腐の装備品 ―― ヘクト⑥
「えっと……」
水月に戻った私とミカを見て、ノゾミが言葉を失う。
「今度ノゾミの分もしつらえてあげるから」
「え!?」
いたずらっぽいミカの言葉に完全に絶句するノゾミ。
しかし、私はそれもアリだなと、そう思う。
そう、みんなでコスプレすれば怖いものなど無いのだ!
……多分。
◆
蛇を大量に退治して居たら、大量の蛇革が手に入り、そして使い道の無いそれらの処分の仕方をミカに相談した。
私としては適当に買い取ってくれる所があればそれで良かったのだけれど、そう言えばミカはどうしたのだろうかと、疑問に思ったから。
防具にしよう。
そう、ミカが提案して来た。
そして、彼女の知り合いだと言う職人を紹介して貰う事に。
ここで気付けなかった私の落ち度。
そう。
ミカの御用達と言うその意味に。
◆
「動きの邪魔にならなければ良いかな。
昔はさ、ロングコート姿だったりしたんだよ。
まあ、周り一面砂漠みたいな所だったから迷彩色みたいなものだったんだけど」
オーダーメイド、そう聞いてテンションが上がる。
「そう。じゃそんな感じのが良いよね?」
「そうだなー」
私は色々と想像する。
もし、シルエラの体ならば、ミカの様なゴスロリもありだったかも知れない。
でも、少々男っ気の混じった今のアバター。
可愛さにベクトルを向けてしまうと、多分、イタイ。
であるならば、ノゾミの様なクールビューティーか?
いや、同じ格好をしたら多分私が負ける。
まあ、勝ち負けの話では無いのだけれど。
私は黒い日傘を差しながら歩くゴスロリ娘の後に付いて歩きながら色々と考える。
楽しいな。
着せ替え。
昔のゲーム、実用性重視の服しかなかったからな。
「待ち合わせ、ここ」
そう言ってミカが立ち止まる。
そこは、女の子でいっぱいのカフェだった。
「あ、いた」
その視線の先には、ヘッドドレスをつけたゴスロリ娘が鎮座していた。
私はこの時点で自分の過ちに気付いた。
◆
「えっと、なるべく動きの邪魔にならないで重くない方が良いかな」
「貴方、戦い方は?」
ゴスロリの職人さんに希望を聞かれ、思うままに答える。
戦い方……。
「殴る。斬る」
「敏捷特化の近接。メインウエポンはメイスとソード。動きで撹乱しながら急所を突くタイプね」
ミカが私の戦い方を私以上に分析して伝える。
「成る程。魔法は?」
その問いに首を振る。
結局、魔法は一度も使ってないな。
「成る程。他に何か要望はあって?」
「うーん……耐熱とか、耐寒とか付けれるかな」
「善処するわ。それくらいかしら?」
他に思い浮かばないので首を縦に振る。
「じゃ、素材は一度全部預かるわね。
大丈夫。ミカより素敵になるわ」
何が大丈夫なのだろう。
しかし、もう引き返せない。
素材を全て預け、私は彼女とミカを信じる事にした。
◆
それから数日した、今日、服が出来たとミカから伝えられた。
それを受け取りに行って……。
◆
何と言うか、まあ、ゴスロリの横に並ぶのならばこう言う格好になるのだろう、と言う男装。
決して悪趣味ではない。
軍服を意識したのであろう、立て襟のコート。
そして白シャツ。
そして、軽さ、動きやすさ。
とても蛇の皮とは思えない。
「敏捷、それと、僅かに筋力にもボーナスが付いたわ。
それと、毒耐性。
マナの糸を編み込んであるから、MP回復速度の上昇も付いた。
はっきり言って、極上品ね」
誇らしげに説明するゴスロリ職人。
確かに極上なのだろう。
非の打ち所も無いのだろう。
デザイン以外は。
……MP回復?
「さすがね!」
性能を聞いたミカが嬉しそうな声をあげる。
「ねえ、ミカ?」
「何?」
「MP回復って、貴女の要望かな?」
その問いにニヤリと笑みを浮かべるミカ。
私は!
貴女のお弁当じゃ無いんだ!
吸わせないからな!
◆
しかし、ノゾミを絶句させたこの格好に意外にもマーカスが好反応を見せた。
そして、ミカに職人を聞き出しオーダーに行ったらしい。
……人の好みは分からない。
なお、鎧は専門外とやんわりお断りされたらしい。
とても、落ち込んでるので今度マントでも作ってもらえ、と慰めておいた。




