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それぞれの探し物 ―― ヘクト⑫

 怒りを滲ませた瞳。

 裂けた口の端から炎が漏れる。

 来る……!


 マーカス!


 しかし、声を掛ける前に彼は私達の前に踊り出る。

 直後、浴びせかけられたドラゴンの炎のブレスを手にした盾で受け止める。


そそり立つ壁(タワー)


 ブレスの熱を、炎をその盾で一切遮断するマーカス。


 私とミカ、そしてノゾミが彼の背後で反撃の時を待つ。


 そして、荒れ狂う炎が消えた、その瞬間にマーカスの背後から躍り出て跳躍。

 小さな標的をドラゴンの瞳が捉える。

 しかし、ノゾミの撃った弾がその目を直撃しそれを潰す。

 怯んだドラゴンの頭部目掛け、全身のバネを使ってメイスを振り下ろす。


耐え難き苦痛イクスクルーシィエイティン・ペイン


 攻撃によるダメージと痛みを膨れ上がらせる、ミカの補助魔法が私のメイスに宿る。

 それを伴った渾身の一撃。


 メイスがドラゴンの鼻っ柱に食い込む。

 そのまま下へ思いっきり振り抜く。


 鼓膜が破れんばかりの咆哮を上げるドラゴン。


換装コンバージョン


 私は着地と同時にメイスを剣に持ち替え首の付け根、心臓部へと剣を突き立てる。


 深々と突き刺さった剣に確かな手応え。

 咆哮は止み、巨体が粒子になり消えて行く。


 良し。

 勝った。


 しかし、目的は勝つ事では無い。

 ミカを振り返る。


 彼女は小さく首を横に振った。


 ……また外れか。


 ◆


 黒蛇の魔王・ザッハーク。

 それがミカが召喚したいと言う魔王らしい。

 その為に必要なアイテムの最後の一つ。

 竜血晶を求めてここ暫くドラゴン狩りをしている。

 だが、それなりにレアな品らしくなかなかドロップしない。


 何でそこまで魔王を呼び出したいのか。

「ジルヴァラさんに並ぶ為に」

 それは……先日、訳わかんないと言われた私がハルシュに何となく素直に近づけない理由と同じでは無いかと思うのだけれど。


 そして、多分あの子はそんな事を気にしないだろうとも思う。

 だから、余計に同じ位置にいたいのだろう。

 私がそうだから。


 そんなミカとノゾミと別れ、私とマーカスは盾座までやって来た。


 ミカの欲しいアイテムが手に入らない一方で竜の素材は溜まって行く。

 そして、それはマーカスの装備品へと変わって行く。


「また持って来たのか」


 共同の工房に顔を出した私達を見つけ、がいと言う防具職人がうんざりした様にも声を掛けて来た。


「おう。盾の補強をしてくれ」


 マーカスが彼の元へ。

 全身竜の鱗に覆われカッチカチのマーカスが更に強固になって行く。

 本人が満足なんだから良いんだけど、もう少し攻撃にも目を向ければ良いのに。

 何やらボストークと変な武器を作ろうとしてるみたいだけど。


「おーい。誰かユニコーンの角ってもって無いかー?」


 そのボストークが、大声を出しながら工房に入って来た。

 工房に居た職人全員に聞こえるように。


 しかし、誰からも返事は無い。

 レアなアイテムなのか。


「やっぱ、ねーよな……。仕方ない。ギルドにも依頼を出すか」

「あるよ」


 私が手を上げる。

 アドモゥキアス。ユニコーンを何度も何度もボコボコにして居たから手元に三十本程ある。


「あるのかよ!」


 嬉しそうにボストークが近寄って来る。

 仮想ウインドウを開いてそのアイテムを一本取り出す。


「これで良いの?」

「良いと思うんだが……おい、レタス!」

「は、はいっ!」


 む。

 変な薬作ってた奴だ。


「これと、このレシピ……」


 ボストークも仮想ウインドウを開きながら彼に何かを確認する。


「うーん……初見だ。……ちょっと……お借りしてもよろしいでしょうか?」


 極めて低姿勢のレタス。

 と言うか、少し怯えて見える。


「はい。どうぞ」


 彼にアイテムを手渡す。

 それと、仮想ウインドウを見比べながら考え込むレタス。


「うん。大丈夫。これ一本で、この命薬アリコーンてのが……10かな」

「そうか。なるべく大量にって依頼だ。

 これは、組合への依頼だから最優先だな」

「え、俺?」

「お前だよ。他に何人使っても良いから取りまとめはお前がやれ。

 俺は素材を搔き集める」

「くっそ。やりますよ。やりゃあ良いんでしょ」


 渋々引き受けるレタス。


「因みに後三十本程あるけど」

「はあ? ……全部買い取りたいが……どこで手に入れたんだ?」

「全部売るよ。降臨で手に入った」

「ボスドロップかよ! クソ。他にどれだけあるだろうか」

「いや、素材がそれだけあれば量産化が出来る。俺の腕なら500は行けると思う」


 レタスが少し得意げに言う。

 そうか。

 こいつは腕の良い薬剤師か。


「良し。全力でやれ。

 と言う訳で、全部買い取らせてもらう」


 ボストークから金額が提示される。

 ……結構な金額だった。


 OKに触れて取引成立。


「ところでさ」


 私はレタスに尋ねる。


「何……でしょうか」

「…………惚れ薬とか、作れない?」

「違法なんで……無理す」


 レタスは口を歪め首を振った。

 その横で、ボストークが呆れたように笑う。


 いや、笑い事では無いのよね……。


 ◆


 水月に戻り自室の机の上に置かれた小箱を手に取る。


 ……どうしよう。


 一体何を返せば良いのか。


 そもそも、立場が! 逆!

 本当は、私がお返しを貰う日なのに!

 つまり、バレンタインのお返しを考えるなんて今までの人生で一度も無いのよ!


 じゃ、私がお返しに貰った物を参考にすれば……残念!

 バレンタイン!

 真面目に送ったことが有りません!


 いや、自慢することでは無いけれど……。

 そう。

 こういったイベントの時に、そう言う人が居なかったのよね……。


 わからぬ。

 ゲームだから武器とかか?

 でも、あいつ、そこそこ拘りが強いからな。

 下手なもの送ると露骨にがっかりされるだろう。


 参考になりそうな意見……。


 ◆


「え、ホワイトデーで嬉しかった物ですかあ?」


 カクテルを飲みがら桃川ちゃんが私の質問に真剣に考えてくれる。


「うーん……。義理チョコのお返しは、まあ、何でも良いですよね。こっちもそれなりで配ってるんでー。

 で、本命なら何でも嬉しいじゃないですかー?」

「そりゃそうなんだけど」


 その、何でも、を決めあぐねているから困ってるのよ。


「あんたはそう言うの無いの?

 一番嬉しかった品」


 今日はトコトン飲むつもりらしいミツルに問われる。

 テキーラ、何杯目だ?


「……無い」

「ん? 嬉しかった物がないって事?」

「いや、特定の誰かに送った事も、貰った事も無い」


 職場でみんなで買ったりはあるけども。


「え……」


 桃川ちゃんが絶句する。


「勿体無い……。取り敢えず手当たり次第ばら撒けば良いじゃ無いでーすか。

 赤須さんならみんな喜んで色々くれますよ!?」

「いや、そう言うのはちょっと……」

「出た! 天然美人の私は恋愛とか興味ないです感!」

「この子はそう言うんじゃ無いと思うわ」


 そう言うんじゃ無いです。

 興味はあります。


「そうねぇ……お客さん達の話を聞くとやっぱり貴金属が嬉しいんじゃ無い?

 指輪とか」

「指輪は本命からもらうから嬉しいんでーす。

 義理のお返しで貰っても大して。

 て言うか、何で私の指のサイズ知ってるんだってドン引きでーす」

「嫌な女ね」


 しかし、なるほどと思う。


「後は、意外なのが下着かしら?」

「下着もちょっとでーす。

 て言うか、大体下着贈る人って、下しか送らないんですよ。パンツだけ。

 パンツだけ貰ってもしょうがないんでーす!

 上とセットじゃなきゃ使えないじゃないですか!

 そうですよね?」

「そうね」


 確かにパンツだけ貰っても困るか。

 それに上は上でサイズがあるし。

 ……あ、サイズ……わかる……。


「それに、妙にセンスがおかしかったりするんですよ!

 シマシマのパンツとか!」


 あーアニメ的な奴か。

 それは流石に履かないな。


「私はちゃんと下調べしてから贈るわよ。パンツ」


 と、ミツル。

 て言うか、贈った事有るのか。

 お返しに?

 相手は……男だよね?


 結局、有効なアドバイスは無く悩みは深まるばかり。


 ならいっそ……飴に惚れ薬でも混ぜ込んでやれ!

 と思ったら禁止されてるらしい。

 ノゾミにバレたら怒られるからそれもダメ。


 アイツが何を欲しいのか聞き出せれば楽なのに。

 でも、アイツとの共通のフレ、居ないし……。

 ノゾミは連絡先消したのかしら?

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