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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・人魚姫

 むかしむかしある所に、美しい人魚たちが住む海底の国がありました。

 その国のお城には六人の姫がいて、その中でも末っ娘の姫は特別綺麗です。


 人魚たちの世界では、十五歳になると海の上の人間の世界を見に行くことを許されていました。

 末っ娘の姫は、お姉さんたちが見てきた人間の世界の様子をいつも胸ときめかせながら聞いています。


「ああ、はやく十五歳になって、人間の世界を見てみたいわ」


 そうするうちに一番末の姫もついに十五歳をむかえ、はれて海の上に出る日がきました。

 喜んだ姫が上へ上へとのぼっていくと、最初に目に入ったのは大きな船です。


「わあー、すごい。人間ってこんなに大きな物を作るんだ」


 人魚姫は船を追いかけようとしました。

 しかしその時、身も凍るような不吉な呪文と共に辺りは一瞬にして大嵐に見舞われた。

 その大天災により船はあっという間に数倍の高さは有ろう波に呑まれてしまう。

 人魚姫は本能的に沈んだ船の方へ泳いだ。

 水中では船から放り出された荷物が溢れ、陸の上でしか生きる事の出来ないか弱い種族が水の中でもがいている。

 その全てを助ける事は出来ない。

 人魚姫はせめて一人だけでもと、もっとも近くにいた少年を抱きかかえ浜辺に運び上げた。


 浜辺まで運んで見ると、それはとても美しい顔立ちをし、豪華な衣装に身を包んだ少年でした。

 人魚姫はお姉さん達に聞かされて知っています。このような格好をしているのは人間の王子様なのだと。


「王子さま、しっかりして! 【神秘回復癒水(マーメイドヒール)】!」


 人魚姫は王子様に回復の魔法をかけ懸命に看病します。

 気がつくと、日が昇り始めていました。

 そこへ若い人間の娘が走ってきます。


「あっ、いけない」


 人魚姫は思わず海に身をかくしてしまいました。

 娘は王子様の元に真っすぐ向かい、倒れている王子様の身体を揺すりながら呼びかけます。

 人魚姫はその娘の声がどこか聞いた事があるような気がしましたが、その答えを出す前に王子様が目を覚ましました。


「……う……あ、あなたが僕を助けてくれたのですね……」


 どうやら王子様は目の前にいる娘を命の恩人と勘違いしてしまったようです。

 人魚姫はションボリして海底のお城に帰る事にしました。


 しかし、帰った後も王子様を忘れる事が出来ません。


「ああ、素敵な王子様……そうだ、人間になれば、王子様にまた会えるかもしれない」


 人魚姫はそこで魔女のところへ出かけ、人間の女にしてくれるよう頼む事を決意したのです。






「バーさん! 人間になる薬1つおくれ!」


「まいど! お代金は美しい声になりやす!」


「いつでも持っていけ! さあ薬を早くッ!」


「あ、でもこの薬、王子様と結婚できなかったら泡になって消えてしまうんですがよろしいですかい?」


「構わん構わん、それより早よ!」


 人魚姫は再び浜辺に行くと、貰った薬を飲みました。

 するとどうでしょう、魚の下半身が人間のものに変わっていきます。

 そして文字通りその足で王子様のお城を訪ねました。


「はいどなたでしょう……ちょ、そんな恰好で///// 早く入りなさい!」


 王子様は人魚姫をひと目見て気に入り、妹のようにかわいがりました。

 しかし王子様は浜辺で出会った娘を命の恩人と思い込んでおり、その心を奪われてしまっていたのです。

 人間になる代償として声を失ってしまった人魚姫は言葉で真実を伝える事が出来ません。

 そこで人魚姫はペンとメモを拝借し、王子様に自分が本当の恩人である事を書いた紙を渡します。


「ん、なんだいその紙は? 僕に読んでほしいのかい?」


「きゃー! 王子様大変ですー! ちょっと来てくださいー!」


 手紙を王子様が受け取ろうとした瞬間、あの娘が慌てた声で王子様を呼びます。


「あ、ああ今行く! ……すまない、また後にしてくれ」


 結局王子様は手紙を受け取らずに行ってしまいました。

 娘はオロオロした様子でトラブルの内容を王子様に話しながら、一瞬だけニヤリと笑いながら人魚姫に目を向けた。






 手紙を受け取ってもらえなかった人魚姫は、今度は王子様の隣で一定の間隔でテーブルに指を打ち付けます。


「どうしたんだ? ……これは、モールス信号? ええーっと『あ』『の』『と』『き』『た』『す』『け』『た』『の』『は』」


 その時、それはそれは綺麗な音楽が響きわたりました。

 音の方へ目を向けると、あの娘がバイオリンを優雅に弾いています。

 見事に一曲弾き終わると、ニコリと微笑みながら王子様に目を向けました。


「王子様、私楽器を始めてみましたの。いかがでしょう?」


「ああ! とっても上手だよ!」






 人魚姫は今度は王子様が寝室で一人になった時、隣の部屋から電波を飛ばしました。


「な、なんだこの脳内に直接響くような声は……!? 」


────『王子様、聞こえますか? 実はあの嵐の夜、貴方を沈んだ船から助け【さぁ脳内ショッピングの時間です! 見てくださいこの立派なタラバガニ! 今なら同じものをつけてたったの2000円、 これは安い!!】────


 しかしその電波は途中でより大きな電波に妨害(ジャミング)されてしまいました。

 再び発信しようにも王子様はもはや夜食のタラバガニに夢中です。






 かくなる上は、と人魚姫は自らのありったけの魔力を使い、城を覆う程の大津波を呼び寄せました。

 もう一度王子様を助ける事を再現することで王子様の感覚を蘇らせようとしたのです。

 狙い通り国は水の中に沈みました。

 しかし、人魚姫が王子様を助けるより(はや)くあの娘が王子様の元へ泳ぎ、華麗に口づけで空気を王子様の体内に送り込みながら胸中で魔法を唱え、国を覆いつくした水をかき消してしまいました。






 やがて王子様と娘は、結婚式をあげることになりました。

 二人は船に乗りこむと、新婚旅行に向かいます。

 王子と結婚できなかった人魚姫は、薬の効果により次の日の朝、海の泡になってしまうのです。

 しかし人魚姫には、どうすることもできません。


 その時、波の上に人魚姫のお姉さんたちが姿を見せました。


「魔女から貴女が助かる方法を聞いてきたわ! このナイフで王子の心臓を刺しなさい。そしてその血を足に塗る事で貴女は人魚に戻れるのよ!」


(もう一度、人魚に!)






 ナイフを受け取った人魚姫は、王子の眠る寝室へと入っていきました。

 窓から差し込む月明かりのみが静かな部屋の中を照らす。

 そこにいるのはベッドで寝静まった王子様。

 そしてその前に佇むのは美しいドレスを身に纏ったあの娘。

 人魚姫はその姿を目に捉えるや否やナイフを娘に振るった。

 音速を超える見事なナイフ捌きではあったが、娘もまた刹那の時間で身を翻し、回転しながらその一撃を紙一重で躱す。

 そしてその回転の勢いのまま人魚姫に裏拳を放った。側面から容赦ない一撃は見事人魚姫の頬骨を捉える!

 ────しかし、その一撃を喰らって尚人魚姫は怯まなかった。

 拳をもらいながらも娘の方へ瞳を動かし睨みつける。

 その表情に決死の気迫を感じた娘は、反射的に後ろに跳んだ。

 しかしその判断が誤りだったと気づいたのは一瞬後。

 最初の対面では人魚姫と王子の間に自分が立っていることにより王子を守っていられた。

 しかし『側面に跳び、それから後ろに飛びのいた』行為により、そのガードは今この瞬間存在しない。

 人魚姫もまたこの一瞬の好機を逃さず寝ている王子の元へ駆けた。

 娘もすぐさまそちらに走るがもう間に合わない。


 ────はずだった。

 が、人魚姫はナイフを振り上げた後、それを振り下ろさなかったのだ。

 その一瞬の躊躇いが人魚姫の命取り。

 次の瞬間には娘の手刀が人魚姫の背中に突き刺さる。

 手刀は胴体を貫通し、腹から噴き出る鮮血が寝ている王子の顔に降りかかった。


 人魚姫は力なくナイフをその場に落とす。

 しかし、その顔は穏やかに笑っていた。

 その顔からはすぐに生気はなくなり、ナイフに続くように人魚姫の身体もまた床に沈む。

 そして、そのままその身体は泡となって消えてしまいましたとさ。



 めでたしめでたし

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