チート・ザ・白雪姫
むかしむかしある所に、とても美しいけれど嫉妬深いお妃様がいました。
お妃様は毎晩手持ちの魔法の鏡に向かってこう尋ねます。
「鏡よ鏡よ、この世で一番美しいのはだ~あれ?」
『それはお妃様、貴女です。貴女の美しさには世界の如何なるものも敵いません』
お妃様は鏡からその言葉を聞くと満足してベッドで眠るのです。
ある日の夜、お妃様はいつものように鏡に向かって尋ねました。
「鏡よ鏡よ、この世で一番美しいのはだ~あれ?」
『白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……』
「なんですって?!」
白雪姫とはお妃様の義理の娘にあたります。
お妃様は自分よりも美しい存在がこの世に誕生した事に非常に腹を立て、猟師に白雪姫を殺させる策略を考えました。
お妃様の命令を受けた猟師は白雪姫を森の奥に連れ込む為に行動しました。
「白雪姫、今日は狩りをお見せします。私と共に森に向かいましょう」
こうして森の奥まで白雪姫を連れ込んだ猟師は、白雪姫を殺すためにナイフを振り上げます。
しかし、そのナイフを降り下ろすよりも早く白雪姫は猟師の目を見つめ、静かに呟いた。
「【美貌光線】」
「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」
白雪姫のあまりの美しさに、殺す事を躊躇ってしまった猟師は、白雪姫をそのまま逃がしてしまいます。
白雪姫が森の中を一人でさ迷っていると、木で出来た一つのお家を見つけました。
中に入ると、テーブルの上には小さな子供用のお皿やスプーン等の食器が7つずつ目に入り、そこ中にはスープやパンが入っています。
家の奥にはやはり小さなベッドが7つ置いてあります。
お腹がペコペコな白雪姫はテーブルの上の食事を食べ始めました。
その時、玄関のほうが騒がしくなりました。
「ふぃ~、今日も疲れたわい」
「もう食事の用意は出来ているよ、皆で食べよう!」
「今日は鹿のスープだったかのう、楽しみじゃ」
声と共に扉が開くと、ビックリ。七人の小人達が入ってきました。そう、このお家は小人達の住処だったのです。
その小人達の方へ目を向けながら白雪姫は口を開きました。
「【美貌光線】」
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
こうして白雪姫は、森に住む七人の小人たちと暮らす事になりました。
そして小人たちが山に働きに行っている間、掃除や洗濯、食事の用意などをして毎日を楽しく過ごしました。
一方、白雪姫を始末したと思っているお妃様は魔法の鏡にいつものように問いかけます。
「鏡よ鏡よ、この世で一番美しいのはだ~あれ?」
『白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……』
「白雪姫がまだ生きているですって!? あの猟師、裏切ったね! ……よし、こうなれば」
他人が信用できないため自分の手で白雪姫を殺そうと考えたお妃様は、物売りのおばあさんに化けると白雪姫が逃がされたと思われる地域を怒りと執念でしらみつぶしに探し回り、ついには森の奥で小人たちと暮らしている事を突き止めました。
そして扉を叩いてこう言います。
「良い品がありますがお買いになりませんか?」
その言葉に白雪姫は窓から首を出しておばあさんに話しかけようとしました。
しかし、それはお妃様の作戦通りだった。
予め窓の枠に張り巡らせていた絹糸を、手元の絹糸を引っ張ることで巧みに操り、迂闊に窓から首を出した白雪姫の首を絞めあげたのだ!
白雪姫はそれにより息が出来なくなり、死んでしまったのです。
「これで私が世界で一番美しい女になったのだフハハハハ!」
お妃様は急いでその場を撤収します。
それから間もなく日が暮れて、七人の小人達が家に帰ってきました。
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
小人たちは倒れている白雪姫を見るや否や白雪姫の身体に異常がないか調べ、すぐに首を絞めている絹糸を発見します。一人の小人がハサミでその糸を切りました。
────その瞬間、ハサミを使った小人の身体がミンチのように細切れに潰れた。
そしてその肉片は、意思を持っているかのように一人でに白雪姫の口へ運ばれてゆき、その全てを飲み込んだ時、白雪姫は閉じていた目をパチリと開き何事もなかったかのように起き上がった。
その様子を残った六人の小人たちは眉一つ動かさずただ見つめ、白雪姫がニッコリとほほ笑むと、
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
皆声を出しながら白雪姫が用意した夕飯を食べるべく、テーブルに腰かけていった。
さて、今度こそ白雪姫を始末したと思っているお妃様は、またもや魔法の鏡に問いかけます。
「鏡よ鏡よ、この世で一番美しいのはだ~あれ?」
『白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……』
「おのれ! まだ息があるのかあの女め!」
お妃様は今度は強力な毒がしみ込んだ櫛を持って白雪姫の住む森へ向かいました。
小人のお家の扉を再び叩いてこう言います。
「良い品がありますがお買いになりませんか?」
白雪姫は今度は窓を閉めたままガラス越しにお妃様が化けているおばあさんのほうを見ました。
「甘いよ白雪姫! そこにまで近づいてきたならば私の射程内だ! 伸びよ櫛よ! あの女に突き刺され!! 【猛毒伸縮魔櫛】ッ!!!」
お妃様の持つ毒の櫛が意思を持っているかのように高速で、そして不規則な動きで伸びていきそれらが窓を突き破る。
更には逃げようとする白雪姫をとらえ、後頭部に毒を染み込ませることにより再び白雪姫の息の根を止めた。
「ふっ、いくらお前が綺麗でも今度こそおしまいだろうフハハハハ!」
以前と同じように撤収したお妃様と入れ替わるように、六人の小人達が帰ってきました。
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
小人たちはまたも横たわる白雪姫の身体を調べます。
その中で、頭に刺し傷のような跡と、そこから流れたわずかな血を発見しました。
毒がしみ込んでいると察知した一人の小人がタライに水を持ってきて、その毒を洗い流そうと白雪姫の頭をタライにつけます。
────その瞬間、その小人の身体が液体と化し、タライの水に溶けるように交わった。
そしてその水は吸い込まれるように白雪姫の頭部に吸収されていき、タライから水が無くなるころ、白雪姫は綺麗な黒髪から水を迸らせながら起き上がった。
その様子を虚ろな目で見ていた五人の小人達は白雪姫の指パッチンを合図に、
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
不要になったタライを片付け、残る雑用を淡々とこなしていった。
一方王宮にて、ようやく白雪姫を始末したと思っているお妃様は、ウキウキで魔法の鏡に問いかけます。
「鏡よ鏡よ、この世で一番美しいのはだ~あれ?」
『白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……』
「……化け物め! いいだろう! この私の最後の手段で確実に葬ってくれるわ!!」
お妃様は、三度森の家に足を運ぶと、家の前で一つのリンゴを取り出し口を開きます。
「美しい娘さんに、おくり物だよ、とてもおいしいリンゴだよ」
しかしその手に握られていたのは実は猛毒のリンゴでした。
それを警戒してか白雪姫は今度は扉のほうへ近づこうともしません。
「ククク無駄な事……この毒リンゴの魔力は直接食べずとも、この香りが扉の隙間を通し鼻から浸透し、そしてやがては死に至る……【禁断の果実】ッ!!」
毒の香気を吸った白雪姫は、家の中一人でパタリと倒れ死んでしまいました。
「我が奥義、あの世で更に存分に味わうがいいフハハハハ!」
最終奥義を放ち今度こそ白雪姫の死を確信したお妃様は高笑いしながらその場を去りました。
夜になると、五人の小人たちが帰って来ます。
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
帰ってきた小人たちはやはり倒れてしまった白雪姫の異常を探します。しかし、今度はどこにも異常は見つかりません。
いつまで経っても起き上がらない白雪姫を、ついにはガラスの棺に入れて森の中に安置することにしました。
白雪姫が死んでしまってから何日か経ったある日、一人の王子様が白雪姫の棺を見つけました。
「なんて美しい人なんだろう……小人達、この人を私に譲ってくれませんか?」
「「「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」」」
王子様は首を縦に振らない小人たちの事はとりあえず置いておき、白雪姫の棺を開けます。
「これは……魔奥義【禁断の果実】の毒にやられているな、こうなったからには通常蘇生は不可能。しかし私ならば毒を吸い出すことが出来るかも知れん」
王子さまはそこで眠っているように死んでいる白雪姫の唇に、自身の唇をそっと重ねます。
(【神秘的人工呼吸】! この技により身体を蝕む毒を全て吸い出す!! しかし、私の肉体がこの毒に耐えられるか……)
白雪姫の全身を駆け巡る毒が、唇から王子様のほうへみるみる移っていきます。
しかしその毒は白雪姫の代わりに王子様の身体に侵食する────
────はずだった、がどれだけ【神秘的人工呼吸】を続けても、王子様の身体にはなんの変化も訪れない。代わりに周りの小人が数人、泡を吹きながらバタバタと倒れていく。
白雪姫の身体から完全に毒が消え去った時、最後に唯一立っていた小人の身体が一瞬で蒸発した。
そして蒸発により発生した湯気が真っすぐ白雪姫の身体へ吸い込まれていく。
するとなんという事でしょう! 数日間寝たままであった白雪姫が目を覚まし起き上がったではありませんか。
すると王子様は優しく微笑み、眠気顔の白雪姫の手を取りました。
「姫、私と結婚してください」
それから数週間、王子様と白雪姫の結婚式にお隣の国の、あの醜い心を持ったお妃様も招待されます。
お妃様はおめかしをして結婚式に出席しましたが、まさか隣国の新しい皇太子妃が白雪姫とは知りません。
そして、その白雪姫と王子様の姿を見たとき、身体が動かなくなるほどの驚きと恐怖を味わいました。
そんなお妃様に向かって王子様は厳しい表情をしながらもこう言います。
「お妃様、貴女が妻にどんな事をしたかは知っています。しかしそれでも貴女は一時的にでも私の妻の母でした。今すぐ自分の国へお帰り下さい、そして二度と私たちの国に、いえ、白雪姫に近づかない事を誓ってください。なあ白雪姫、君もそれでいいだろう?」
「【美貌光線】」
「白雪姫キレイ、白雪姫キレイ……」
こうして王子様の意向でお妃様は、熱で真っ赤になった鉄の靴を履かされ、披露宴で踊り狂って死んでしまいます。
王子様と結婚した白雪姫は、ずっと幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。