予選突破 ―― エクリプス⑧
仮に、エウロペ王女がハルシュに忠告をする機会があれば。
マルショワリがノゾミの報告を元に、アーミラリにタウラス自由騎士団を見張らせていれば。
或いは、タウラス自由騎士団の団長リオがマーカスに会った際に、不審な入団者であるNPCの事を相談していれば。
その結果は違ったかもしれない。
しかし、闘技大会は裏で動く影を明るみに出来ぬまま開催される。
◆
「本戦出場、おめでとう!」
ノゾミが、ビールの瓶を掲げながら嬉しそうに言う。
水月に全員集まっての祝勝会。
「この調子で優勝ね!」
闘技大会の予選。
六チーム三十六によるバトルロワイアル。
味方以外は全員黒子。
誰が誰かわからない。
そんな試合だった。
ま、全員斬れば良いだけだから、話は単純。
久しぶりに心置き無く首を落として回る。
楽しかった。
それなりに強い奴も居たし。
「明日も私が全員殺す!」
これならそんなに恨まれ無いから!
「明日は私が活躍するのよ! 蛇の魔王のお披露目よ!」
ミカと首の蛇が私を睨む。
「今日の相手は雑魚ばっかりだったんだろ」
クレイグがつまらなそうに言う。
「まあ、明日はちゃんと作戦立ててから戦うわよ。
従ってね?」
「え、何で私?」
ノゾミが笑顔で私を睨む。
「従ってね?」
「……はい」
何時も従ってるじゃん!
「そうそう、衣装も間に合ったよ」
嬉しそうなミカの声にノゾミの笑顔が引き攣った。
◆
「七五三かよ!」
ミカが用意した衣装を全員で身につける。
ミカはゴスロリだけど、他はミリタリー調の制服姿。
ノゾミのワンピースが可愛い。
私もあれが良いだけど。
「ヘクトは男装の麗人がコンセプトだそうよ」
「そう」
「かっこいいわ」
「そう」
ミカが嬉しそうに言う。
まあ良いか。
「これは……本当に無様な姿は晒せなくなったわね……」
鏡の前でポージングをしながら言ったノゾミの顔は何時に無く嬉しそうだった。
「おお、流石によく似合う。
ねえ、アラタ」
「え、あ、……」
そんなノゾミに見とれて居たアラタは急にミカに話を振られ戸惑いを見せる。
「あれ? もっと露出が多い方が良かった?」
「べ、別に興味無いし」
そっぽを向きながらそう返すアラタ。
そこは……素直になって良いんじゃないかな?
むしろそれが見たいとか言ってみなよ。
ノゾミに適当にあしらわれるだろうけど。
「明日もよろしくな。白刃」
マントを羽織ったマーカスが不意に私に言って来た。
……バレてたか。
「……ごめん」
かつて私は彼を一回殺してる。
「いや、気にしてない。
それより味方で頼もしい」
マーカスは笑顔で言った。
会った頃のウジウジした感じはすっかり無くなって居た。
「準備は万端かしらね。
……明日は優勝しましょう」
ノゾミが全員に向き直り、腰に手を当てながら言った。
◆
アラタは優勝したらノゾミに告白しよう。
そう、心に決める。
ミカは、来るべきジルヴァラとの戦いを夢見て。
クレイグは、衆人環視の中どれだけ動くべきか未だ迷いの中。
マーカスは、培った己の力と、何より仲間の力を信じて。
そんな風に仲間達がそれぞれの道を進み出さんとする、そんな気配を察したノゾミはこの大会を最後に特務機関を解散すべきだろうかと密かに考える。
それぞれがそれぞれの思いを胸に闘技大会本戦当日を迎える。