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偽装工作 ―― ヘクト⑬

「……水着……?」


 ノゾミとミカが喜び勇んで入って行った乙女座の服屋。

 そこに並ぶのは、色とりどりのビキニとワンピース。


 えっと……?

 仕事は……?


「ノゾミはビキニ?」

「モノキニ!」


 戸惑う私を余所に普通に買い物を始める二人。


「ヘクトも選んでね」


 それだけ言い残し、あっと言う間に試着室へ。

 全く迷いが無い。

 それだけ自信があるんだろう。


 て言うか、え、何この状況。

 いきなり水着を選べと言われても……。


「ヘクト、どう?」


 おヘソまでぱっくり開いた黒のモノキニでポーズを決めながら試着室から出てくるノゾミ。


「……お似合い」


 あれは、選ばれし民にしか着れない奴だ。


「私これにしよう」


 フリルの付いたビキニのミカ。


「それを直してもらうの?」

「そう。ま、ベースが有るからすぐね」

「ヘクトは?」

「……まだ」


 どうしよう。


 と言うか何で水着なの?

 そんな疑問を一旦棚上げにして、気になるのを二つほど選ぶ。


 ワンピースと、三角ビキニ。

 まあ、ワンピースは無難だ。

 三角ビキニはインナーを見せる感じとビキニの紐の組み合わせが可愛い。


 どちらかと言えばビキニ……なのだが。


 このアバターだとな……。

 残念極りない。

 主に上が。


「気にし過ぎよ」

「別に誰に見せる訳でも無いから良いんじゃ無い?」


 そうかな?

 良いかな?


 良いよね?


 あと、ラッシュパーカーも買っておこう。


 ……あれ? 仕事?


 ◆


「仕事兼バカンス」


 盾座に移動して初めてノゾミが事情を説明してくれた。


 それで水着だったのか。


「最初に言ってよ」

「言ったら逃げるかも知れないじゃ無い?」

「逃げないよ」


 何だと思ってるんだ。


「あそこ!」


 ミカが御用達のファンシーな店構えの『クリノリン』と言うお店。


 さっき買ったばかりの水着を手直ししてもらうらしい。

 流石はミカ。

 揺るがないそのスタイル。


「いらっしゃい」


 ボンネットを被った職人さん。アンヌ・マリー。

 ミカが買ったばかりのアイテムを手渡しながらアンヌに要望を伝える。

 スケッチブックに鉛筆を走らせながらデザインを描き出すアンヌ。

 それに細かく要望を加え調整して行く二人。


 少し離れたところでノゾミがメイド服を手に取って居た。


 ……買えばいいのに。

 何となくそう思う。


 私の視線に気付いたノゾミが微笑み一つ寄越し静かに商品を元に戻す。


 打ち合わせが終わったらしい。


「ちょっと時間かかるから何か食べに行こうか」

「そうね」

「ヘクト、アンヌが話したいって」

「え?」


 ミカに言われ見るとアンヌがこちらに視線を向けて居る。

 何だろう。

 新しい服でも着せられるのかな?


「じゃ、先に屋台村行ってるね」

「うん」


 二人を送り、アンヌの元へ。


「御用って?」

「貴女、女性だったのね。男装の麗人?」

「別にそう言うコンセプトでも無いけど」

「水着、見せて欲しいの」

「……良いけど……笑わないでね。試着室借りても良い」

「ええ」


 店の中でいきなり水着姿を晒すのは抵抗が有った。

 なので試着室へ。


 仮想ウインドウを開き、装備を変更。

 さっき買ったばかりの水着姿へ。


 そして、カーテンを開ける。


「どう?」


 アンヌは無言で水着姿の私をじっくりと観察する。

 ……恥ずかしいな。


「……その胸、増やしてみない?」

「は?」


 当然の一言。

 失礼な!

 いや、当然か。

 しかし……。


「増やすって……?」

「ちょっと試作して居るアイテムが有るの。

 試して見ても良いかしら?」


 そのアンヌの提案に私は頷き返す。


「では、少し失礼して……」


 そう言ってアンヌは私を試着室の中へと押し込み背後に回る。


「少し、肉を集めて寄せるわね」


 そう言うと、いきなり脇からブラの中へと手を突っ込んだ。

 周りの肉を押して寄せながら。


「で、これを……」


 そして、何かを右のブラの中へと突っ込む。


「ひっ……」


 ひんやりとした感覚に思わず声が出る。


「しばらくすれば温度は馴染むと思うわ」


 そう言いながら左も同じ様に。


「どうかしら?」


 どう……。


 立ったまま下を見る。


 そこに、確かに胸が有る!

 偽物だけど。


 何これ。

 超ぷるんぷるんしてる。

 上半身を揺らして見る。

 ぷるんぷるん。

 ぷるんぷるん。


 楽しい!


「何これ!?」


 振り返り、アンヌに問う。

 ぷるんと胸の揺れた気配。


「最近、この島でスライムが大発生して居るの。それで何か作れないかと思って試して見たのよ。

 気に入った?」

「最高!」


 ぷるんぷるん!

 これは!

 画期的だ!

 アンヌの技術なのか、スライムのせいなのかわからないが、実際の胸にしか見えない!

 どうなってんの? 素晴らしき謎技術!

 ゲームの中ぐらい良いよね!


「ちょっと、ブラのサイズも調整した方が良さそうね。

 デザインはそのままで直しておくわ」


 そう。

 スライムパットのお陰で溢れそう!


「ありがとう!」

「使って見て感想を聞かせて。

 商品になるかどうかモニターテスト」

「わかった!」


 是非、商品化して欲しい!

 その為ならいくらでもモニターしてあげるわ!

 ぷるんぷるん!


 ◆


 船を乗り継ぎ、ログアウトを挟みながら目的地、トリアングルム・アウストラレへと向かう三人。


 其処には既に会談の相手である、クルッススの女王、イヨ・クルッススが護衛を伴い三人の到着を待っていた。


 そして、リゾートホテルの一室。

 彼女のロイヤルスイートルームにて会談が始まる。


 ◆


「遠路はるばるご苦労じゃった」


 テーブルを挟んで向かい合う、ノゾミと……小学生くらいの女の子。

 巫女装束の、その子が偉そうにそう切り出した。


「初めまして。

 イヨ女王様。

 特務機関エクリプスの代表、ノゾミ、そして、仲間のミカとヘクトです」


 ノゾミが恭しく頭を下げながら私達を紹介する。

 ……そうか。この子が女王様か。

 ま、ゲームだしな。


 私とミカはノゾミの後ろに立ちその様子を黙って見守る。


 イヨと呼ばれた女王の後ろにも護衛であろう女性が一人、静かに微笑みを浮かべながら立って居る。


「それで、我々に御用とは?」

「うむ。

 英雄、ハルシュとそれに随従しておるアリアシアの事じゃ」


 意外な名前が出て、僅かに顔が強張る。

 チラッと護衛の女性がこちらを見た気がした。


「エクリプスの監視対象じゃの」

「その二人が何か?」

「今現在儂の庇護下におる。

 故に当面は詮索無用とするのじゃ。

 ただ、その事を快く思わぬ王もおるであろうから報告はせぬように」

「召抱えるのですか?」

「詮索は無用なのじゃ」


 ノゾミの質問を、静かな口調で遮った女王には子供とは思えない様な威厳が感じられた。


「……承知しました」

「うむ」


 僅かに声のトーンが下がるノゾミ。

 対して満足気なイヨ女王。


「用はそれだけなのじゃ!

 さて、プールで遊ぶのじゃ!

 遊ぶのじゃ!」


 直後に、大声で叫ぶイヨ女王。

 先程の威厳はどことやら。

 子供らしい笑顔で右手を突き上げる。


 その、突然の変わり身に呆気に取られる私達。


「さ! 行きますよ! 皆さんも早く着替えて下さいね!

 水着、持ってきてますよね?

 あ、もちろんこの後は無礼講ですよ!」


 護衛の女性がいつの間にか水着姿になっていた。


 ……え?


 ◆


「なんか、遊びの口実に呼び出されたんじゃ無い?」


 更衣室でミカが言う。

 着替えは仮想ウインドウで一瞬なのでわざわざ更衣室を使う必要も無いのだが、まあ、愚痴の一つも言いたいだろう。


「そうなんでしょうね。

 ま、良いんじゃ無い?

 宿も用意してくれたんだし。

 せっかくなんだから楽しみましょう!

 あのイヨって子を、プールへ投げ飛ばしてあげるわ」


 ノゾミが楽しそうに恐ろしい事を言う。

 仮にも相手は一国のトップなのに。

 ま、無礼講って言ったから良いのか。


「で、ヘクトのその格好は何?」

「え? バカンスって言ったらこれじゃ無い?」


 でっかいサングラス。


「貴女はどこのセレブなのかしら?

 盛大にパットまで入れて」

「……わかる?」


 水着の上に一枚羽織って居るのだが、それでもわかっちゃうか。えへ。

 流石、スライムパット。

 ぷるんぷるん。


 でも、そう言うノゾミだってビーチボールを持ってるし、ミカは浮き輪をはめている。

 なんだかんだでみんな楽しみなのだ。


 揃ってホテルのプールへ。


「泳げないの?」


 歩きながらミカに問う。


「プカプカ浮くのが好きなの」

「後で貸して」

「ダメ」

「良いじゃん」


 何人か先客がいるのだろう。プールから楽しそうな声が聞こえて来る。


「あれ? イヨちゃん他にも……」


 ノゾミがそこで口をつぐみ、足を止める。

 プールの中にはイヨ女王と護衛の女性、ヨツバさん。

 その他に何人かの姿が有る。

 よく見ると、その中に知った顔が。

 獅凰とリーザ、あと、ピンクの髪の娘も一度会ってるな。

 それから、金髪の女性と白金の綺麗な髪をした人形見たいな女の子。


「ジ、ジルヴァラさん!?」


 ミカが絶句する。

 その視線の先には、プールサイドでビーチチェアに座るジルヴァラ。

 そして……ハルシュ。


 ……あいつ……こんなに水着の女の子に囲まれて……何でビーチチェアに座って余裕ぶってんだ!?


「ノゾミ! 早く来るのじゃ!」


 プールの中からイヨが楽しそうに呼ぶ。


「今行くわ!」


 ◆


 危険を察しノゾミはプールへ逃げた。


「わ、私も」


 それにミカも続く。


 そして、ヘクトはハルシュ達からプールを挟んだ対岸へ置かれたビーチチェアへと足を向け、そこへ静かに腰を下ろした。

 無意識のうちにメイスを横に置いて。


 ◆


 ……アイツ……水着着てるのよ。

 女物の水着を。


 ちょっと、本当にどう言う事なのよ!?


 わからない。

 貴方が、わからない。


 女の子に近づく為に女の子になってるの?

 それとも、女の子に成りたいの?


 ならば、スライムパット贈れば大喜びか?

 ホワイトデーのお返しはそれで良いか?

 そもそも、お返し欲しいのか?


 もう、わっけわかん無い!

 何で会う度に女に拍車がかかってるんだ!?

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