チート・ザ・3匹のこぶた
むかしむかしある所に、仲の良い3匹のこぶたの兄弟がいました。
3匹はそれぞれ自立しようと、草原に家を建てだします。
長男ぶたが藁の家を建て終わり、家の中でくつろいでいる所へ、森の中から1匹の狼が出てきました。
そしてその狼は長男ぶたの藁の家をノックしてこう言います。
「こぶたさんこぶたさん、ちょっとドアを開けておくれ。お外で一緒に遊ぼうよ」
「嫌だよ嫌だよ、だって君は狼だろう? ドアを開けたら僕を食べるに決まっている。僕は絶対に開けないよ」
「我が真意、よくぞ見抜いた。ならば力づくで開けるのみ、消し飛ぶがいい……【幻狼闇息吹】ッ!」
突如、狼がぷーぷー息を吐き出すと、藁で出来た家は轟音と共に吹き飛んだ。
「バ、バカな! 僕の家をこうもあっさりと吹き飛ばすなんて……!」
それが長男ぶたの最期の言葉となった。
狼と自身を隔てる藁の家が無くなった瞬間、狼の蹂躙を妨げる術は最早長男ぶたには残されていない。
一瞬の内に長男ぶたの所まで距離をつめた狼は、その牙で長男ぶたの喉笛を噛み千切った。
──事切れた長男ぶたの肉体は、自然の摂理に従い狼の血肉へと変わっていく。
しばらくすると、狼は真っ赤な口を手で拭いながら呟いた。
「悪くない味だ……だが、足りぬ」
狼は、藁の残骸のみが残る広野を後にし、再び歩き出した。
しばらく歩くと、日に照らされた1つの人影が目に入る。逆光で表情の読めないその人影は仁王立ちをしている次男ぶた。
次男ぶたは静かに、しかし明らかに怒気を纏って狼に問いかけてきた。
「先程兄の波動が消えた……狼よ、貴様が食ったのか」
「如何にも。そして次はお前の番だ」
狼のその言葉に、次男ぶたは額に血管を浮かび上がらせる。そして高らかに手を上げ叫んだ。
「【木霊巨神兵】!!」
掛け声と共に、次男ぶたの足元の地面が盛り上がりだす。
それはみるみる内に人の形をなしていき、あっという間に7mはあろう巨人の姿に変わった。
そしてその巨人の頭の上で、次男ぶたは狼を見下ろし更に叫んだ。
「愚かな男ではあったが、それでも血を分けた兄弟であった……その仇、取らせて貰うぞッ!」
「ほう、土の中から一瞬で木製の巨人を生み出すとはな、中々の使い手のようだ……どれ、試してやろう! 【幻狼闇息吹】ッ!!」
またもや狼はぷーぷー息を吐き出した。
しかし【幻狼闇息吹】により木の巨人は多少揺れるものの、吹き飛ぶとまではいかない。
「それが兄を破った貴様の奥義か! だが無駄だ! その程度のそよ風で、地中深くまで根を張る【木霊巨神兵】は飛ばせん! あの世で我が兄に詫びろ!!」
次男ぶたの掛け声と共に、木の巨人は剛腕を狼に向かって降り下ろした!
その一撃は容赦なく狼を押し潰す────はずだった。
「……それで終わりか?」
剛腕の下で狼の声がする。
その一言に悪寒を感じた次男ぶたは、すぐさま【木霊巨神兵】の腕を引こうとした。
が、何か強大な力により巨人の腕は全く動かせない。
「【幻狼闇息吹】など、我が力のほんの一端に過ぎん。我の真価は、如何なる戦場をも駆け回り全てを粉砕してきた……」
狼の言葉と共に巨人の腕に亀裂が入る。
次男ぶたは悟った。相手が悪すぎたと。
巨人の腕を押し留めていたのは他でもない、狼自身の────
「この肉体そのものよッ!!」
次の瞬間、【木霊巨神兵】は粉々に打ち砕かれた。
足場を失い、地面に自由落下を開始する次男ぶた。
暗転する視界。巨人が崩れているのであろう轟音。身体に走る衝撃。
「い、いてて……」
それらがある程度収まる頃、次男ぶたは倒れた身体を上半身だけ何とか起こし、視線をあげた。
────そして、見下ろす立場が完全に逆転し狂喜の色を瞳に宿した狼と、完全に目が合った。
またもや歩みを続ける狼。そして辿り着いたのは1つの家。
「匂うな……先ほどの2匹と変わらぬ獲物の匂いが……!」
狼は唇を舐めるとその家の扉にノックをした。
「こぶたさんこぶたさん、ちょっとドアを開けておくれ。お外で一緒に遊ぼうよ」
「嫌だよ嫌だよ、だって君は狼だろう? 下らん問答は無用だ、さあ決着をつけよう。この【絶対防御大豪邸】を貴様の墓場にしてくれる!」
「フンッ! 全てを知りながらも逃げるのではなく、背水の陣を張りこの我を迎え討とうというのか小賢しい! 貴様も兄達の元に送ってやろう! 【幻狼闇息吹】ッ!」
狼が渾身の息吹をぷーぷー吐く事で、周囲の木々は根本から折れ、地面がえぐれるほどの威力が発揮される!
が、レンガの家はビクともしなかった。
「……少なくとも兄と同等以上の力はあるようだな、面白い! ならばこれならどうだ!?」
続いて狼は己の腕に力を込めると、そのまま【絶対防御大豪邸】に飛び掛かった!
「オオオオオオオオォッ!!」
渾身の力で何度もレンガの家を殴りつける狼。
しかし、尚もその表面に傷ひとつつかない。
「なんだと……!」
絶句する狼に、レンガの中から声が響く。
「狼よ、貴様は先ほどこう言ったな? 『兄と同等以上の力はあるようだ』と。そうではない、この【絶対防御大豪邸】は精製に酷く時間がかかる」
そこでレンガの中からの声は一息空けた。
「……兄達が貴様を相手に、身を呈して時間を稼いでくれたからこそ築く事ができたのだ。さあどうする無力で愚かで哀れな仔犬よ、尻尾を巻いてこの場を去るか?」
末っ子ぶたからの明らかな挑発。それは己の力こそ全てと信じ生きてきた狼の神経を逆なでするには充分な言葉だった。
「図に乗るなよ……!」
狼はそう言って飛び上がった。向かう先はレンガの家の屋根の上。
(認めてやる……確かにこの【絶対防御大豪邸】とやらの防御力は我の攻撃力を上回る……)
屋根に降り立った狼は、そのままそびえ立つ煙突のほうへ目を向ける。
(ならば、破壊せずに侵入するまでよ!)
狼は煙突から飛び降り、レンガの家に侵入した。
「ぐあああああああああぁぁッ!!?」
狼が降り立ったそこは、床ではなく煮えたぎるカマドの中であった。
自らを焼く灼熱地獄からすぐさま這い出ようと狼はもがいた。
だがカマドの端に手をかけた瞬間、その手は棒により殴打され打ち払われる。
「な……!」
その棒の持ち主は末っ子ぶた。カマドの中で煮え行く狼を、血の涙を流しながら睨んでいた。
「……言ったはずだ、この【絶対防御大豪邸】を貴様の墓場にする、とな。……マヌケな貴様を誘い出すために上の煙突はあえて侵入口として残して置いたのだ」
「こんな……! こん……な……! ……!」
尚ももがく狼。しかしもはやその灼熱にあらがう力は残されていない。
「骨まで溶けてしまえ畜生め。……兄達はこれより俺と共に生きる。食らった血肉、返してもらうぞ……!」
めでたしめでたし