整備場(哲也の場合)
ーそんなっ、理由くらい聞いてくれたってー
ー三輪さん、三輪整備技師、お願いです、話を聞いて下さいー
この3日間、何度も哲也の元を訪れて、生駒は必死に言い募っていた。真剣な声音が耳から離れない。
彼の言い分は分かる。単独搭乗しかできない理由も、ちゃんと知っている。だからこそ、哲也が搭乗許可を出せないのは、生駒には理解できないだろう。
生駒の機体は、かなり負荷が掛かっていて、思ったよりも状態が悪かった。きっと、生駒自身も、体調不良を訴える事が増えていたはずだ。
彼を止められて良かったと思う反面、少し言い過ぎたかも、と思う気持ちもある。
彼は哲也を、冷たい人だと思っているに違いない。それでも、手遅れになるより、誤解されたままの方が良かった。
哲也は、オーバーホール中のコクピットの中で、溜め息を吐いた。自然と手が止まってしまって、思うように仕事が進まない。
気持ちを入れ替えるために休憩しようとして、
「テツ、おい、テツ!」
下から、三郷の呼ぶ声が聞こえた。
「どうかしましたか? 三郷さん」
コクピットからひょこっと顔を出して、哲也は首を傾げる。三郷は、顰め面で哲也を見上げて、降りて来い、と手招きした。
哲也がコクピットからふわりと降りて三郷の目の前に立つと、彼は思い詰めた顔で、あのな、と切り出した。
「生駒の事だが、あれは言い過ぎじゃねぇのか? キャプテンが、かなり落ち込んでるって言ってたぞ」
「でしょうね」
「…でしょうね、って、おまえ…」
あっさり返した哲也に、三郷は思い切り眉根を寄せる。
「あのな、モノには言いようってもんがあんだろうが」
「言いようを変えても、内容は変わりません。期待させるような言い方はしたくない」
哲也がきっぱり言い切ると、三郷は唸った。
「それじゃ、誤解されンだろ?」
三郷が、自分と生駒の関係が悪くなるのを心配しているのは分かる。
でも、哲也は引く気がない。
「誤解も悪役も、覚悟の上です。取り返しがつかなくなる前に、歯止めになれれば、それで良い」
「おまえが良くても、周りが困ンだろうが…」
溜め息混じりに言われて、哲也は、すみません、と小声で謝った。
「…でも、僕と同じ目に遭わせたくないので…」
自重気味に呟くと、三郷の表情が、深刻なものに変わる。
「まだ、あン時の事…」
「大丈夫、僕は、もう諦めがついてます。でも、生駒君はまだ間に合う。何とかしてあげたいでしょ?」
そう告げると、三郷はもう一つ、溜め息を吐いた。
「だったら尚更、誤解だけは解いとけ。生駒の為にも」
彼は言って、哲也の頭をくしゃくしゃと撫でた。
哲也は苦笑を浮かべて、返答しようとして。
いつの間にか、三郷の後ろに立っていた生駒と目が合った。
彼は、あたふたと奇妙な行動を取った後、バツが悪そうに頭を掻いた。