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街中の狩り―― ヘクト③

「しまった!」


 視界が切り替わるなりノゾミが大声を出し、私を見る。


「ヘクト、看破、持ってる?」

「え?」


 何それ?

 ノゾミがあちゃーと言いながら頭を抑え、天を仰ぐ。


「スキル。今から買いに行くよ! マーカスは?」

「ある」

「ヨシ」


 マーカスの返答にサムズアップで答えるノゾミ。


「アラタ追いかけさせる。先に王宮の方へ。

 お前、サボるなよ?」


 後半はクレイグを睨みつけながら。


「天に登ってアホどもを探してますよ」


 肩をすくめながらクレイグが返す。


「ヘクト、行くよ」


 そう言ってノゾミは走り出した。


 ◆


 作戦開始、五分前。

 怪しい路地裏の怪しい地下のバーで裏のスキル【看破】を購入。


「じゃ! 気を付けて」


 裏路地から出た所でノゾミと別れる。

 彼女は一度手を上げ走って行った。


「今どこ?」


 私はアラタに通信を入れ、彼の現在地を確認。


『王宮の北。壁沿いに来て下さい』

「了解」


 通信を切り、そちらの方へ足早に歩き出す。


 街灯も疎らな街中を子供が二人歩いていた。

 いや、近くに大人も居るか。

 一瞬視界に入ったそれらを無視し私はアラタの元へ急ぐ。


 ◆


「お待たせ」

「一分前」


 細かいなぁ。ハゲるぞ?


「看破、セットしてますか?」


 睨む様な目つきで問われる。


「してない」

「して下さい」

「はい」


 仮想ウインドウを開き、急いでセット。

 そして、今夜は剣。

 闇に紛れ迅速に。

 多分、この仕事はそれが正解。


「出来た」

「では、静かにしていて下さい」


 目も合わせず言うアラタに手を上げ了の返事。


 何だろ。いまいち好かれて無いね。


 ◆


 ヒマだなぁ。

 街を歩くのはNPCばかり。

 それすら疎ら。


 黙々とアラタの後を着いて行く。

 と、アラタが静かに歩みを止める。


 ……物音?


 私とアラタが同時に上を見上げる。

 視界を一瞬、人影が横切る。


 建物の上、屋根の上を走って移動する何者か。


「北、屋根の上にネズミ」


 咄嗟にアラタが通信を入れる。


 ◆


 レグルスの街の時計塔。

 レグルスの街で一番高い、その場所にクレイグは居た。

 両端に滑車の付いたコンパウンドボウを地上に向け。


『北』


 アラタの通信と同時に、屋根の上の人影を視界に捉え、躊躇うことなく矢を放つ。


「ひとーつ」


 そう、抑揚無く呟く。


「ふたーつ」


 その後方に居た人影に向け二射目を放つ。


 その矢は咄嗟に屋根から飛び降りた賊を天頂から追いかけ、頭部を貫き呆気なく粒子に変えた。


『南、二』


 ミカの通信。


「みーっつ、よーっつ、と」


 続けざまに放たれた二本の矢はそれぞれ獲物の頭部に突き刺さり、プレイヤーを粒子に変える。


 それを確認する前にその場から離れるべく動き出す。

 狙撃ポイントが露見した狙撃手ほど脆い者は居ないのだから。


 ◆


 アラタの警告とほぼ同時に風切り音が聞こえ、そして何かが賊のこめかみを打ち抜く。

 直後、その賊は粒子になり消滅した。


 狙撃。

 私は思わずそれが放たれたであろう場所を見つめる。

 高さおよそ百メートル程の時計塔。

 しかし……距離は一キロ以上離れて居るだろう。


「……なるほど。言うだけの腕はある訳か」


 認識の外から迫る脅威。

 その記憶を振り払う様に私は小さくため息を吐いた。


 ◆


 クレイグが賊を続け様に四人葬った後は膠着状態になった。

 かれこれ三十分程、街を彷徨って居る。


 と、前を行くアラタから僅かに緊張を感じ取る。

 通りの向こうから男女二人組。

 しかし、それはただのNPCに見える。

 ……いや、二人の姿のその横にうっすらと文字の様な物が浮かぶ。


【□□□□□□□(変装中)】【殺害可】


 変装中以外はモザイクがかかり読み取れない。

 成る程。

 看破。

 こう言う事か。

 そして、さり気なくこちらを睨みつける相手の視線から向こうからも同様に見えて居るのだろうなと結論づける。


 そして、殺害可とは、また随分と血生臭い事。

 ま。

 素直に従いますけどね。


 真っ先に動いたのはアラタだった。


 右手を一閃。

 今まさに腰の剣を抜こうと言う仕草をした男がその動きを止める。


 女が私に向け何かを投げつけてくる。

 ダーツの様なそれを剣で弾き飛ばし、そして一気に間合いを詰める。

 後ろに跳びのきながら懐に手を入れる女。

 しかし、そこから武器を取り出す、その前に剣を振り下ろし、その腕を切断する。

 返す剣で喉笛を一閃。

 そして振り返り後ろから、動きを止めたままの男の首を一撫で。


 頭が地に落ちるその前に二人は粒子になり消えて行った。


「成る程」


 一拍置いて、アラタが呟く。


「ノゾミさんが惚れる訳だ……」


 ……ん?

 私、ノゾミに惚れられてるの?


 今までの殺伐とした光景とは不釣り合いな疑問が頭を過る。

 いや、強さに惚れてるって意味だろう。


「鎖?」


 アラタが手にして居る物。

 武器……なのか?

 先端に菱形の重りが付いた銀色の細い鎖。


「ええ。拘束するのに便利です」


 変わった武器だ。

 しかし、その腕前は確かなのだろう。

 あっさりと一人無力化して居たのだから。


 特務機関……強者揃いじゃない。


 ◆


 それから更に一時間。

 ノゾミが一人。

 ミカ達が一人。

 それぞれ撃退した。


 街を行くNPCの影もめっきり少なくなって来た。


『ごめん。離脱する』


 突然、ミカから全員へ通信。


『どうしたの? マーカス』


 緊迫したノゾミの声。


『わからん! NPCか? 北に向かった!』


 それに答えるマーカスの声にわずかに戸惑いと混乱が感じられる。


「行きましょう」


 アラタと顔を見合わせ、そして同時に走り出す。

 王宮の周囲を反時計回りに南へ。


 先にそれに気づいたのは私だった。


 子供のNPC。

 そう。

 子供が一人静かに歩いている。

 看破には引っかからない。

 およそ五十メートル程先。


 その表情から感情が感じられない。

 思わず足を止める。


 そして、剣を握り締める。


 子供の手にナイフが握られて居たから。


 そいつがこちらに向かい地を蹴る。

 その動きはただの子供とは思えない程に早い。

 しかし。


 私は向かいくる刃を葬るべく、剣を……。

 直後、私の右手が拘束される。

 咄嗟に身を捻り、迫る刃を躱わしすれ違いざまにその子供を蹴り飛ばす。


「……何のつもり?」


 右手に巻き付いた鎖。

 その先端を持つ仲間を睨みながら問う。


「そっちこそ。相手は子供ですよ!? しかもNPC」


 だから何なのだ?

 子供であれ、刃を向けて来た。


「離せ」

「ふざけるな!」

「何やってんだ! お前ら!」


 通りの先からマーカスの叫び声。


「上!」


 その声に振り返り、そして、視界に入ったそれを警告。


 建物の上からナイフを振りかぶりながら飛来する小さな影。


 咄嗟に左腕でその刃を受けるマーカス。

 そして、ナイフが突き刺さった左腕をそのまま左の壁に押し付ける。

 ナイフを持って居た子供もろとも。


 私は剣を左手に持ち替え、一息に自分の右腕を落とす。

 アラタの拘束から逃れる為に。


「こいつ、抑えとけ」


 地面に転がったままの子供を顎で差し、駆け出す。


「待て!」


 アラタの制止の声。

 しかし、それに従う理由など無い。


 この子供二人は、裏ギルドを出たところですれ違った奴らだ。

 なら、近くに大人が居る筈。


「落ち着け!」


 もう一人の子供を羽交い絞めにしマーカスが私の行く手を遮る。


「何が起きてるのよ!」


 ノゾミも駆けつけて来た。


「……近くに大人が一人居る筈。後は任せる」


 このまま共闘は無理。

 そう判断した。


「え、どういう事?」


 ノゾミが説明を求める。

 しかし私はそれに答えず仮想ウインドウを開き、転移した。


 ◆


 ポツリポツリと人が現れては、町の中心へと消えて行く。

 それを見送りながら私は色の無い世界へ獲物が飛び込んで来るのをただただ待つ。


 そして。


 転移で飛んで来た男。

 そいつを背後から一息に刺す。


「へー。よくわかったな」


 即死には至らない。

 しかし、このまま剣を引けば死ぬだろう。


「クズの思考は読める」


 逃げる時は、安全な場所を選ぶ。

 だから、ハマルで待ち伏せた。


 悲しいかな。

 クズばかりの世界に居たからだ。

 しかし、こいつはそれ以下だろう。

 子供を道具に使うなんて。


「お前ら、何者だ?」


 首だけ捻って背後の私に目を向けながら尋ねてくる。

 しかし、それに答える必要など無い。


「まあ、良い。顔は覚えた」


 私が黙って剣を引くと同時にその男は粒子になり消えて行った。


 それを確認し、そして、小さく息を吐く。

 さあ、帰ろう。


 仮想ウインドウを開き転移先に喫茶水月を指定した。

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