団体戦一回戦 ―― エクリプス⑨
開会式とか、無いのか。
闘技場へ着くとすぐさま控え室に通される。
戦う相手も試合直前に決まるらしい。
「そっか。四人は初めてなのか」
控え室でミカがカモミールティーを淹れながら上から目線で言う。
「そうですよ。黒人形さん」
「黒人形?」
ミカがお茶の入ったカップを受け取りながらミカに言う。
「一回目の闘技大会でそう名乗ってたのよ」
「へー」
確かにフランス人形見たいだものな。
「マーカスは優勝したのよね」
「でも、王座にはつけてないからな」
「王座って?」
「その大会の優勝者と王者で防衛戦をやるんだよ。勝者は一回大会からずっとハルシュだ」
「へー」
て事は、あいつを倒せば王者か。
「何で今はやってないの?」
「王者の独壇場だからじゃ無いかしら?」
「私が殺してあげるのに」
その返答にノゾミとマーカスが苦笑いを浮かべる。
「ま、実際の所、警備の不安が大きかったからだな。
何せ、その王者が観覧中の偉いさんを襲撃したからな」
アイツ……馬鹿な事してるな。
「そんな訳で今回はタウラス自由騎士団にも警備の仕事が任された。
総動員みたいだぞ」
「逆に街の中の警備が手薄なのかしら」
「……かもしれん」
<ポーン>
<第一回戦、第一試合を開催します>
「……ま、今は大会に集中しましょう」
控え室の仮想ウインドウが闘技場の様子を映す。
カメラ位置は自由に操作できるらしい。
ミカが嬉しそうに説明してくれた。
「どんなチーム?」
ミカがノゾミの隣に座りなおし聞く。
「水泳部は、サモナー女子チーム。
三人で登録してるから、みんな召喚するんでしょうね」
「あいつら水辺の召喚獣使いじゃ無いのか?」
今日ばかりはクレイグも真剣らしい。
ソファから身を起こしウインドウを見ている。
「会場を水浸しにする様な魔法があるんじゃ無い?」
「なるほど」
「で、相手は有名女子チームね」
ゼラニウム。
仮想ウインドウに映されたそのチームの中にハルシュが居た。
スカートで黒タイツ……。
タイツって、履くのにコツが要るけど大丈夫かな。
それにスカートで飛んだら中見えるけど大丈夫かな。
なぜか、そんなどうでもいい事が自分の事の様に心配になる。
アイツが女の子なのも慣れて来た……。
そして、試合が始まり、あっさりと決着が付く。
会場を湖の様に変えた水泳部。
それを魔法で一網打尽にしたハルシュ。
「……ヘクト。あれの相手任せたいんだけど」
「良いよ」
首を落としても良いなら存分に戦える。
他の人とも戦って見たいからさっさとケリをつけよう。
そう。あのリーザって子とか。
あと、獅凰がどれだけ刀を使いこなして居るのかも。
「あの首、撫で落としてあげる」
仮想ウインドウでは、第二試合が終わる。
<第一回戦、第三試合を開催します>
<第三試合は、エクリプス対HERO&PRINCESS>
<対戦チームは、準備をして下さい。三十秒後にフィールドへ転送します>
「私達ね」
立ち上がりながらノゾミが言う。
「どんなチーム?」
「……男一人、女五人」
「自分好みの奴隷に囲まれたハーレム野郎。羨ましい限りだ」
笑いながら言ったクレイグを睨みつける。
「……私の獲物ね」
「駄目よ」
そう命令したノゾミを睨み返す。
そう言う男は……許したく無いんだけど。
「私が潰す」
トンファーを手にノゾミが言った。
「……競争ね」
「良いわよ」
どちらがそのクソ野郎を潰すのか。
「良し。お前らは好きにやれ。
女達は俺達で抑える」
マーカスがそうまとめた瞬間に景色が切り替わる。
女の子の中心に、楽しそうな笑みを浮かべる男が一人。
ムカつく。存在自体が。
メイスを握る手に力がこもる。
「始め」
掛け声と共に飛び出す。
視界から色が消える。
ノゾミも飛び出したが、私の方が早い。
恐怖に引き攣った顔めがけ、思いっきりメイスを振り抜く。
それに、ノゾミが続く。
結局二、三発小突いただけで男は消えてしまった。
それと同時に周りの女の子達は降参。
あっさりと勝ち抜け。
◆
「俺の出番は無さそうだな」
控え室に戻るなりクレイグが自嘲気味に言う。
「ナイスフォローだったじゃ無い」
そう返したノゾミに肩を竦めるクレイグ。
さり気なくこちらに向かって来ようとして居た剣士の腕を打ち抜いたのは彼の矢だ。
その戦意と共に。
他の連中もアラタとミカにあっさり拘束されて居た。
頼もしい仲間達だ。