繋がる点と点 ―― エクリプス②
翌日。
ログインした私はそのままノゾミに連絡を取る。
そうメッセージが来ていたから。
『今どこ?』
「部屋」
『そこにいて』
と、通信が切れる。
直ぐに部屋のドアをノックする音。
「はい」
開けるとノゾミが身を摩り込ませて来る。
「どうしたの?」
怖い顔して。
「貴女、何したの? 昨日」
「あー荷物検査?」
「……言っとくけど、立派な犯罪よ? 自覚、ある?」
「無い」
「何で無いのよ!?」
「アレはクズで最低のクソ野郎だ」
私の返答にノゾミは溜息を吐いてベッドに腰を下ろす。
「そうなんでしょうね。でも、証拠が無いのよ」
「それを見つけようとしたんだけどな」
「その結果、アーミラリがご立腹」
「ん? 何で?」
この組織の上層部が怒る意味がわからない。
いや、怒られる事をして無いなどと言うつもりは無い。
違うのだ。
何故、私が、その組織の一員であるとバレて居るのだ?
「思った以上に厄介みたいよ。相手は、乙女座の王宮にも顔が効く」
既にノゾミも同じ疑問を持ったのか。
「これは確証の無い話。私達の上層部、アーミラリ。その更には上に全天二十一の王が居る。
つまり、私達の親玉の親玉に泣きついた訳よ。
しかも、今回の事だけ見るとこっちが完全に悪者」
「……成る程。悪知恵は良く働くのか」
「でなきゃ、人の売り買いで成り上がれないでしょ」
「ちょっと、甘く見てた。
さて、じゃ、改めてそいつの顔を拝みに行こう」
「はあ?」
「だって、謝りに来いって言ったの、あいつだもん」
私の言葉にノゾミは顔を顰める。
「そう言えば、変装。
あれって看破で見破れるよね?」
「まあ、相当なレベル差が無ければ」
「例えば……彼奴が『人形使い』だとして、変装を使ってたら、見破れる?」
「え!?
待って。
何それ?」
「昨日、護衛の中に『人形』みたいな子供が居た。
ひょっとしたら、アレがそうなんじゃ無いかなと思って」
そこで、ノゾミは顎に手を当てる。
「いえ、レグルスで会った人形使いは変装は使ってなかったわ」
「そうか」
「でも、ミリッタにはまだ確かめて居ない。
……行きましょう。会いに」
◆
「本当に謝罪にくるとは」
突然の来訪を笑顔で迎えるミリッタ。
「むしゃくしゃしてやった。今は反省して居る」
私は用意して居た棒読みの台詞を伝える。
「そうですか。とても反省して居る風には見えませんけどね。
誰かから叱られでもしましたか?」
これ以上話すことは無い。
「荷代は弁済しますので」
「そう言って貰えると有難い。出来れば護衛の治療費も頂きたいですが」
「通常、護衛の報酬にはそう言った場合の手当ても含めての上乗せされて居るのでは無いでしょうか?」
「あーそうでしたね。
では、彼らは暫く慎ましく生きていただかないと」
そう言ってわざとらしく笑うミリッタ。
死ね。
心の中でそう思いながら私とノゾミはその場を後にした。
◆
「ハズレ」
水月に戻って開口一番にノゾミが言う。
「そっか」
「別のスキル、かな?」
カウンターに座りながらノゾミがそう呟く。
私は、チラリと見た人形使いの顔。
そして、ミリッタの顔を思い出す。
方や、死人みたいな色白の陰気な男。
方や、浅黒く日焼けした軽薄そうなどこにでも居そうな顔の男。
「何の話?」
カウンターの中に居たミカがコーヒーを出しながら聞いてくる。
「看破に引っかからない、顔を変える様なスキル」
「整形?」
「そんなの有るの?」
「知らない。有りそうじゃない?」
いたずらっぽく笑うミカ。
「幻術は、看破効くものね」
そんな魔法があるのか。
幻。
いいな、幻。
「メイク、にしては骨格が違う気がするし。
なんかこう、お面みたいに顔だけ変える様なスキル……無いか」
「有るよ」
「え!?」
ノゾミの呟きにミカがさらりと言う。
「冥府に有る。
【死面】。
死人の顔を写し取る。
ちょーキモく無い?」
「「……それだ!」」
私とノゾミが同時に叫ぶ。
「え。なんなの?」
話が見えないミカがカウンター越しに不満を漏らす。
◆
私の部屋でノゾミが仮想ウインドウを展開する。
三人の男。
「これが子連れの人形使い」
私が殺した奴。
「これがミリッタ」
クソ野郎。
「真ん中は?」
「ゴーレム騒動の時に、王宮に忍び込もうとした暗殺者。アラタが撮った」
アイツ、やるな。
流石は愛の力?
しかし、その三つの画像に写る男の顔はすべて違う。
「成る程。デスマスク、ね」
ただ、暗殺者は二人共青白く生気の無い顔をして居る。
「背格好も同じだ。比べるとよくわかる」
「点が繋がって来たわね」
ノゾミが真剣な顔で言った。
◆
翌日。
私達が探して居た行方不明者の全員が遺体で見つかった。




