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本命 ―― ハルシュ①

 上司。隊長。コミュ障。見せパン。脳筋。

 計五人からチョコを頂戴したわけで。


 ありがたい事なのだが、どれも小さな義理チョコばかり。

 本命が!

 無いのだ!


 そして、あろう事かもうすぐ日付けが変わる。

 明日のチョコは即ちただの食物でしか無いのだ。


 ……欲しいよな。

 例え、本命で無くてもまあ良い。


 いや、待て。

 私は、ここでは女の子!

 と、言うとこは、チョコを渡しても何らおかしく無いのよ!

 そうか!

 そうだ!

 幸い、何と無く買ったチョコがある!

 よし!


 渡しに行こう!

 いや、違う。

 貰いに行くんだ。

 きっと、タイミング損なって渡せてないんだよ。


 いや、そもそも、そう言うイベント気にしないタイプかなぁ……。


 ◆


 と言う訳で、呼び出して何も伝わらないヘクトを改めてガサツだなと思いながら私の渾身の女子力を全開にして、チョコを渡そうと差し出した訳で。


 …………。


「……何、なのよ……」


 えぇ……。

 そんな……リアクション……?


「何で? 意味わかんない……」


 え。

 バレンタインですよ?

 女子の一大イベントじゃ無いですか。

 完全に男になりました?

 いや、それはそれで……良いのかなぁ?


 しかし、ヘクトはそのまま嗚咽を漏らし始めた。


 ヤバい。


 ……どうすれば良いのだろう。

 何が悪かった?

 チョコ、小さかった?


「……こんな、残酷な世界で、何だ?

 何で、そんなに、楽しそうに、女の子してるの?」


「……そう言う事を、普通の楽しみを、普通を、あの子達から、奪ったのよ」


「……こんな世界、大嫌い」


「女の子の、アンタも、大嫌い……」


 泣きじゃくりながら、ヘクトはそんな事を言って、そのまま顔を上げず、仮想ウインドウを開いてログアウトして行った。


 一人残された俺は……手の中のチョコを見つめる。


 振られた……。


 と言うか……アイツが泣いたの……初めて見た……。


 何が……あった?

 何か……あったのか?


 何て言ってた?


 こんな、残酷な世界……?


 ……ま……さ……か……レイ……いやいやいや、あいつ、男だし!


 どう言う事だよ!?


 誰か!

 教えろよ!


 クッソ!

 アイツとの共通のフレ……いねーよ!


 アイツがここでは何してるのか一切しらねーよ! 畜生!


 ……いや、待て!


 あれ、アイツ!

 マークス?

 そう!

 マークス!

 反省会の時、一緒にいた奴!


 ……誰だよ!

 マークスって!


 ……聞いた事……あるような……誰だっけ……。

 マークス……。

 マークス……。


 あ!

 アイツだ!

 盾の人!


 ……フレじゃねーよ!

 クソ!


 ……待て!

 フレのフレなら繋がるか?


 えっと、トーヤ!

 アイツ、知り合いのはずだ!


 仮想ウインドウを開く。


 ……ログインして無い!

 死ね!!

 クソ!

 何だ?

 パルバの小麦色の肌とチョコを比べて# % # % # % # % # % とかやってんのか!?

 死ね!!

 爆発しろ!


 他!

 ……リーザ!


 無理!


 聞けない。


 昨日の今日で無理!


 はい、終わった!

 俺、終了ー!







 いや、まだだ! まだ、終わって無い!


 アイツ、アレだ!

 タウラス自由騎士団!

 て事はだ、金牛王に聞けば良いんだよ!


「転移、アルデバラン」



 即座に空から城へ。


 寝起きか?

 直ぐに城のテラスで伸びをする金牛王を発見。

 爽やかな朝、ありがとう!


「んな!」

「自由騎士団はどこだぁ!?」

「あ、あの建物の中じゃ」


 そう言って、城の敷地の外、闘技場の近くを指差す。


「そこかぁ! 必中・飛閃槍(グングニル)


 一直線にそこへ!


 槍が、ガラス窓を突き破る。

 そして、着地と同時に銃を構える。


「マークスを出せぇ!」


 取り敢えず一番近くに居る奴に怒鳴り付ける。


「だ、誰ですか? それは」

「てめえらの親玉だよ!」


 ◆


 四人はかれこれ一時間以上も狭い部屋で顔を突き合わせていた。


 互いの意見は平行線のまま。

 半ば諦め顔のボストーク。

 涼しい笑みを崩さないブリード。

 腕を組んだまま微動だにしないノゾミ。

 もう、三十分以上会話らしい会話も無い。

 自分以外は離席モードにでもしてるのでは無いかとマーカスは疑う。


「……すまん」


 そんなマーカスに通信が入る。

 一言断りを入れ、席を立つ。

 そして部屋の隅へ。


 通信はタウラス自由騎士団のメンバー。

 昔の仲間からだった。

 皆目、用件に見当がつかないまま、通信に出る。


「はい」

『マーカスさん! 今、今どこですか?』


 叫ぶような通信。

 背後で悲鳴の様な声。

 マーカスに、にわかに緊張が走る。


「何があった?」

『居場所を教えろって殴り込みがぁ……貸せぇ……は、はい、すいません、変わります……マークスか!?』


 通信の相手が変わる。


「……マーカスだが」

『盾の奴だよな? 今、何処だ!』


 その怒鳴り声にマーカスは心当たりがあった。


「盾座に居る。お前は何をしてるのだ?」

『お前を探してんだよ! 北と南、どっちの町だ?』

「北、だが」


 そこで急に通信が切れる。

 何なのだ?

 怪訝に思いながら振り返ると、三人がマーカスを注視していた。

 島の二人は解散の切っ掛けを期待しているのだろう。


「すまん。俺に用事があるって奴がここに来る見たいだ」


 そう言ってマーカスは窓を開ける。

 まだ、解散する訳には行かなかった。


 ◆


 タウラス自由騎士団の詰所に居合わせた十人は全員槍でボコボコにされた。


 闖入者は何とか目的を達成したらしくあっと言う間に転移で消え去った。


 十人は全員、この場に団長のリオが居なくて良かったと胸を撫で下ろし、この事件を決して口外しない事を決めた。


 ◆


 射手座から全速で盾座を縦断する。


 そして、先日訪れた生産者たちの町へ。


 で!


 マークスは何処だ!?


「マァァァァーーーークゥゥゥス!!」


 上から叫ぶ。


 窓から身を乗り出し手を振る姿を発見する。


 そこかぁ!


 急降下し、その窓へ飛び込む。

 そして、その男の胸ぐらを掴み壁まで押しつける。

 その勢いで、軽く建物が揺れる。


「てめぇ! ヘクトに何をしたぁあぁぁぁあぁ!」

「……それを、調べてるん、だ、離して、くれ」


 ……。

 あれ?

 こいつが悪者じゃ無いの?


 ……。

 いや!

 取っ掛かりが見つかった!


「な、なんなのよ……」


 知らない女が目を丸くして居る。美人だな。


「やっぱり、こうなったか」


 ん。

 ボストークも居るのか。


「やっぱりとは、どう言う意味だ?」


 んん?

 ブリードも。


 何だ?

 これ。


「合コン?」

「どう考えたらそう言う結論になるんだよ」

「うるせぇ。こっちはそれどころじゃ無いんだよ!」

「君の差し金かい?」


 ボストークが女に問う。


「そんな訳無いじゃない。

 ……いいわ。私が事情を説明する」

「いや、それよりヘクトの事をだな」

「それを説明するって言ってるのよ」


 そっすか。


「部屋、貸して」

「隣を使って良い。長くなるかな?」

「五分で終わるわ」

「三分にしろ」


 俺の要望に美人が睨み返して来る。

 いいすね。

 ツンデレかな?


 ◆


「初めまして。私はノゾミ。ヘクトの仲間よ」

「ハルシュ」


 美人の右手を握り返す。


「貴女の事は良く知ってるわ」


 ……有名人だからな。しかし、こんな美人に目を掛けられるとは光栄だ。

 まさか!

 ヘクトと、俺を取り合って?


「手短に説明するわね。

 私達は依頼で行方不明の女性五人を探してた。

 そして一人のプレイヤーに行きついた。

 そいつは裏稼業で成り上がり、表の権力者にもコネを持つプレイヤー。

 そこまで調べた時点で、探してた四人は死体になり、もう一人は廃人」

「そんなプレイヤー、殺せばいい」

「ただPKした所で何も変わらない。

 そいつがやった事の証拠を掴んで然るべき措置を取る必要があるの。

 言った通り、表にコネがある。

 それも太い。

 乙女座の女王を通じて私達に動くなと圧力を掛けてきた」

「で、それとヘクトと何の関係が?」

「今朝、彼女はそのプレイヤーを殺そうとした。

 咄嗟に私はそれを阻止した。

 彼女に何があってそんな行動に出たのか、それが分からないのよ」

「そのプレイヤーを教えろ」

「何するの?」

「全部吐かせて殺す」

「だから、そうやって、ただ力でPKしても何も変わらないのよ。また戻って嫌がらせをするだけ。

 そして、そう言う嫌がらせに長けた奴なの。

 こっちの心を折る様な」

「その度に殺す」

「落ち着いて。

 その打開策がここにあるの。

 そいつに違法な薬を流してる奴が居る。

 あの二人はそれを知って居る。

 でも、それを聞き出せない。

 その証言さえあれば、逮捕して処置が出来るのに」


 成る程。

 ボストークを相手に交渉か。


「それでヘクトは救われるんだよな?」

「多分……」

「説明は以上?」

「ええ」


 この場をどうにかする。

 それは、簡単だ。


 俺は三人の待つ部屋へ戻り、そして、ボストークの前に座る。


「大体、事情は聞いた」

「そうか。どうする?」

「一時間やる。売るか考えろ」

「そんな事、する訳無いだろ?」


 すかさずブリードが口を挟む。


「値段も聞かずに断るなんて商売人らしく無いな。

 アンタも同じく意見か?」


 ボストークに尋ねる。


「幾ら払うんだ?」

「これでどうだ?」


 俺はひとつのアイテムをテーブルの上に。

 それは、白紙のスキルチケット。

 生産者なら延髄の品でないのかな?


「……悪くない。いや、十分すぎる」

「君は何を言ってるんだ? ボストーク。

 これは信用問題だぞ?」

「そいつがどれだけ価値のある客か知らないが、この交渉が決裂した場合、俺はこの島を落とす」

「「「「は?」」」」


 俺以外の四人が同時に声を上げる。


「じゃ、一時間後に」

「待て、何だ最後のは。脅迫か!?」

「お前らにまともに交渉する気が無いなら仕方無いだろ?

 値段の釣り上げなら応じる。

 ただ、値が付けられない、なんてふざけた回答をするのは許さない。

 そういう事だ。

 お前だって商売人の端くれだろ?

 じゃ一時間後に」


 そこまで言い切って、女と盾に退室を促す。


 ◆


「ちょっと、何なのよ。あれ」

「交渉。まとまると良いけど」

「相変わらずとんでも無いな……」

「一時間後までログアウトするけど、二人はどうする?」

「私は最後まで付き合うわ」

「悪いが俺はここまでにしておく。

 ハルシュ、ヘクトを頼む」

「アンタに頼まれる謂れは無い」


 むしろ、離れろ。

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