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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・鶴の恩返し

 むかしむかしある所に、貧しいけれど心の優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある寒い冬の日、おじいさんは町へ出かけていた帰り道、田んぼの中で、一羽の鶴がワナにかかってもがいているのを見かけました。


「おぉ可哀想に。今助けてやるぞ、【完全究極罠解除ジャッジメントアンチスペル】」


 おじいさんが唱えると、鶴の全身に打ち込まれていた猛毒の矢がぽろぽろと抜け落ち、更に鶴がもがけばもがく程より食い込む鋼鉄の(いばら)も粉々に砕けちり、ギリギリで苦しみ続けられる絶妙な位置から鶴を炙り続ける蒼白い炎も鎮火されました。

 更に毒でドス黒い紫色に変色し、蕀にズタズタにされ、炎で焼きただれていた鶴の身体も一瞬で綺麗になります。


 鶴はすぐに翼を拡げ空に舞い上がると、嬉しそうにおじいさんの頭の上を何度もクルクル回って飛んでいきました。






 その夜、日暮れ頃から降り始めた雪がコンコンと積もって大雪になりました。

 おじいさんがおばあさんに鶴を助けた話をしていると、表の戸を叩く音が聞こえます。


 トントントン、トントントン。


「ごめんくださいまし。どうか戸を開けてくださいまし」


 おばあさんが戸を開けると、白い着物を着た綺麗な娘が立っていました。


「まぁまぁ、寒かったでしょう。さぁ早くお入りなさい」


 おばあさんは娘にお茶を出すと、囲炉裏を囲んでおじいさんと一緒に娘の話を聞きます。


「私は知り合いを訪ねて来ましたが道に迷ってしまい、雪は降るし日は暮れるしやっとの事でここまでまいりました。ご迷惑でしょうがどうか一晩泊めてくださいまし」


 娘は丁寧に、三指をついて頼みました。


「それはそれは、さぞ、お困りじゃろう。こんなところでよかったら、どうぞ、お泊まりなさい」


 娘の頼みを快く承諾するおじいさんとおばあさん。

 それを聞いた娘はたいそう喜んでおじいさんとおばあさんにお礼を言いました。



 しかし外の大雪は一向に止む気配がなく、次の日も、その次の日も戸を開ける事も出来ません。

 その間ずっと娘はおじいさん達の家に住ませてもらっていましたが、これがまたよく働く娘でした。

 おばあさんが目を覚ます頃には娘はもう起きており、炊事に掃除に洗濯まで既に終わらせているためおばあさんは大変楽になりました。

 歳のためよく体の節々が痛くなるおじいさんの肩をもんでくれるため、おじいさんは自分に魔力を使う必要もありません。


「おぉ何て良く働き、何て良く気のつく優しい娘さんじゃ。こんな娘が家にいてくれたら、どんなに嬉しいじゃろう」


 おじいさんとおばあさんがふとそんな話をするとなんと娘が三指をついて頼みこんできます。


「実は私、身寄りのない娘です。おじいさまとおばあさまが許して下さるのなら、どうぞこの家においてくださいまし」


 おじいさんとおばあさんは大層喜んで、それから三人貧しいけれど楽しい毎日を過ごしました。






 そんな日が続いたある日の事、娘はおじいさんにこう言います。


「おじいさま、私、(はた)を織ろうと思いますので、町へ出かけた際には糸を買って来て下さいまし」


 おじいさんが糸を買ってくると、娘は一つ部屋を借りて二人にこう言いました。


「では今から機を織り始めます。しかし、それが終わるまで、決して部屋を覗かないで下さいまし」


 娘はふすまを閉めると、すぐに中から機を織る音が聞こえてきます。


 キコバタトン、キコバタトントン。

 キコバタトン、キコバタトントン。

 む、なんだここは? おいそこのお前、一体どうなっている?

 なに? お前が我々をこの場に召喚しただと?

 小娘風情が笑わせてくれる、我ら魔界四天王をこんな小部屋に呼び寄せてどうしようとへぶらっ!

 悪魔山羊(バフォメット)の兄者ッ! き、貴様よくもぎゃああああああああああああぁぁぁ!!

 ば、馬鹿な! 悪魔山羊(バフォメット)に続いて地獄の番犬(ケルベロス)まで一瞬で!? い、いやだ死にたくなあぎゃぶっ!!!

 う、嘘だ、こんな事は……こ、こんな……い、いや貴様何をしている? 暗黒獅子鷲(グリフォン)達の皮を剥いで一体あぐわあああああああああああああぁぁぁぁ!!!!

 トントンカラリ、トンカラリ。

 トントンカラリ、トンカラリ。



 翌朝、機をおり終えた娘がふすまを開け顔を出します。


「おじいさま、これは『鶴の織物』という物です。どうか明日町へ売りに行って、帰りにまた糸を買って来て下さいまし」


 そう言いながら、娘は見たこともない程に美しい織物を二人に見せます。


「これは見事な織物じゃ、ありがとうよ」


 おじいさんが『鶴の織物』を町へ売りに行くと、それはそれは大変良い値段で売れました。

 おじいさんは喜んで、娘に言われた通り糸を買って帰ります。

 帰ったあとその事を娘とおばあさんに話し、娘にもう一度お礼を言うと娘も笑顔で答え、その晩また機をおり始めました。


 キコバタトン、キコバタトントン。

 キコバタトン、キコバタトントン。

 おや、誰だい君は? 見たところ人間のようだけど……

 え? 人間界と天界の次元を繋いでここまでやってきた? 何を馬鹿なあぎゃごげぎゃ!?

 今の悲鳴はなんだ?! お、おい一体なにがほげええええええええええええぇぇッ!!

 うわぁーッ!! 皆! 逃げろーーーーーーーーッ!!!

 な、なんだこの糸は? な、なに? 結界?? 我ら天使を完全に封じ込める結界なんてそんなぎゃにいいいいいいいぃぃぁぁぁああああああああッ!!!!

 た、助けてくれ……お願いだ……俺、明日が結婚式なんだ……こ、これがその結婚指輪に使う宝石……え? そのレアドロップを探していた? 一体何を言ってうぎゃがががががががががががががががががッ!!!!

 トントンカラリ、トンカラリ。

 トントンカラリ、トンカラリ。


 翌朝、娘は再び『鶴の織物』を手にしておじいさんとおばあさんに朝の挨拶をします。

 しかも今度の織物は宝石のように綺麗に輝く粒がちりばめて織り込まれているではありませんか。

 おじいさんはそれを持って再び町に売りに行くと、前以上に良い値段でうれました。


 またもそれをおばあさんと娘に話すと、二人共大喜びします。

 そしてその日もまた娘は機を織ろうと部屋に籠っていきました。


「ねえ、おじいさん。あの娘はいったいどうしてあんな見事な布をおるのでしょうね? 覗くなとは言われたけれど、ほんの少し覗いてみませんか?」


「うぅむ確かに、少し気になるのぉ」


 おじいさんとおばあさんはそっとふすまを開け、中の様子を覗きます。

 そこには娘の姿はなく、純白の翼を持つ一羽の鶴が佇んでいた。おじいさん達から背を向けて。

 その瞬間、おじいさんの全身に悪寒が走る。

 脳は『逃げろ』と全力で告げているのに身体は金縛りにあったかのように動かない。

 室内だというのに冷たい風がヒュウゥと音をたてて吹く中、表情を見せない鶴が口を開いた。


「あれほど見るなと言いましたのに、ついに見てしまわれたのですね?」


 鶴から発されるその声は、まぎれもなくあの優しい働き者の娘の声そのものだった。

 僅かに動かすことが出来る眼球をおばあさんのほうへ向けると、おばあさんもやはりおじいさんと同じような状況で、おじいさんと同じことを思い巡らせているようだ。


「見られてしまったからには仕方がありません。私は、いつかおじいさんに助けて頂いた鶴です」


 おじいさんの疑惑が鶴の言葉で確信に変わる。

 しかし、そんな思考は鶴の次の言葉で打ち消された。


「しかし、もうお二人と暮らす事は出来ません。正体をみた者は生かしてはおけない、それが鶴の掟」


 絶望的なまでの力の差、蛇に睨まれたカエルとはまさにこのような心境なのだろうか。

 おじいさんはふすまを覗いた事を後悔した。そう、この後に起こる出来事を目の当たりにし、本当に後悔した(・・・・・・・)のだ。


 ────瞬間、鶴の身体が光となって消えた。

 鶴の代わりに、コトリと落ちるように姿を現したのは、一つの織物。

 先の二つとも比べ物にならないほど美しく綺麗なその織物は、先ほどの鶴の翼と同じ純白の光を放っていた。

 その時、二人の金縛りが解ける。

 倒れこむように膝をついてしまった二人の耳に、いや脳に直接響き渡るような声が聞こえた。



 ────しかし、一度おじいさまに救われたこの命、たとえ掟に背いてでもお二人のために尽くしましょう────


 それから娘は姿を見せる事はなかった。


 おじいさんとおばあさんは先に売っていた『鶴の織物』で得たお金である程度裕福に暮らすことは出来た。しかし、お金があっても心が浮かない日々が続く。

 そんなある日、鶴が残した最後の織物を手にしながら二人で家の外を眺めていた時、決して見間違える事のない、純白の翼が空を舞っているのをみた。

 その翼の持ち主はこちらを目を向けると、ふと微笑んだような気がした。

 そして鶴が消えるあの日見た光と全く同じ光で身に包み、空高く飛んでいきましたとさ。



 めでたしめでたし

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