チート・ザ・七夕物語
むかしむかしある所に、天の神様が住んでいました。
天の神様には織姫という可愛い可愛い一人娘がいます。
織姫は神様の言いつけの下、毎日真面目に機を織る仕事を一生懸命こなしていました。
織姫が年頃になった時、天の神様は働き者の娘に素敵な相手と結婚して欲しいと思い、その相手を探します。
そんな中見つかったのが、彦星という牛の世話をしながら暮らしている立派な青年です。
天の神様の計らいでお見合いをする事となった織姫と彦星。
二人は相手を一目見ただけで、好きになりました。
「あぁなんて美しくて器用で心優しい素晴らしい人なんだろう、牛の餌になるがいい! 【雄牛猛突進】!!」
「まぁ逞しくて愉しくてかっこ良い素敵な人なのでしょう、織物の模様にしてあげるわ! 【機巧科学処刑場】!!」
彦星が召喚した滝のように溢れる猛牛の群れが織姫を襲ったかと思えば、織姫の前に突如現れた巨大で禍々しい機械が牛達をミンチに換えてゆく。
一瞬にして血の海と化した天の国で二人はすぐに結婚して、楽しい生活を送るようになりました。
「ハハハハハハッ! これならどうだ!? 【四次元雄牛光線】ッ!!」
「面白い! 少し遊んであげましょう! 【機巧科学粉塵爆発】ッ!!」
でも仲が良すぎるのも困りもので、二人は仕事を忘れて遊んでばかりいます。
「織姫さまが機織りをあまりしないので、みんなの着物が古くてボロボロになりました。数少ない新しく出来た着物はなんか血生臭いです」
「彦星が牛の世話をあまりしないので、牛達が病気になってしまいました。あとなんか異様に数も少なくなった気がします」
みんなが天の神様の元に文句を言いに来るようになりました。
天の神様は、静かに立ち上がり織姫と彦星が遊んでいる方へ歩いていきます。
「中々やるな! 【雄牛弾丸乱撃砲】ッ!!!」
「貴方は相変わらず芸がないわね! 【機巧科学大極刑】ッ!!!」
天の神様は遊んでいる二人の間にその身1つで割って入ると、織姫の攻撃を右手で、彦星の攻撃を左でそれぞれ止めた。
自分達の奥義が片手でいとも簡単にかき消された事に、織姫と彦星は動揺し手を止める。
シン……と静まり返ったその空間で、天の神様はポツリと呟いた。
「【天の川】」
その瞬間、天の神様の鼻と尻から光輝く水の結界が溢れ出た。
それは織姫と彦星を隔てるように長くどこまでも伸びていき、あっという間に大きな川が出来てしまいました。
ザァザァと流れる大川の音にも負けない大きさで、天の神様は目を見開きながら叫びます。
「お前ら同居禁止! この南北に伸びたこの【天の川】を境に、それぞれ東と西に別れて仕・事・し・ろ・ッ・!!!!」
「ああ、彦星に会いたい……彦星と遊びたい……」
毎日部屋で一人、結局仕事もせずに布団にうずくまって泣き続ける織姫。
完全な引きこもりニートと化した織姫を何とかしようと天の神様が言いました。
「娘や、そんなに彦星に会いたいのか?」
布団に顔まで埋もれさせていた織姫は、その言葉を聞くや否や飛び起き、一瞬で正座姿勢を取るとキリッとした表情でキッパリと返事をします。
「はい、とてもとても会いたいです」
「う、うぅむ……キチンと仕事するなら、一年に一度だけ、七月七日の夜だけは【天の川】を解いてやろう。その間は彦星と会ってもよいぞ」
それから織姫は、一年に一度会える日だけを楽しみにして、毎日凄まじい速度と精度で機を織りまくりました。
出来た着物の強度、美しさ、実用性も去ることながら、機そのものも自分で創るようになり、より精巧で様々なオプションのついた機械が日々創り出されていきます。
天の川の向こうの彦星も、その日を楽しみに天の牛を飼う仕事に精を出し、牛の数は以前の数十倍に増え、その一頭一頭が化け物のような大きさを誇り、翼や多角を持ち炎や吹雪を吐く個体まで現れだしました。
そして待ちに待った七月七日の夜、二人は天の川を越えて遊びに行くのです。
さあ、あなたも夜空を見上げて、二人の再会を祝福してあげてください。
めでたしめでたし