チート・ザ・欲張りな犬
むかしむかしある所に、肉を咥えた一匹の犬が橋を渡っていました。
犬がふと下をみると、川の中にも肉を咥えた犬がいるではありませんか。
(アイツの肉のほうが大きくて旨そうだ。よし! アイツを驚かしてあの肉をとってやろう!)
そこで犬は川の中の犬に向かって思いっきり吠えます。
「グギャバアァッ!! ゲルギュルボグワシャガァッーーーーーーーーーーー!!!!」
犬の強大な叫びにより発生した振動と衝撃波により、水面は大きく揺れ周囲の建物はことごとく倒壊する!
犬自身が乗っている橋も例外ではなく、根元からへし折れ音をたてて川に落ちた。
犬はその一瞬前に橋が落ちる気配を察知しその場を飛びのく。
「ほう、我が【終末咆哮】を耐え抜くばかりか、こちらの足場を崩すほどの反撃を行えるとはな、みすぼらしい顔をした雑魚犬かと思ったが少しはやるではないか、面白い! ぬぅぅぅぅん……!」
犬はそこで邪悪なオーラを発しながら全身に力を込めた。
「はあああああああぁッ!」
叫び声と同時に犬の身体は二倍ほどに膨れ上がり、首からは更に二つの顔が生える!
「【第二形態三首魔犬】! こうなったからにはただではすまんぞ!!」
ニヤリと笑いながら再び水面を見つめる犬。
しかしその時には既に、相手もまた身体を強化し三首の巨大犬へと姿を変え、こちらに嫌らしい嗤いを向けていてた。
「……自らマヌケ顔を更に増やすとは滑稽で恥ずかしい奴めッ!! 力の差を思い知るがいいッ!!」
犬はそう言いながら水面に向かって、三つの首からそれぞれ炎、電撃、冷気の息吹を吐きつける。
しかし、荒れ狂うエネルギーが自身の視界を奪う前に、犬は確かに見た。相手もまたこちらと同じタイミングで同じ属性の息吹を吐きつけてきたのを!
凄まじい息吹がぶつかり合った余波によってか、犬の身体に瓦礫か何かが当たり多少の傷を負う。
余波が収まり、水面に再び姿を現した相手を見やると、やはり自分と同程度の手傷しか負っていない相手の顔が目に入った。
「調子に乗るなよクソが……! すぐにそのアホ顔を消してくれる! 天に唾をする馬鹿犬が! 自分が誰に楯突いているのか思い知れ!!」
犬は更に力を込めると今度は背中に蝙蝠のような禍々しい翼を生やし、小さな尻尾を邪悪な大蛇のモノへと変化させた。
更に先ほど生やした左右の首を、それぞれ山羊、竜のものに姿を変え、中央本体の顔にもライオンのような雄々しい立髪を生やす!
「【第三形態凶悪合成獣】ッ!! 貴様はもうおしまいだぁッ!!!!」
犬は大きく叫び勝利を確信する。
────しかしその時、相手の身体もまたこちらと変わらない多種にわたる変化を遂げていた。
「貴様……! 猿真似だけは得意なようだなッ!! だが私にはわかるぞ!! その一つ一つが中身のない薄っぺらい変身だという事になッ!! そんなこけおどしで騙せるのは、よほど知能の低く喰う事と他者を蹂躙する事にしか関心が持てない低俗なクソ馬鹿マヌケだけだッ!!! すぐにその調子に乗った勘違い顔を絶望一色に染めてやるッ!!! 【魔神眷属獣奥義】オォォォォッ!!!!」
犬の放ったなんか強烈な攻撃により、水面全ては蒸発し消し飛んだ。
「ははははははははッ!! ……ん?」
犬は、いつの間にか自分が咥えていた肉が無くなっている事に気が付きました。
実は川の中の犬は水に映った自分自身で、そうとは気づかず相手を驚かしているうちに肉を口から離してしまい、自分が放つ必殺技により消し飛ばしてしまったのです。
全てを理解した時、犬の身体はしょんぼりと縮んでいき、その顔は絶望一色に染まりましたとさ。
めでたしめでたし