二人の星空
それから二週間。
ハルトの格好をしたハルシュは必死にレベルを上げて、ミモザのハルシュに挑んだ。
最後に私のLPを一つ恵んでやってレベルの上乗せサービスしたのに、それでも、やはりあっさりと負けた。
紙一重。
本人はそう強がっていたけども。
それっきり、ハルトはゲームを辞め、仕事に復帰した。
私は、エクリプスを辞め水月の常連客として、時には店員としてノゾミの愚痴を聞きながらのんびりと楽しんでいる。
喫茶店の外は、戦闘戦闘の繰り返しだけれど、そんな状況でも皆それなりに楽しんでいる様だ。
ミカは念願だったジルヴァラの隣のポジションをゲットして、私はお弁当役から開放された。
マーカスは、迫る敵に対抗するために新しくプレイヤー集団を立ち上げた。エクリプスとも連携して上手く回っている見たい。
アラタは相変わらずノゾミの尻に敷かれている。
クレイグは人が変わったように動き出した。何があったかは決して教えてくれないけども。
やがて、風の噂でハルシュが戦場に戻ったと聞いた。
のんびりと水月で過ごす私が、そのハルシュに会うことは無かったけれど。
そうやって、一年ほど過ぎて、誰かが不死者との戦争の勝利宣言をした頃には私はゲームから遠ざかっていた。
更に一年。
ハルト達の計画は、やっぱり困難だらけで、計画の見直しを迫られていた。
ともすれば不眠不休で走り出す彼を抑えるために、私達は『箱庭』と言うゲームを始めた。
プレイヤーが好きな様に世界を構築し、その中で過ごす。そんなゲーム。
彼は、赤茶色の荒野に一軒だけ家が建つ、そんな世界を作って、花を育て始めた。
何でか、白いセラミック刀、黒と赤の槍、そしてメイスが置いてある、そんな家。
まあ、互いのストレス解消と思えば、軽くボコボコにするくらい良いよね。
庭一面に花が咲いたら結婚しよう。
そう言われたけども、丁重にお断りした。
咲かなかったらどうするつもりなのか、と。
更に一年。
計画は修正に修正を重ねながらも、少しずつ進んでいく。
資金が続くことが不思議で一度尋ねたことがある。
「スポンサーが居る。オモイカネはどうしても俺達を追い出したいらしい」
そんな答えではぐらかされた。
でも、その『達』には私も含まれているらしく、ひどく心外だ。
「良いじゃないか。新世界のアダムとイブだ」
などと、春人は言ったけれど、残念ながらそれは無理だ。
私はもう、貴方の子を授かっているの。
桜の咲く頃には会えると思う。
そして十年後。
『言葉も無い……』
その言葉が響き、一拍置いて管制室が歓喜の声に包まれる。
そんな中、私は、もっと気の利いた台詞を用意しておけよと心から思う。
全く。
ただ、まあ、初めて有人で宇宙空間へと到達できた。おめでとう。
月へはまだまだだし、火星は娘に託すなんて弱気も飛び出したけども。
その娘は、いま、君から送られてくる星空の映像に見入っている。
そして、ちょっと悔しい。
私もそこへ、星空の元へ行きたくなった。そう、君と一緒に。
ーー Fin




