表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/57

再び鷲掴みにされる ―― ヘクト⑩

 ログインして一階へ下りるとノゾミがカウンターに立っていた。


「おはよう」


 何事も無かった様にノゾミが挨拶をする。


「おはよう」


 私はそれに笑顔を返す。


「コーヒー、飲むわよね?」

「うん」


 カウンターに座り、ノゾミの淹れるコーヒーを待つ。

 無言でコーヒーを淹れるノゾミ。


 やがて、コーヒーの匂いが立ち込め、それがカップに注がれ、私の前に置かれる。


「おいしい」


 一口、口をつけてそう感想を伝える。

 それにノゾミの笑顔が返ってくる。


「この前の件」


 たっぷりと、時間を置いてからノゾミが口を開く。


「全部、終わったわ」


 そっか。

 それは良かった。

 大変だったんだろうな。


 すごいな。

 ノゾミは。


 一人で終わらそうとか、思い上がっていた私はなんだったんだろう。


「すごい」


 そう、口から漏れた。


「……そうね。全部、一人で片付けて行ったわ」


 ん?

 顔を上げ、ノゾミを見る。

 少し、自嘲気味の笑顔。


「誰が?」

「あれ? 貴女が呼んだんじゃ無いの?」

「誰を?」


 目をしばたたかせるノゾミ。


「貴女の一番星」

「え?」


 一番星?


 何だ?

 その顔から火が出る様な揶揄は。


「はい。これ」


 そう言って、小さなハコをカウンターの上に置くノゾミ。


 それは……ハルシュが私に渡そうとした物と同じに見えた。


 偶然?


「預かり物よ。貴女に渡して欲しいって」


 え。


「何で?」

「何でって、こっちが聞きたいのだけれど。

 てっきり貴女が助けに呼んだんだと思ってた」

「え? ハルシュが? 何したの?」


 何が起きた?


「……盾座から情報を引き出して、乙女座の女王を押さえつけて、ミリッタを確保した。

 ついでに牡牛座で暴れたらしいけど」


 掻い摘んで説明された所で意味が全くわからない。

 何であいつがそんな事をしてるんだ?


「私達の障害を全部取り除いて行った。いとも簡単に」


 ボストークとの交渉、それは、まあ、わかる。

 多分、脅迫に近いような事をしたんだろう。

 乙女座は、そこから間接的に圧力でもあったか。

 そしてミリッタを捉えた。


 人の獲物と知って、掻っさらいに来たのか?


「もっとも、口止めされてるんだけどね」

「口止めするくらいなら、バレない様に動くでしょ」


 そう言う奴だ。


「そう思ったから全部言って見た」


 ノゾミがいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「牡牛座は何だろう」


 それだけわからない。


「マーカスの居場所を聞き出そうとして、自由騎士団に乗り込んだらしいわ」

「マーカスの?」

「その後、盾座に居た私とマーカスの所へ飛んで来た。

『てめぇ! ヘクトに何をしたぁあぁぁぁあぁ!』って。

 あれは、映像に残すべきだったわね」


 顔から盛大に火が出た。


 ……とんだとばっちりだ。マーカスも、その自由騎士団も。

 どこでそんな勘違いに至ったのだろう。


 どうしよう。

 マーカスに顔を合わせたく無いなぁ……。


「愛されてるわね」


 頭が爆発した。


 ◆


 私の顔面の火事が鎮火するまで、たっぷりと時間を置いてから気がかりを尋ねる。


「ミリッタの所に、捕らわれていた……」


 そこで言葉が止まる。

 ノゾミはその存在を知っているのだろうか。

 ひょっとしたら、今も……。


「女の子達は、ガウラって人が保護したわ」

「え? ガウラってあの、おじいさん?」


 私の尻を触ったエロジジイ。


「裏ギルドの中興の祖、今は引退して好きにやってるみたい」

「へー。そんな所へ預けて平気?」

「義理人情に厚く、女子供の味方。らしいから大丈夫なんじゃ無いかな。

 アーミラリも目を向けると言ってるし」


 エロジジイだけどな。


「そんな訳で、ま、一件落着。

 珍しくアーミラリもご満悦。

 ヘクトのお陰ね。

 これからもよろしく!」

「え、っと」

「ん? 何? 辞める気だった?」


 そう。

 そうだったんだけど……。


「ううん。よろしくね」


 やっぱり、この場所は、少し好きだ。

 それから、アイツも。


「ほら、チョコ受け取って。報告しないといけないんだから」

「あ、うん」


 私はカウンター越しにノゾミが差し出す小箱を受け取る。


 ◆


 アラタは、ログインし、少し気落ちしながら一階に下りた。


 昨日は結局ノゾミからチョコを貰えなかった。

 それどころか忙しなく動くノゾミと会話をする事すら、ままならなかった。


 しかし、そのアラタが一階に下りた時に目に飛び込んで来た光景は、今まさにノゾミがヘクトにチョコを手渡す場面。

 二人とも、嬉しそうな顔で。


 混乱の中、アラタは二階へと引き返した。


 ◆


 しかし、バレンタインか。

 どう言うつもりなんだろうか。


 アイツが女の子で、私が男の子の認識だから間違いでは無いだろうけど。

 と言うか、私が渡すべきだったか。


 ……お返し、考えよう。


 それよりも、だ。

 優先すべき最重要課題が沸き起こった訳で。


「報告ってさ、アイツとフレになったの?」


 ノゾミに尋ねる。


「うん。色々使えそうだしね!」

「消して」

「え?」

「消して」

「え、ちょ、落ち着いて?」

「すぐ消して」

「メイス、メイスしまって!」


 美人を近づける訳にはいかないのよ?


 ーー人形使い編 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ