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特務機関の仕事 ―― アラタ①

『こちらアラタ。再びフール出現。NPCを連れ城内へ』

「NPC? ラヴァー?」

『違います』

「……合流する。場所を」

『送ります』


 通信を切り、ノゾミはアラタから送られて来た地図を確認し彼と合流する為に移動を開始する。


「転移、レグルス」


 ◆


 アラタが居たのは王宮が見える通りのカフェ。

 二階のテラス席からさりげなくレグルスの王宮へと目を光らせていた。


「ご苦労様。交代するわ」

「いえ。まだ平気です」

「そう」


 そう答えるだろうと思いつつノゾミは同じ組織の部下である男に声を掛け、向かいに腰を下ろす。


 マルショワリから新たな任務を受けてから二日。

 彼はこうやってレグルスの王宮を見張り続けている。


「新しいメンバーが入ったから、少しは負担を減らせると思う。

 先輩として、指導してあげてね」


 ノゾミの軽口に、一度顔を向け、再び王宮へとその視線を戻す。


 それを見て、真面目だなとノゾミは改めて思う。

 特務機関エクリプスのメンバーとしてアラタをスカウトして二ヶ月程。

 新参者だから、と言う理由以上に彼は従順にノゾミの命令を聞き、良く働いた。

 根が真面目なのだろう。

 方や寝てばかりのクレイグ。

 方や気まぐれなミカ。

 そんな二人の後に入ったのだから文句を言わずに動いてくれるアラタにノゾミは心から信頼を寄せていた。

 そして、その信頼はこの先も変わらないのだろうと、王宮を睨みつける顔を見ながら思う。

 彼の後に入った二人が、ノゾミの想像以上にポンコツだと言う事に薄々気づき始めたからである。


「動きました」


 押し殺したアラタの声に不安しかない未来を一旦棚上げにし、さり気なく振り返る。


 ちょうどレグルスの王宮の門が開き、赤い髪の女が門番の兵士に見下す様な視線を送っていた。

 その横に少年を引き連れて。


 『フール』。

 特務機関エクリプスが要注意人物としてマークしているプレイヤーの隠語である。

 愚者。

 自由を意味するタロットカードからミカがそう名付けた。

 唯一自由に空を飛ぶハルシュと言う名のプレイヤー。

 この世界の王達に向け、正義を説く愚か者……。

 そんな彼女と度々行動を共にしているアリアシアと言うNPCは『ラヴァー』と、同じくミカが命名した。


「行くわよ」

「監視は?」


 立ち上がったノゾミにアラタが自分の任務を確認する。


「フールを優先。アーミラリに後を引き継ぐ」

「了解」


 ◆


 『アーミラリ』。

 ノゾミ達の所属する特務機関の上部組織である。

 犯罪行為の防止を主たる目的とした、プレイヤー、または、NPCの監視。及び、摘発。

 場合によっては武力による沈静化も含む。

 それが、特務機関に於いてノゾミ達に下される指令の主な内容である。

 しかし、プレイ時間に制限があるプレイヤー達が現実の警察組織の真似事に近いそれらの任務を独力で完遂する事は不可能である。

 仮に百人を超える様な人的リソースがあれば話は違うのであろうが、今度はその人員を、どうやって掌握していくのかと言う問題が出て来る。

 大半のプレイヤーは一時的な娯楽としてこのゲームをしているに過ぎない。

 この世界で起きることに対して責任など持つ必要もなければ、積極的に秩序を守る必要も無いのである。

 何より、特務機関のまとめ役という座に居るノゾミ自身そう考えている。


 結果として、特務機関として仕事を請け負ってはいるが、その結果に関して苦情を言われた事は無いし、今の様に持ち場を離れる時はアーミラリに引き継ぎをするだけで充分と言われている。

 この場にアーミラリから誰かが派遣されるのかすら、ノゾミ達には知らされていない。

 再度、仕事に戻るときに申し送り事項があれば伝えられる。その程度だ。

 それでも、任務の後には報酬が出る。例え、ノゾミ達が満足な成果を残せて居なかったとしても、だ。


 暇と金と権力を持て余した奴の道楽。


 かつてクレイグが、そう揶揄した事がある。

 確かに、アーミラリから見れば特務機関と言う存在は無駄でしか無い。

 定まらない人的リソースと消化され続ける金銭。

 そんな状態を考慮に入れた上でも尚、この組織を結成した、その訳をノゾミは考える。

 NPCの、いや、運営の意図を。

 私に、いや、私達に何をさせたいのか。

 本当の狙いは何なのか。


 それは、答えにたどり着ける様な問いでは無いし、ノゾミ自身、真剣に答えを求めているわけでは無い。


 そんな組織に胡散臭さを感じて居るのはノゾミだけでなく、クレイグも同様であった。

 そして、それでも自分の上に立ち、怪しいNPCに従順な姿勢を見せるノゾミにその理由をそれとなく尋ねた事がある。


「何故か企みを見抜いてたりするんだよね。一見、イケて無さそうな上司って」


 口元だけでニヤリと笑いノゾミはそう返した。


「一見イケて無い上司は、追い込まれるとやっぱりイケて無かったって話の方が多く無いか?」


 クレイグはそう返し、再びアイマスクをしてソファにその身を沈めるのだった。


 ◆


「船……か」


 フールが宿屋から新たなNPCを連れて現れ、そして、乙女座行きの飛空挺に乗り込む。


 NPC連れとは言え、空を飛んで移動できる彼女がわざわざ飛空挺に乗るならば、船上で行う事は一つしか無さそうだ。

 ログアウト。

 移動中の船上でログアウトすると、次回のゲーム開始地点が自動的に目的地の港になる。それを利用し、移動をその日のプレイの締めくくりとするプレイヤーが多数てなのである。


 そうすると、彼女を追って船に乗り込んだところで直ぐに居なくなってしまうだろう。


 無駄足だろうか。

 ノゾミは少し思案する。


「行かないのですか?」


 アラタが静かに聞いて来る。


「今日は解散。私は船でログアウトすることにするわ」

「少し、気になるのであの二人を観察します。良いですか?」

「無理しないでね」

「平気です」


 いつも通りの生真面目さにノゾミ頬が少し緩む。

 それを見たアラタは詰まらなそうに目を逸らした。


 ◆


 さて、聡明な読者の皆様におかれましては薄々感づいていらっしゃることでしょう。


 このアラタ。

 ツンデレ男子である。


 ◆


 船に乗り、ノゾミの予想通りフールはログアウトした。


「綺麗ね」


 甲板の上のベンチで青い空を見上げながらノゾミが言う。

 長い髪が風になびき、アラタの頬をくすぐる。


「あ、ごめん」


 髪を抑えながらノゾミが謝罪する。

 しかし、アラタはフールの連れていたNPCの船室の方を向いたまま、微動だにせず。


「平気です」


 そう、一言答えるのみ。

 繰り返すが、ツンデレ男子である。


「そう言えば、この前もアラタと船に乗ったね」


 ハマルでタウラス自由騎士団と揉め事を起こしたプレイヤーを監視して居た時だ。


「あの時もごめん」


 少し酔っていたノゾミはふざけてアラタに抱きついたのである。

 その光景に殺意を抱いたのが他ならぬ、当時のプルムである。


「別に、気にして無いです」


 不器用ツンデレ男子である。


「新しい仲間、今度は紹介するわね」

「興味無いです」


 嫉妬である。


「それで、気になって居ることって?」


 ノゾミがそっと顔を近づける。


 一瞬、ノゾミを見て、眉間に皺を寄せ僅かに背を仰け反らせる。


 思春期真っ只中の不器用ツンデレ男子である。


「宿から出てきたNPC、護衛対象に似ていました。

 城はブラフかもしれません」

「何!?」


 ノゾミが眉を刎ね上げる。


 仕事は出来る系男子である。

 いや、単にノゾミの為に必死になっているのだが。


「引き続き、乙女座でも追って見ましょう」

「……了解です」


 ノゾミから顔を背けながら、アラタはポツリと答えた。


 ◆


(マジでか!?

 明日もノゾミさんと一緒だ!!!

 やばばばばばばばばば!

 顔が、顔がにやける。

 バレて無いよな?

 落ち着け。

 クールに。

 クールに。

 俺はガキじゃ無い。

 俺はガキじゃ無い!


 それにしても……良い匂いがする……。

 ああぁぁぁぁぁぁぁ……)

一見従順だからツン、じゃないよなー。

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