リゾート島での会談 ―― ノゾミ④
ノゾミにアーミラリより緊急の連絡が入る。
喫茶水月の地下にてマルショワリよりその伝達を受けるノゾミ。
「よく、わかりませんね。
その女王は何を考えて?」
『議題はその時に、との事だ。
まあ、羽休めのつもりで行ってくるが良い。
どうせ他愛も無い事、もしくは、意味深な事を言われるだけだ』
「意味深な事?」
『予言だとか何とか。
あれは詐欺師に通ずる物がある……と、兄上が言っていた気がする。そう、兄上が』
よりにもよって、王である兄に悪口の罪をなすりつけるか。
そう、ノゾミは呆れる。
「では、その南方のリゾート地で心行くまで楽しんで来ます」
『ああ。
このところの平和は嵐の前の静けさ、そう心掛けて置くと良い』
「……何か掴んで居るのですか?」
『いや。だがそろそろ退屈だ。
フール辺りが何かやり出してもおかしく無い頃合いでは無いか?』
「彼は、退屈しのぎに事を荒立てて居る訳では無い様ですよ」
愚者と言うより隠者が近しいかもしれない、と言うのが今現在、ノゾミがハルシュに抱く素直な印象である。
『一度助けられたと言っても気を許さぬ様に。
まあ、手なづけるつもりならそれでも良いが』
「……無理でしょう」
メイスを手に目の座った笑顔を浮かべるヘクトをノゾミは思い出しそう答える。
『だろうな。
では会談の件、先方には伝えておく。
手練れの護衛が付いて居るので襲われる心配は無いだろう。
万が一難題を押し付けられたら言ってくれ』
言ったところで何もしないくせに。
そう思いながらノゾミは了の返事を返し通信を切る。
◆
「ミカ、海水浴行かない?」
一階に上がり、ノゾミはカウンターの中のミカへと問いかける。
「海水浴?」
「そ。あ、違う。湖か。淡水浴? 南のリゾート島」
「日が強いのは……」
「じゃ、ヘクトと二人で行くか」
「俺は?」
「何でアンタとリゾートに行かなきゃならないよ」
ソファから体を起こしたクレイグをノゾミが冷たく睨む。
クレイグは肩を竦め再びソファに身を沈めた。
「アラタは?」
ミカがカウンターに座ったノゾミにお茶を出しながら言う。
「アラタねー……ちょっと刺激が強すぎるかしらね」
「本当に遊びに行くの?」
「違うわ。偉いさんと密会。
遠方だから宿を三部屋用意したって……ここ」
ノゾミは宿泊先に指定された宿の画像を仮想ウインドウに映しミカに見せる。
「あ、綺麗。
やっぱ行く」
「そう? じゃ後はヘクトね」
そこへタイミング良くヘクトが一階へ顔を出す。
「あ、おはよう」
「おはよう。何か仕事は?」
「あるわ」
仕事がある。
そう言われ顔を引き締めノゾミの横へ座るヘクト。
「コーヒー、貰える?」
そうミカに声をかけるが、ミカは身につけて居たエプロンを外す。
「それより、先にやる事があるの」
「……そう」
カウンターの中からミカが出て、ノゾミが立ち上がる。
「まずは準備ね」
「乙女座に専門店があるわ」
「そのまま盾座に持ち込んで作り直したい」
「いいわ。その足でフォーマルハウトから船に」
「了解」
ヘクトの頭越しに次々と予定が決まって行く。
「じゃ、行くわよー!」
「おー」
仕事の割に楽しそうに盛り上がる二人にヘクトは怪訝な顔をする。




