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チート・ザ・昔話  作者: こおり ほのお
チート・ザ・昔話
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チート・ザ・浦島太郎

 むかしむかしあるところに、とっても心のやさしい浦島太郎という漁師がいました。

 太郎が海辺を通りかかると、なんと子供たちが大きなカメを捕まえていじめています。

 それを見て太郎はいじめを止めようと子供たちに話しかけます。


「君たち、カメをいじめちゃ可哀そうじゃないか、逃がしておやりなよ」


「あぁん? なんだぁテメェは! 俺っち達にケチつけようってのか!?」

「生意気なヤツだなぁ? 兄貴ぃ、コイツからやっちまおうぜぇ?」

「へっへっへっ! よく見りゃあいい釣り竿(モン)持ってんじゃあねえか、ソイツをコッチによこしな!」


 太郎の態度が癪に障った子供たちは、カメに向けていた金棒、(なた)(もり)で太郎のほうに襲い掛かった!


「ふんッ!」


 太郎が手にした釣り竿を一振りすると、子供が振り上げた金棒が両手ごと消し飛んだ。


「は?」


 その一瞬の出来事に、自分の腕が消えたという事実が理解できない子供が間の抜けた声を上げる。

 太郎は気にせず釣り竿をもう数回振るった。

 その結果、一人は四肢が食べやすそうなサイズで輪切りになり、更に首と胴体も綺麗に離れる。もう一人は顔面から股まで縦に一刀両断にされた後、心臓を中心に卍の形で切り裂かれ、真ん中で立ったままのリーダー格の子供を飛び散る鮮血で真っ赤に染めた。


「な? 弱い者いじめなんて楽しくないだろう?」


 太郎がそう言うが、残った子供はまだ事実が理解できず呆然としている。

 太郎はそれを見てつまらなさそうにため息を吐くと、そのリーダー格の子供も両サイドの肉片と同じ状態に変えた。

 突如出来た赤い水溜まりに浸っているカメが震える声を絞り出す。


「ば、化け物め……貴様は生かしてはおけん! さあ呑まれてもらうぞ! 【地獄海底御招待ディープキャッスルカモン】ッ!!」


 カメの身体から深い青色の波動は発せられ、それが辺りを覆いつくす。

 その間はおよそ一秒にも満たない時間ではあったが、浦島太郎にとってはそれが発動しきる前にカメを倒し波動をかき消す事が容易ではあった。

 が、太郎はあえてそれを行わなかった。

 理由は、百戦錬磨を誇る浦島太郎の直観。『なにか面白そうな予感がしたから』である。


 次の瞬間、太郎は見たこともない場所にいました。

 そこは真っ青な光が差し込み、昆布がユラユラとゆれ、赤やピンクのサンゴの林がどこまでも続いています。


「わあ、きれいだな」


 浦島さんがウットリしていると、やがて立派なご殿が姿を現します。


「着いたぞ! このご殿が我々の竜宮城(キルゾーン)だ、ここに来たからにはもう生きて帰る事は叶わん!」


 カメがそう言うと、竜宮城の中から美しい女性が色とりどりの魚たちと一緒に姿を現しました。


「ようこそ浦島さん。私はこの竜宮の主人の乙姫と申します。そこのカメが招待するほどの人物、我らも全力をもってお相手致しましょう」


 乙姫に続くように次々と姿を現すはタイ、ヒラメ、クラゲなど海の生き物を象ったナニカ。

 本来のそれらと違うのは、いずれも冗談みたいな大きさをしており悪魔のような禍々しい見た目と殺気を放っている。

 一体一体が街一つ軽く滅ぼすだろう戦闘力を持っている事が、対面しただけで感じ取れた。


「ふっ!」


 太郎は思わず噴き出した。地上の者たちではまるで相手にならず、どうやっても『弱いものいじめ』になってしまう。

 ────しかし、今ここに全力を持って駆逐すべき相手が大量にいるのだ。


「ふははははははははははははッ!!」


 狂喜した太郎は縦横無尽に釣り竿を振り回す。

 その一撃一撃が禍々しい生き物たちの胴体を切り裂いた!


「甘いわッ!」


 しかしそのタイやヒラメたちはその程度では倒せない。

 複数の斬撃を受けつつも太郎に向かって毒や牙で攻撃を仕掛ける。


「はははははははははははははははははははははははははッ!!!!」


 それをみて、太郎は更に釣り竿の速度を上げた。

 海底で釣り竿を振り回すその様子はまさに渦潮。いや、その渦さえも無限に連鎖するように、見る見るうち数を増やし、また一つ一つが大きくなっていく。

 渦潮どころではない。荒れ狂うエネルギーの塊はもはやブラックホールか何かだろう。


 ソレに巻き込まれた生物は、流石に耐える事は出来なかった。

 身体が細切れに、あるいはぐしゃぐしゃになりながら消滅していく。

 このどうしようもない天災に、タイやヒラメ、クラゲたちは遂には悲鳴を上げて逃げ出す。

 しかし、ブラックホールと化した太郎の攻撃は、引力で逃げ惑うタイ達を引き寄せ、何もかもをも飲み込んでいく。

 海中生物達の悲鳴、絶叫、命乞い、生きようと必死になってもがく姿。まるで叶わず散ってゆく姿。

 渦の中心でそれらを見ながら太郎は更に声高らかに笑った。


「そうだ! 踊り狂え! 歌い死ね! もっと! もっとだ!! 命の限りを尽くして俺を喜ばせて見せろ! これは最高のお持て成しだなぁ! はははははははははははははははははははははははははッ!!!!」


 太郎にとってここはまるで天国のようでした。

 どれくらい時が経ったでしょう。ある時太郎は、ハッとしました。


「……いかんいかん、結局は弱い者いじめになってしまったか」


 そこで太郎は、乙姫さまに言いました。


「乙姫さま、今までありがとうございます。ですが、もうそろそろ家へ帰らせていただきます」


 もはや原型を留めていない物言わぬ乙姫さまに頭を下げると、その残骸から一つの箱を取り出しました。


「これは……『玉手箱』と書いてあるな。俺の全力の攻撃の中、形を保っているとは中々のお宝かもしれん。土産にもらっておいてやろう」


 太郎は釣り竿を振るって空間を切り裂き、元いた地上に戻ります。

 しかしなんだか来た時と周りの様子が違いました。

 浦島さんの家はどこにも見あたりませんし、出会う人も知らない人ばかりです。


「俺の家は、どこだ? みんなはどこへ行ってしまったのだ? ……あの、すみません。浦島の家を知りませんか?」


 太郎は一人の老人に尋ねてみると、老人は少し首をかしげて言いました。


「浦島? ……あの伝説の悪鬼かい? 数百年前に聖なるカメと対峙し、死闘の末に海底に封印されたアレの話かい?」


「えっ!?」


 老人の話しを聞いて、太郎は驚きました。

 竜宮で戦っていた時間はこの世の数百年にあたったようです。


「家族も友だちも、みんな死んでしまったのか……」


 がっくりと肩を落とした太郎は、ふと持っていた玉手箱を見つめました。

 何も考えられなくなった太郎は、なんの気もなしに持ってきた玉手箱を開けてしまいました。


 モクモクモク……

 すると中から、真っ白な煙が出現し、太郎を覆います。

 その場に残ったのは髪の毛も髭も真っ白の、ヨポヨポのおじいさんになった太郎でした。


「これが、好き放題殺戮の限りを尽くしてきた報い、か……ふふ、我ながらざまあないな……」



 めでたしめでたし。

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