団体戦二回戦 ―― ヘクト⑯
激闘が続く闘技場。
一回戦の全ての戦いが終わり、そして二回戦、第一試合の組み合わせが発表される。
「副隊長。次の試合まで我々は場内の警備へ行って参ります」
戦いを終えたばかりのタウラス自由騎士団の控え室で、副隊長のクロムにそう声をかける戦士が二人。
何を考えているのかわからないNPCの二人組。
しかし、実力は申し分無い。
勢いに翳りが見える自由騎士団にとって彼らを使うことは背に腹を変えられぬ決断であった。
それほどまでに団長であるリオはこの大会へ掛けているのである。
優勝さえすれば、再び入団希望者で溢れるだろう、と。
「わかった」
クロムは二人の行動を許可した。
そして、仮想ウインドウに目を向ける。
優勝候補の試合。
目を離す訳にはいかなかった。
二人組は敬礼をして、控え室から出て行く。
そして、部屋から出ると同時に二手に分かれ行動を開始する。
他方は、来賓の居並ぶ雛壇へ。
他方は、闘技場試合会場へ。
どちらも警備が居り近づくことは容易く無いのであるが、その警備を担うタウラス自由騎士団の一員である彼らを止める者は居なかった。
◆
<第二回戦、第一試合を開催します>
<第一試合は、ゼラニウム対エクリプス>
<対戦チームは、準備をして下さい。三十秒後にフィールドへ転送します>
システム音と共に全員が立ち上がる。
「ヘクトはあいつをお願い」
私を見たノゾミに頷きを返す。
「マーカス、強力な攻撃ばかりだとおもうけどお願いね」
「任せろ」
「ミカ。憧れの相手ね」
「ええ。あの首に噛み付いてくるわ」
「クレイグは作戦通り真っ先にあの女を落としてね。アラタは私のサポート。
行くわよ!」
最後は少し早口で言い切った後、視界が変わる。
正面にハルシュ。
手に武器は持ってない。
フェイクか、魔法で来る気か。
剣を手に。
予断は捨てよう。
何をして来ても対応出来る様に。
「始め」
……!
気付くと目の前にハルシュが居て抱きつかれて居た。
反射的に動かした剣は辛うじて腹に刺さったが致命傷には程遠いだろう。
むしろ、相手の体に絡め取られ無力化させられたか。
メイスを。
しかし、ピンポイントに私の急所を突いたハルシュの攻撃に完全に脱力する。
耳は……ダメなのよ……。
◆
まずは司令塔の無力化。
そのノゾミの作戦は当然クレイグも理解して居た。
しかし、開始の合図と共にヘクトを拘束したハルシュへと咄嗟に狙いを変えた。
司令塔云々では無い危険な存在。
そう考えたからだ。
狙いをウミからハルシュへ変え、一瞬躊躇した後、矢を放つ。
それは、ヘクトの背後から彼女ごと今や燃え盛る炎と化した二人を貫いた。
その僅かな間に、黒い霧の刃が彼の元に迫る。
辛うじてそれを避けた先に、氷の刀を携えた無言の瞳が待ち構えて居た。
◆
気付くと控え室だった。
……いやいやいや。
いくら何でも、アレはずるく無い?
取り敢えず、抗議に行こう。
掻き乱されたこの感情、どうしてくれるつもりなのさ!
控え室から出ると廊下を足早に歩くハルシュの背中が見えた。
……何処へ行くのだろう。
エクリプスの仕事で鍛えた尾行を使い私はその後を追うことにした。
彼は、観客席へと向かう。
気配を消した背後の私に気付く事なく。
そして、観客席に座る一人の少女の横へ。
柱の影に身を隠しその様子を眺める。
目に入った彼の柔らかな笑顔と、頭に手を乗せられた少女。
それを隠れて覗き見る私。
……あの子は……誰だ。
そして、私はこんな所で何をしているのだろう。
二人を眺めながら……ああ、これが現実か、とそう実感した。
離れた時間の長さを再び思い出した。
『ヘクト』
「何?」
放心して居た私はそのハルシュからの通信に何も考えずに反応してしまう。
「うわ!」
肩をびくりとさせた後、振り返るハルシュ。
「お前、何処に居たんだよ」
「ここ」
彼は私の目を見つめる。
真剣な眼差しで。
「……一つ、頼みが有る」
「何?」
「この子を、暫く見ていてくれ。すぐ戻る」
そんな無神経な事を頼むのか。
「良くも、まあ……」
「迅雷」
私が抗議の声を上げる前にハルシュは消えた。