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爆破、爆発 ―― エクリプス⑤

 翌日。

 ミカに誘われ、ギルドの依頼で降臨イベントに行った。

 今回は、七対六の戦いだった。

 ボスっぽいやつが槍使いだったので、他には目もくれずにボコボコにした。

 周りの人達はドン引きしてたけど。


 ◆


 フォーマルハウトよりの使者がミリッタに伝えた答えは『否』。

 それを聞いた瞬間、ミリッタは激怒し、そして、直ぐに冷静になる。

 他にも王は居る。

 そう思い直す。

 その一瞬で、哀れな使者は二度と故郷の地を踏むことは叶わなくなった。


 原因は明白だ。

 特務機関エクリプスなる良くわからない集まり。

 まずは、それを排除しよう。

 目の前から消え去るまで。


 そう決め、次にその手段の検討に入る。


 しかし、それこそがフォーマルハウトがミリッタを遠ざけた理由である。

 ゴーレム。それ自体の破壊力は文句のつけようがない戦力であると、そういう評価であった。

 最終的にはプレイヤーに破壊されたことを差し引いても、である。


 問題は、ゴーレムではなく、むしろミリッタにあった。


 ゴーレムがその拳を振り回し、瓦礫と肉塊が宙を舞う度に奇声を上げる男。

 それは、遠ざけるに値する狂気と捉えられた。


 そして、ミリッタがゴーレムの核として使用した子供の年格好。

 それが遅くして念願の子宝に恵まれた王の愛息に近かった事。

 

 そういったことで王の心象を著しく損なったことが原因だったのである。


 しかし、その事はミリッタの耳に入ることは無かった。


 ◆


 私は水月の一階で一人、コーヒーを飲む。

 直にマーカスも来るだろう。

 そしたら、今日も聞き込みか。


 ノゾミとクレイグ達の辿っていた糸は一昨日の事件で全部消えた。

 いや、強引に消された。

 後手に回っている。

 もう、強引に行くしか無いんじゃないかな。

 むしろ、強引に行くべきだ。


 そんな事を思いながら、コーヒーカップを傾ける。


 カランコロンとドアベルが鳴る。

 誰か戻ってきたか?


 視線を向けると、そこには子供が立っていた。


「どうし……」


 声を掛け、すぐさまい異変に気付く。


 表情が、無い。


 人形使い。


 咄嗟に剣を手に。


 直後、視界が真っ白になった。


 ◆


 私は水月の三階。

 自室に居た。


 ……死に戻り。


 窓の外を見る。


 煙で真っ白。


 敵は、近くに居る。


「転移、カストル」


 視界が切り替わると同時に、反転しながら跳躍。


 私が居た空間に、刃が突き出される。


 やっぱり。


 剣で、青白い死面を付けたそいつに斬りかかる。


 しかし、その刃が届く前に転移で逃げて行った。


 ◆


 カストルへ飛んだヘクトはそこから、警戒しながら急ぎ、水月へ戻る。

 道には多少の人だかりが出来ては居たが、周りの建物には影響は無く、火の手も上がっていなかった。


 ドアの吹き飛んだ入り口をくぐり、そして、そこでヘクトは立ちすくむ。


 床にはガラス片や吹き飛んだ物が散乱し、テーブルもソファも焼け焦げていた。

 よく、延焼しなかったななどと思いながら、二階に上がる。

 そちらは傷一つ無く無事であった。

 続いて、地下を確認する。

 そこも問題ない。


 再度一階に戻り、吹き飛んだ椅子を一つ起こし座ろうとしたが足が壊れまともに立たない代物になっていた。

 諦め、次にひっくり返ったテーブルを起こす。

 こちらは辛うじて無事だった。

 ひとまずそれに腰掛ける。


 ヘクトは、暫くそのまま呆けていた。

 その風景はかつてのゲームに似ていた。

 しかし、あのゲームではどれほど破壊の風景を目にしようともこれほど喪失感を感じた事は無かった。


「えー、なにぃ? これ?」


 次いで現れたのはミカだった。


「ガス爆発? ヘクト、無事? 怪我してない?」


 床の瓦礫を避けながらヘクトの側に寄っていくミカ。


「平気」


 死んでるけど。

 ヘクトは、そう思ったがそれは言わないことにした。


「そう、良かった。さ、片付けようか」


 小さく微笑んだ後、ミカはヘクトにそう言った。


「そうね。動かないと」


 ヘクトはミカに手を引かれるままにテーブルから腰を上げた。


 ◆


 床を箒で掃くと、細かな瓦礫は粒子になって消えて行く。

 まるで魔法だ、などと思いながら黙々とミカと片付けをする。


 そして、床に散乱していた瓦礫が半分ほど片付いた所で、ノゾミ、クレイグ、マーカスの三人へ簡単に起きたことを書いたメッセージを送る。


 直ぐにノゾミが飛んで来て「大丈夫!?」と、悲鳴に似た叫びをあげる。その、心配そうな顔に作り笑顔を返す。


 次いでクレイグ。

 すっかり焼け焦げたソファを見て、天を仰ぐ。

 そして、カウンターの中に入り、ビールの無事を確認する。

 そのままビールを開けようとするクレイグにミカとノゾミが思いっきり文句を言う。


 更に、マーカスが来て、黙々と椅子やらテーブルやらを片付け始める。


 そして、アラタ。


 ◆


「な! 何ですか!? これは!」


 ログインして二階から下りてきたアラタが一階の有様を見て叫び声を上げる。


 これで、エクリプスのメンバー全員が顔を揃えた事になる。


「事故よ」


 静かにノゾミはアラタの疑問に答える。


「事故ぉ!?」


 ノゾミの返答にあからさまに不満を露わにする。


「事故って何ですか! そんな訳無いじゃないですか!」


 一階の中心へ進み出たアラタが声を荒げる。


「何で隠すんですか!? 四人で何をしてるんですか! 何で僕とミカだけ仲間はずれ何ですか!」


 それは、ここ数週間ミリッタへの対応に追われていた四人への不満の現れだった。


「アラタ……」


 ノゾミは困惑した。

 こんなに憤っているアラタを見たのは初めてである。

 いや、そもそもアラタが声を荒げた、それすら初めてなのである。

 そして、そんなアラタ達のケア、それに手が回らなかった自分が今更ながらに情けなくなった。


「ごめんなさい……」


 小さな声でノゾミは謝った。


「違うんです!

 謝ってほしいんじゃない!

 ちゃんと教えてほしいんです!」


 アラタは憤っていた。

 悔しかった。

 今まで全員で動いてきた。

 しかし、今回は仲間外れにされている事が。

 何も教えてもらえない事が。

 マーカスとヘクトが加わった事が。

 ヘクトがノゾミと仲良くしている事が。

 ミカがヘクトに懐いている事が。

 悔しかったのだ。


 しかし、アラタの懇願に四人は口を開かない。


 さらなる感情を込め叫ぶ。


「仲間ですよねぇっ!?」

「仲間だからだよ!」


 クレイグが堪らずアラタを怒鳴りつける。


 そして、静寂。


「大事な仲間だから、巻き込みたくないんだろ……。分かれよ」


 目を逸らしながら、クレイグが付け加える。

 そして、気恥ずかしさを誤魔化す様にビールの栓を開ける。


「……わかりません……」


 しかし、アラタは納得しない。


「アラタ」


 ノゾミがアラタの正面に立つ。

 アラタの目を見て、そして、優しく微笑む。


「今回は私達が、うん、私達だけで解決しなきゃいけない問題なの。

 でもね、仲間外れとか、そう言うのじゃ無いの」


 そう言ってノゾミはアラタ抱擁する。


「何時もありがとう」


 より体を寄せ、耳元でそう囁く。


 アラタは、全てを赦した。


 ◆


 ノゾミは地下の指令室に行った。

 クレイグはソファを買いに。

 マーカスとアラタはその他、喫茶店に必要な物全てを買いに。

 買い物リストはアラタが管理しているらしい。

 柴犬みたい。忠犬、アラ公。可愛い。ノゾミが重宝するのもわかる。


 ミカと私は引き続き片付け。

 粗大ゴミを、ウインドウ操作で片っ端から消去する横でミカがカウンターの上を布巾で拭く。


「盛大に爆発したね」


 ミカが楽しそうに言う。


「そうね。魔法?」


 火薬にしては火が少ない。

 いや、燃え移ったりしない様なゲームシステムなのかな?


「違う。違う」

「ん?」


 何故、私の疑問が分かった?


「アラタの方」


 あ、そう言うの事か。


「ミカも、ごめんね」


 顔を上げ、同じく仲間外れにしてしまった彼女に改めて謝る。


「私は、別にいいよ。そんなに気にして無いし。

 それに、夜しか動けないしね」

「そう?」

「その代わり、全部終わったらまた付き合ってくれる?」

「いいけど? 今度は何?」

「ドラゴン!」

「うわ、大変そう」

「そうね。献血して置いて」

「そう言う使い方!?」


 私は、お弁当じゃ無い!


「そんなアラタをノゾミは一発で黙らせた」

「すごいわ。あの人。こわーい」

「ね!」


 そう言って二人で先程の場面を思い出し、笑い合う。

 アラタを抱きしめたノゾミ。

 角度的に私とミカしか見えて居ないだろう。

 アラタの首に手を回した後、勝ち誇った様な笑みを浮かべたノゾミを。


 そして、簡単に掌で転がされて居るアラタに少しだけ同情した。

 ま、子供だしな。


「蠱惑のスキルとか持ってたりして」

「そんなスキルあるの?」


 アレは天然物のスキルだろうけど。


「アウバの裏スキル屋に売ってるよ。

 凄いよ。同性には効果無いみたいだけど」


 当然の様に言うミカ。


「……何で知ってるのよ」

「裏も人材派遣やってるから、そのスキル持ちの人を借りて見たの」

「何の為に?」

「乙女の好奇心」


 そう言って怪しい笑みを浮かべるミカ。

 これ以上は踏み込まない様にしよう。


「蠱惑……か」

「誰か誘惑するの?」

「うわ」


 丁度、階段を上って来たノゾミが後ろに居た。


「びっくりした。……しないよ」

「ま、わざわざスキルなんて取らなくても出来るしね。

 ドアの修理はすぐ手配してくれるって」


 それは良かった。

 ドアが無いと外から丸見えだしな。

 そう、今見たいに中を覗き込む男が……!!


「ちわーす。ドア、直しに来ました」


 早っ!

 思わず剣に手を掛けていた……。




 あっという間にドアは元通りになった。

 そしてカランコロンと、鈴を鳴らし、買い出しに出た面々が戻って来る。


 この音、好きだな。

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