整備場(陸の場合)
呆然と固まって動きを止めた後、揃って狼狽える大人たちを、陸は、整備の邪魔になるから、と言って整備場の隅っこまで引っ張った。
「災難だったね。すんごい既視感、感じるけど」
陸が慰めると、京終が不思議そうな顔をする。
「デジャヴ…って?」
「俺もね、初っ端で同じ事されたの。ちゃんと理由を知れば、納得できるんだけどねぇ」
けらけら笑う陸に、平群が顔を顰める。
「あれのどこに、納得できる要素があンだよ…」
動揺がぼやきになって出てきていた。
「てっさん、ちゃんと理由言ってたでしょ?」
「あ、いや、確かに言ってたが…。ああも一方的に結論だけ言われても、納得のしようが…」
宇陀が困ったように、落ち込んで項垂れている香芝の背を撫でる。
「ああ、それね、てっさんの悪い癖。結論しか言わないんだもん。そりゃ戸惑うよねぇ」
陸は言って、またけらけらと笑った。大人たちは、困惑気味に陸を見ている。
ー残念ながら、搭乗許可は出せませんー
淡々と言い切った哲也に、彼らは、ずっとその調整で乗ってきたから大丈夫だ、と言い張った。けれど哲也は一切耳を貸さず、駄目なものは駄目と切り捨て、搭乗許可が欲しいならキャプテンの許可をもらってくるよう言い置いて、O-Pのコクピットに戻ってしまった。
ーこんな荒い調整の機体に、あなた方を乗せる訳にはいきませんー
それが、唖然とする彼らに示した、哲也の理由だった。
「おまえ、あの理由だけで、納得できんのかよ?」
不服そうな平群に、陸は頷く。
「できるよ。てっさんがああ言い出すって事は、相当危険だってことだもん」
危険、という言葉を聞き付け、香芝が顔を上げた。
「…それは、どういう意味で…?」
「さぁ? それは俺にも分かんない」
力無い香芝の問いに肩を竦めて答え、陸は悪戯っ子のように、にっと笑った。
上手く掛かった。
結論しか言わない哲也は、本当に誤解され易い。
彼らと哲也の間に溝ができるのは避けたい。が、彼らが哲也の真意を汲み取れないなら、哲也には近付けたくない。
だから、ちょっと、試してみよう。
素直に哲也に真意を問い、その答えに納得できるかどうか。
陸は目を細めて、意味あり気な笑顔で、哲也のいるO-Pをそっと指差した。
「知りたいなら、本人に、直接訊けば?」