チート・ザ・ねずみの嫁入り
むかしむかしある所に、お父さんねずみ、お母さんねずみ、チュー子の三匹が暮らしていました。
ある日お母さんねずみがこう言います。
「ねえお父さん、チュー子も年頃だから、そろそろお婿さんを見つけなくてはなりませんね」
お父さんねずみは親馬鹿です。
「チュー子は世界一の娘だからな、世界一のお婿さんをみつけてやらねばなるまい」
その言葉にお母さんねずみが聞き返しました。
「まあその通りね! でも、世界一のお婿さんとはどなたでしょう?」
「世界で一番なのはやっぱりお日様だろう」
お父さんねずみはチュー子を連れてお日様の下へ行って頼んでみました。
「お日様、ウチのチュー子をお嫁にもらってくれませんか?」
それに対してお日様は快く頷きます。
「そりゃ嬉しい、是非貰おう」
その時、チュー子は刹那の時間でお日様の背後に回り込んだ。
地上を照らす絶対的な力を持ちお父さんねずみに『世界で一番』とまで言わしめたお日様ではあったが、チュー子の動きを目で捉える事は叶わない。
お日様が目の前のチュー子の姿が消えたと認識したころには、既にチュー子の拳の一撃によりその大いなる身体に大穴が開いた後だった。
「ごふッ!」
お日様の口から、光でも炎でもない赤色の液体が勢いよく噴出される。
誰から見ても致命傷、もはや助かる見込みはない状態ではあったが、それでもお日様はニヤリと笑った。
「フッ……! ワシを倒した程度でいい気になるなよ……雲にかかればワシなど一瞬で隠れてしまう……ヤツこそが真の強者よ……ぐふっ!」
そこで父さんねずみは、雲のところへ行ってみました。
「雲さん、ウチのチュー子をお嫁にもらってくれませんか?」
「ククク……お日様のヤツを倒しで調子づいているらしいな、だがヤツは我ら四天王の中でも一番の小物……ねずみ如きに負けるなど所詮器ではなかったという事! 四天王最強であるオレが嫁に迎えてくれるわッ!」
雲がそう言いながら臨戦態勢に入った。
が、その時には既にチュー子も動いていた。
手から魔法陣を展開し、一言唱えると雲は一瞬にしてその魔法陣に吸い込まれてしまう。
消えゆく雲は、最後の力を振り絞りありったけの声を張り上げて叫んだ。
「おのれえぇぇぇぇッ! だがッ! オレを倒した所で戦いは終わらん! 風はオレよりも強いぞ! この私を簡単に吹き飛ばしてしまうからなあああぁぁぁ────」
そこで父さんねずみは、風のところへ行ってみました。
「風さん、ウチのチュー子をお嫁にもらってくれませんか?」
「お日様に続いて雲までも倒してしまいましたか……よろしい! この風がチュー子さんを貰い受けましょう!」
そこで風が吹き荒れた。呼び寄せるは全てを消し飛ばす終末の暴風。
しかし、それでもチュー子の速度は音速を超える。
チュー子から放たれた衝撃波が風の身体ごと呼び寄せた暴風を真っすぐに斬り裂いた!
己の身体が真っ二つになり消滅する寸前、風は全てを認めたかのような穏やかな目で呟く。
「四天王最恐である私を倒すとは見事です……しかし、それでも壁には敵わないでしょう、あの方は私がいくら吹いても全てを跳ね返してしまうのですから……さらばです……」
そこで父さんねずみは、壁のところへ行ってみました。
「壁さん、ウチのチュー子をお嫁にもらってくれませんか?」
「ぐひゃひゃひゃひゃッ! 四天王最狂である僕に婚約を申し込むとはね! 面白いッ!! この場で嫁になるがいいッ!!」
叫びながら押しつぶさんばかりに迫る壁。
それに対しチュー子は、齧歯を剥き出しにし壁を食い破りながら突き抜けた。
「ぐぎょッ!! ……僕の身体に穴が……そうか……お前もまた……壁を食い破り最凶の種族……『ねずみ』、か……」
「何と! 世界で一番強いのは、わしらねずみだったのか!」
その時、背後から現れたのはねずみの若者。
四天王とは一線を隔する絶対的なオーラをチュー子は肌で感じ取る。
チュー子は嗤った。
ようやく真の強者に出会えたのだと。
ようやく全力で戦える相手に出会えたのだと。
腕力・魔力・知力・速度・齧歯力、全てが限界突破している二人の間にもはや言葉は要らない。
互いが己の全力の限りを尽くし、最大の戦いが今始まる────
こうしてチュー子は、ねずみの若者のお嫁さんになりましたとさ。
めでたしめでたし