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ポータルの使い道 ―― ヘクト②

 お昼ごはんを食べ、再びログイン。


 一階に下りる。

 相変わらず、寝ているアイマスクの男。


 それ以外は誰も居らず。

 特にメッセも無い。


 それならば好きにしよう。

 転移でアルデバランへ。

 いざ、降臨。


 ◆


 ヘクトは再びアルデバランのギルドを訪れ、アムドゥスキアス討伐へ赴くのである。

 そして、他のプレイヤーに紛れ、メイスを振るい危なげなく二度目の討伐に成功する。


 ◆


「ありがとー!」


 先に転移で帰る面々を手を振り見送る。

 そして、私は一人島に残る。

 島に残っても何もない。

 それは、マーカスに聞かされた。

 過去、同様のイベントで同じ様に討伐後に島に残り、あるいはレアアイテムでも無かろうかと探索をしたプレイヤーは決して少なくないらしい。

 そして、何かを得たという報告は一件も無い、とも。


 でも、私の目的は違うのだ。


「この辺で良いかな」


 島の中心から少し外れた、森の中で一段高くなっている所に立つ。

 そして、仮想ウインドウを開き、アイテムを使用。


<ポーン>

設置型インストレーションポータルを使用します>

<YES / NO>


 表れたウインドウ。

 YESに触れる。


<ポータルの種類を選択して下さい>

<オープンポータル / クローズポータル>


 今度はクローズポータルに触れる。


<名称を設定して下さい>


死者のトランペットトロンペット・ド・ラ・モール


 五月蝿い金管楽器の鳴り響く森。

 中々に洒落た名前じゃないかな。


<クローズポータルの設定が完了しました>


 地面を確認。

 金属の丸いコースターが土に埋まっている。

 手で取ろうと試してみたが、どうやっても動かない。

 つまり、もう動かせないのだろう。


 じゃ、戻ろうかな。


「転移、アルデバラン」


 一瞬で、目の前の景色が森から街中へ切り替わる。

 さ、戻れるか試そう。


 街中で秘密の場所を大声で読み上げるわけには行かない。

 私は、仮想ウインドウを開いて、転移のメニューを開く。


死者のトランペットトロンペット・ド・ラ・モール


 あった!

 そっとそれに触れる。

 再び、景色が切り替わる。


<ポーン>

<イベントフィールドに侵入>

<プレイヤーを専用フィールドに転送します>


 目の前に広がる森。

 そして、大音量のファンファーレ。


 ……大成功!!

 これで、ユニコーン、戦い放題!

 しかも、一人で!!


「よし、出てこい! 馬!!」


 私はメイスを手に木々の間をすり抜けながら走り出す。


 ファンファーレの中に混じる異音。

 足音……。

 後ろ!


 私は、身を翻し角を突き立てんとこちらに突進してくるユニコーンを視界に捉える。

 まっすぐに突き出された角。

 その、先端を左手で掴む。

 後ろに飛びながら。

 突進の勢いで、身体が浮く。

 しかし、構わず槌矛を振るう。

 その馬の目を目掛け。

 その攻撃が直撃したユニコーンは苦し紛れに大きく頭を振り、角の先を掴む私を振り飛ばそうとする。

 私は、ユニコーンに振り回されながら、それでも何度もその頭に槌矛を振りおろす。

 決して、左手は離さない。

 逃がすと、追いかけるのが面倒だから。


 幾度と無く力任せに槌矛を打ちつける。

 うーん、非力。

 さっき見た戦士と比べても全然ダメージが入ってる気配が無い。


 流石に怒ったのだろうか。

 背後にある木に私を叩きつけようと走り出す馬。


 させない!


換装コンバージョン


 右手に剣が現れる。

 そしてそれを馬の首深くまで突き立てる。

 咄嗟に左手を離し、剣を引き抜く。


 馬はそのまま木に衝突し、動きをとめる。


 そして、その白い体が黒い粒子になり溶けて行く。

 黒い粒子は、一度、宙を漂い、再び一箇所に集まり、人の形をなす。

 そして、白い鎧姿の骸骨が現れる。

 その手に、ユニコーンの角のような槍を持ち。


 同時に、私の両脇から、木の蔦が伸びて来る。

 それを剣で切り落とし、そして、骸骨へ向かい跳躍。


 間合いを詰めてしまえば、負ける敵では無い。


 ◆


<ポーン>

<降臨モンスター・アムドゥスキアス討伐おめでとうございます>

<フィールド上のプレイヤーには初回撃破ボーナスが送られます>

<特別フィールドから通常フィールドに転送します>


 どうだ! 槍使い!

 宣言通り勝ったぞ!

 ……辛うじて。


 成る程。

 今迄人間ばかり殺して来たからな。

 切っても死なない、と言うか、生身としての急所が無い敵との戦いはなかなかに大変。

 搔き切る喉笛すら無いのだから。


「転移、カストル」


 自分の見積もりの甘さを実感しながら私はその島を後にした。


 ◆


「ただいまー」


 カランコロンと水月の扉が鳴る。


 カウンターにミカ、そして、相変わらず寝ているアイマスク。

 あれ、置物?

 幻?


「気にしたら負け。おかえり」


 余程怪訝そうな顔をしていたのだろう。

 ミカが言ってくれた。


「アイスティー、飲む?」

「ありがと」


 ミカに営業スマイルを返しながらカウンターに座る。


 そして、仮想ウインドウを展開。


 【アムドゥスキアス撃破特別プレゼント】

 独力でアムドゥスキアスの元へ辿り着き、そして、これを打ち破った者への特典。


 へー。

 ギルドの報酬とは違った物が貰えるのか。


<ポーン>

<魔石・黒を入手しました>


 魔石?


 私は手に入れたばかりのアイテムをカウンターの上に出して見る。

 両手で抱えられそうな、黒い石。いや、宝石かな。


「魔石!?」


 カウンター越しに突然ミカが大声を上げる。


「しかも、黒」

「珍しいの?」


 ミカを見上げながら問う。


「とっても」


 私にアイスティーを差し出しながら、しかし、目は魔石に釘付けだ。

 興奮のせいか、真っ白な頬が紅潮している。

 かわいい。


「何に使うの?」


 高く売れるとか?


「召喚」


 召喚、か。

 あれでしょ。

 モフモフとか連れてる人。

 さっきも居たな。

 蝙蝠連れてた人。

 頭にちょこんと乗ってて慣れれば可愛いかも。

 でも、生き物の世話は大変だしな。

 変に愛着持っちゃっても辛いし。


「要る?」

「え!?」


 目を見開くミカ。

 うん。かわいい。

 何で普段は無表情なんだろ。


「私には必要なさそうだし。

 欲しいならどうぞ?」

「良いの? 凄くレアよ?」

「良いの。価値がわかる人が使った方がいいでしょ。

 それに……」


 そこで私は一拍置く。

 怪訝そうな顔をするミカ。


「……仲間、でしょ?」


 意外と恥ずかしいな。この台詞。


 そこでなぜかミカは無表情になる。

 そして、顎に手を当て考え込む。


 ちょっと。

 何、その反応!


 軽く衝撃を受ける私に構わずミカは仮想ウインドウを展開する。


 ゴンッ!


 突然私の背後で鈍い衝突音。

 振り返ると、床にメイスが転がっている。

 ……超ビックリした。


「それ、要る?」


 ミカが、こちらに仮想ウインドウを見せながらそう尋ねて来る。


 アイテム【忌乙女の槌矛(ジェラシー・メイス)】ランク 9

 かつて不死者と戦った乙女が携帯していたメイス。

 怒りの力が宿る。



 中々にインパクトのある説明。

 怒りと嫉妬……か。

 床に落ちたメイスを手に取る。

 そして、二度、三度と振ってみる。


 ……何故だろう。凄く馴染む。


「要る」


 ミカにそう答える。


「じゃ交換」

「良いの?」

「私には必要無いから。……仲間だしね」


 凄く素っ気なく、そう付け足すミカ。

 照れ隠しの様に視線を逸らす姿がかわいい。

 私はそれに営業スマイルを返し、カウンターに座る。

 そして、アイスティーを飲みながらこの後の予定を変更。

 これを持ってもう一回ユニコーン退治に行って来よう!


 ◆


 結果、ヘクトはノゾミから依頼される仕事の合間を見つけてはアドモゥキアス討伐に出かけ、二週間後、最多討伐ボーナスとして『白紙の地図』なるアイテムを入手する事になる。

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