を出し話しかけてきました。


「やあ、可愛い可愛いあかずきんちゃん、そのフードとっても似合っているね、時間があったら僕とちょっとお茶しない?」


 その瞬間、狼の首が飛んだ。

 一瞬遅れて噴水のように湧き出る鮮血が、あかずきんちゃんのフードをまた少し赤黒く染める。

 あかずきんちゃんはお母さんの言いつけを忠実に守るため、最短の動きで相手の口を封じ、狼と会話をしない事を成功させたのだ。


「やだ、手まで赤くなっちゃったわ。おばあちゃんの家に行く前になんとかしなきゃ」


 あかずきんちゃんは周りを見渡します。

 川や池があればそこで血を洗い流したのですが、残念ながらこの辺りにはそういったものはありません。

 仕方がないので近くの花畑の花々に血を擦り付けふき取る事にしました。

 しかし、今倒した相手は狼が魂の半分をわけた分体の片割れに過ぎなかった。

 己の半身が一瞬で殺された狼は、このままあかずぎんちゃんに関わるのはマズイと判断する。


(『おばあちゃんの家に行く前に』、か。ならばまずそちら喰って力をつけ、万全を期して迎え撃ってやろうぞあかずきん!)


 こうしてあかずきんちゃんが手を拭いている間に狼が先におばあさんの家に行ってしまいます。

 家の前に着いた狼は、まず声色をあかずきんちゃんのモノに変える。


「【白墨声明ボイスチェンジチョーク】!」


 そして扉をノックしながら家の中へ声をかけた。


「あかずきんよ、ケーキと葡萄酒を持って来たの。開けて頂戴おばあさん」


 しかし、中から返事はなかった。

 あかずきんちゃんの時と同様警戒されてしまったのだろうか。

 しかしモタモタしていると本物のあかずきんちゃんに追いつかれてしまう。

 しばらく待っても開く気配のない扉に対し、狼は強硬手段に出た。


「ええい面倒! まとめて消し飛んでしまえ! 【幻狼闇息吹(フェンリルブレス)】ッ!!」


 狼が吐き出した息により、家の扉は轟音と共に消し飛んだ。

 しかし相手はあのあかずきんちゃんの血族。この程度で倒せている保証はない。

 狼は最大限に注意を払いながら家の中へと足を運んだ。


 そして狼は理解した。返事がなかった理由を。

 ────家のベッドの上で、病魔に身体を蝕まれたおばあさんは、既に息を引き取っていたのだ。

 狼はそんなおばあさんをパクリと丸呑みにしてしまいました。

 更におばあさんの服を着てずきんをかぶり、おばあさんに変装します。


 ────その瞬間、【幻狼闇息吹(フェンリルブレス)】ですら破壊する事が出来なかった家の壁の一部が突如消滅した。

 その奥から姿を現すは、先ほど絶望的な強さを見せつけた真紅の死神。

 太陽の光をその身に背負い逆光で表情は読めないが、髑髏のように邪悪なオーラがひしひしと伝わる。

 そう、大鎌の代わりにケーキと葡萄酒を携えたあかずきんちゃんがそこにいた。


「お見舞いに来たわおばあさん」


 あかずきんちゃんはそう言いながら葡萄酒を狼に振りかけた。

 そして指パッチンを火種にアルコール度数95%の葡萄酒を引火させ、小さな家の中に獄炎を起こす。

 しかし、おばあさんを喰らった狼も先ほど無様に殺られた分体と同じではない。

 身体を横回転させながら飛び退くことで、身体を燃やす炎を風の力で強引に振り払った。 


「ねえおばあさん、どうしておばあさんの耳はそんなに大きいの?」


 あかずきんちゃんは口を動かしながら手刀を振るい、狼の頭部を目掛けて風の刃を飛ばす。


(来るッ!)


 狼は眼に映らないその一撃を紙一重で屈んで躱し、更に残像を残す程の超スピードであかずきんちゃんの背後に回り込んだ。


「それは、お前の【真空衝撃波(ソニックブーム)】の音をよく聞くためさ」


 細い首筋に向けての背後からの手刀。

 狼に『()った』と確信させた素晴らしい斬撃であったが、狼が斬り裂いたモノもまたあかずきんちゃんの残像に過ぎなかった。


 消えたあかずきんちゃん。

 姿は見せずに可愛らしい声だけが家の中で不気味に響く。


「ねえおばあさん、どうしておばあさんの目はそんなに大きいの?」


 突如、何もない空間から青白い腕が姿を現した。

 華奢な腕にも関わらず、分体の首を一瞬でねじ切った最悪の凶器。

 人差し指と中指を立てた目潰しが、まっすぐ狼の瞳を目掛けて飛んでくる。

 しかし、狼にはその軌道も見えていた(・・・・・)


「それは、お前の【色彩変化奇術(カメレオンルーツ)】を見極めるためさ……ッ!」


 襲い掛かる魔手と己の顔面の間に、狼はギリギリで手を挟み込み防御する事に成功した。

 あかずきんちゃんと狼、形の違う2つの手。ぶつかり合う二つの力は拮抗し、周囲の空気が震動する。


「ねえおばあさん、どうしておばあさんの手はそんなに大きいの?」


 あかずきんちゃんの二本の指(チョキ)に凶悪なまでに膨大な(エネルギー)がこもり、狼の(パー)は握りつぶされんばかりにミシミシと軋む。

 狼は熱く冷たい汗をかきながら返事を返した。


「……ッ! それは、油断したお前を仕留めるためさ!」


 狼は空いたもう一つの手であかずきんちゃんの胴を薙ぐ。

 必殺の横薙ぎはあかずきんちゃんの華奢な身体を真っ二つに引き裂く!

 ────はずだった。しかしその一撃が胴に当たった時、狼の手にグニャリとあり得ない感触が当たり、手が胴に粘着する。


(これは、ヤツが持っていたケーキの感触! あれを身体に仕込みクッションにしつつ俺の手を絡めたのかッ!)


 両手が塞がった狼。それに対してあかずきんちゃんはニヤリと嗤い、空いた手の指先を狼の顔面に向ける。

 指先に集中される邪悪な魔力。狙いは狼の口。

 『最期は心地良く響く断末魔を』

 そんな思いを込めて、あかずきんちゃんは歪んだ口元を動かした。


「ねえおばあさん、どうしておばあさんの口はそんなに大きいの?」


「それは……お前を食べるためだぁッ!!」


 その瞬間、狼の首が伸びた。

 いや、伸びただけではない。狼の顔そのものが数倍に膨れ上がり、その巨大な口で目の前のあかずきんちゃんを丸呑みにしたのだ!


 死ぬ寸前だった。予めおばあさんを喰らって尚ギリギリの闘い。

 生への執着が狼に芽生えなければこの【顔面巨大化(フェイスビッグ)】の能力に目覚める事もなかっただろう。


「はは、は……ははははははははははッ!!」


 狼は狂喜した。

 この命がけの戦いが、自身を更なる高みに登らせたのだ。

 ────その瞬間、狼の胸のあたりが弾けた。


「え?」


 狼は間の抜けた声だけを残し、その意識は永遠に闇の中に沈んだ。

 

 狼の後ろに立っているのは一人の男。

 今しがた狼を葬った猟銃の銃口から登る煙にフッと息を吹きかけ、狼の胃の中のあかずきんちゃんとおばあさんを引っ張り出した。


「ぷぱっ、猟師さんありがとう」


 丸呑みにされたあかずきんちゃんはニッコリ笑って猟師に礼をいう。

 同じく丸呑みにされた息をしていないおばあさん。

 しかしその心臓はすぐに鼓動を再開しだした。

 さほど時間を置かずにおばあさんも起き上がる。


「やぁおはよう、あかずきん」


「あれ? おばあちゃんどうしてそこに?」


 血まみれで和やかに話す二人を見ながら、猟師はやれやれと首を横に振った。


「自らを仮死状態にし狼の餌にする事で孫の成長を促す、よく思い付いたもんだよ」


 猟師の溜め息まじりの呟きに、あかずきんちゃんは目を丸くします。


「ええ? さっきのお見舞いしてたおばあさんは狼だったの?」


「本物の私があの程度の実力なわけがなかろう、衣服は赤くとも心はまだまだ青いのぅあかずきん」



 めでたしめでたし

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