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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
転属1ヶ月後
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整備場(陸の場合・2)



O-Pーオーガニックパペット、有機人形という意味だ。

動力炉とコクピットの一部を除いた構造全てが、ナノマシンを配した有機機械で出来ている。独自の遺伝子構造を持つ、生きた機械だ。

通常は、汎用機からプロジェクトに必要な機種を選び、使用するオペレーターに合わせて調整して使う。個人の専属機所有は(まれ)で、数える程しか登録されていない。


O-Pは、厳然とした意思は持たない。だから思考する事はないが、感情らしいものはあって、好き嫌いを伝えてくることがある。もちろん、オペレーターとの相性があるので、適性が合っていても相性が合わず、機体を乗り換える事もある。


コクピットも特殊で、星間飛行船のような操縦桿などは一切なく、オペレーターの脳を、神経接続という形で機体に直接繋いで操縦する。危険を伴うし、向き不向きもあるから、オペレーターになるためには厳しい基準が設けられていた。

オペレーターの向き不向きを調べる検査に合格した後、専門校に通い、厳しい試験を何度も突破して、最終的な適性検査を通り抜けて、初めてオペレーターの資格が貰える。

その中でも、より能力の高い者だけが、操縦士と航法士の専門資格を習得できた。特に航法士の専門資格は習得が難しく、オペレーターの中でも、資格を持つ者は2割に満たない。まして、両方の専門資格を有する技量を持つ者は、数える程しかいない。

ステーションには、両方の資格所有者は、(りく)を含めて3人在職中だが、過去形でも両方の専門資格を持つ人を、三輪(みわ)以外では見たことがなかった。




「陸、コクピットのハッチは、このまま開けておいて下さい。最終調整で動作確認はしませんから、リンクも始動状態を維持して下さい。今回は調整を大幅に変えてますから、気分が悪くなったり異変を感じたら、すぐにリンクを切って下さい」


いけますか?


コクピットに座った陸に、ハッチに手をかけた三輪が、覗き込むように訊いてきた。


「了解、いける。ついでに、シートベルトもしとく?」


嬉々として答える陸に、


「動かしませんから必要ないですが、お好きにどうぞ」


三輪は、手元の端末を操作しながら苦笑を返す。

その間にも、陸は手慣れた作業で準備を始める。頭上にあるゴーグルを下ろし、接続機に両手足を固定して。


「準備OK」


「では、リンクを開始して下さい」


三輪の合図に頷いて、陸は、いつも通りに機体とのリンクを始めた。

左の指で、接続機を2、3度叩く。それを合図に、四肢を固定した接続機から糸より細い触手のようなものが伸びてきて、皮膚の内側に潜り込む。

手足の感覚が馴染むと、もう一度、接続機を叩いた。今度は項の辺りに、チリ、とした痛みが走った。それもじきに馴染む。

陸は、深呼吸を一つして、目を閉じた。


機体とリンクする時、いつもイメージするのは、薄い氷の壁だ。その氷の壁を、手のひらの体温で溶かす。溶け切ったら、今度は木の根から葉の隅々まで水を行き渡らせるように、意識を機体の隅々まで拡散させる……はずだった。

氷の壁までは、いつもと同じだった。けれど、手が触れた途端に氷の壁は消え、水が流れるように意識が拡散される。

陸は、驚いて目を開けた。


「…陸? 大丈夫ですか?」


目の前に、心配そうな顔の三輪がいる。

同時に、ガーゴイルの足元で、眉根を寄せて見上げてくる三郷(さんごう)の姿も、二重写しに見えた。

返事もせずに瞬きを繰り返す陸に、三輪は不安気に覗き込んできた。


「…陸?」


呼ばれた名前が、二重に聞こえる。


…あ、いつも通りだ。


「…大丈夫、あんまりにもリンクがスムーズだったから、びっくりしただけ」


照れ笑いを浮かべて、陸は返した。



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