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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
翌日
22/32

整備場(麻有の場合・1)



一晩明けて、通常勤務の人員が動き出す時間に、三郷(さんごう)が個室まで迎えに来てくれた。整備場に行く前に食堂に案内されて、朝食を摂りながら、各自に手渡された職員用のIDパスの使い方を教わった。


整備場は、資材運搬用ターミナルに隣接する格納庫の奥にあるという。格納庫にはパスがあれば自由に出入りできるので、他に困った事があれば、管理人に聞くといいと教えられた。




格納庫はかなり広い。

複数の区画に別れていて、それぞれ20機前後のO-Pがハンガーに掛けられている。三郷の言では、このステーションには、現在稼働中や整備中を含めて400機以上のO-Pが所有されているらしい。稼働中や待機中のO-Pは格納庫で簡単に整備され、故障や再調整の必要な機体が格納庫に運ばれるそうだ。


格納庫を抜けて整備場に着くと、一番奥の真正面に、見慣れない仕様のガーゴイルがハンガーに掛かっていた。整備が終わっているのか、手を付けられている痕跡が無い。


「…あれは?」


麻有(あゆ)がガーゴイルを指差して尋ねると、


「ああ、ありゃ、(りく)の専属機だ。おまえらの班長の」


三郷があっさり答えてくれた。


「えっ、あの年齢(とし)で専属機?」


思わず、直藤(なおふじ)が声を上げる。


「…俺らでも持ってなかったぞ」


呆然とする平群(へぐり)に、三郷はニヤリと笑う。


「テメーとは実力が違うんだよ、実力が」


「ンだとぅ?!」


ケラケラ笑う三郷に平群が突っ掛かりかけた時、背後から声が掛かった。


「おはようございます、三郷さん。あれ、昨日の人たちもいる。てっさんは?」


きょろきょろ周りを見回して、生駒(いこま)が挨拶した。


「おう、オハヨ。テツなら、奥のどっかに居んじゃねぇか?」


「何か昨日、面倒な修理がどうのって言ってたような…」


小首を傾げる生駒に、三郷は顔を(しか)める。


「…なに面倒押し付けられてンだ、あのバカ」


苦々しくぼやいて、三郷は整備場の奥に飛んで行ってしまった。取り残された生駒と麻有たちは、呆然と三郷を見送って。

振り向いた生駒が丁寧にお辞儀をして挨拶した。


「おはようございます。今日の予定は決まってますか?」


「おはようございます。いえ、特には。後で三郷整備士が、施設の案内をしてくれるそうですが」


麻有も丁寧に挨拶を返すと、生駒は恥ずかしそうに頭を掻く。


「あの、敬語は止めて下さい。俺の方が年下なんだし」


「年齢は関係ありませんよ。班長に礼を尽くすのは、当然でしょう?」


ほんのり微笑みながら麻有が言うと、生駒は真っ赤になって、両手と首をぶんぶんと振った。


「あの、班長の仕事はちゃんとしますけど、俺、そういうのは、ちょっと…」


困ったように生駒が呟く。苦笑いで言い訳を探す仕草が可愛い。

麻有はくすくす笑うと、妥協案を出した。


「では、お互いに敬語は止めよう。それでいいかな?」


麻有の申し出に、生駒はほっと息を吐く。じゃあそれで、と笑う笑顔は、年相応の少年のものだ。

成り行きを見守っていた京終(きょうばて)が、瞳をきらきらさせて嬉しそうにしている。

あ、と思って、麻有が止める前に。


「班長さん、可愛いー」


京終は、生駒に抱き付いていた。

班長ヤメテー、と嫌がる割に、生駒は京終とじゃれている。人懐こい性格のようだ。

そのままじゃれ合いながら、三郷の消えた方向に向かう2人を、麻有たちも追いかける。ふと平群を見やれば、頭を抱えて盛大に溜め息を吐いていた。




三郷は、整備場の少し外れた所で、目の前のO-Pの事を、他の整備士と話し合っていた。

目の前のO-Pは、外部装甲の至る所が焦げている。酷い部分は装甲が(めく)れて、傷付いた本体部分が見えていた。

麻有たちが、お互いに顔を見合わせて、三郷を見ると。

麻有たちに気付いた三郷が、ちょっと待ってな、と手振りで指示してくる。


「…で、他の整備技師には当たってみたか?」


手に持った端末を見ながら、三郷が聞く。答えは分かっているが一応、という感じだ。


「ああ、当たってみたが、全員に匙を投げられたよ」


溜め息混じりに言われて、だろうな、と顔を顰める。


「…あー、こりゃ、テツじゃなきゃ手に負えねぇなぁ…」


「すまんな、三郷。あとで、三輪(みわ)技師長にも、謝ってたと伝えてくれ」


申し訳なさそうにこの場を後にする整備士に手を振って、三郷はO-Pに向き直った。


「おい、テツ、お客!」


三郷の大声に、周りの整備士が一斉に振り返る。


「テツ、聞こえてねぇのか!?」


三郷は、周りの整備士に構わず怒鳴った。だが、三輪は出てこない。隣で生駒が、苦笑いを浮かべていた。

三郷は思い切り顔を顰めて、呼び方を変えてさらに怒鳴る。


「お客だ、三輪技師長!!」


「その呼び方、止めて下さい」


通る声で応えて、三輪がO-Pのコクピットからひょこっと顔を出した。


「聞こえてますって、三郷さん。いつものお客さんなら、追い返しておいて下さい」


「いや、違うって。昨日の連中、連れてきたから」


三郷はそう言って、麻有たちを指差す。三輪は、ああ、と納得した顔で一旦コクピットに引っ込んだ。すぐにファイル片手に降りてきて、三郷の目の前に立つ。すかさず、生駒が声を掛けた。


「おはよ、てっさん」


「おはようございます、(りく)


笑顔の生駒の挨拶に、三輪は穏やかに笑って挨拶を返す。そして、三郷を見上げてファイルを手渡すと、変わりに端末を受け取った。


「三郷さん、彼らにあの事は?」


「いや、まだ言ってねぇ」


短い会話を交わしたあと、三輪は麻有たちの方を向いた。おはようございます、と(にこや)かに挨拶する。麻有たちも挨拶を返す前に、


「2、3、質問いいですか? 答えられる範囲で結構です」


三輪に遮られる。

4人は、不思議そうに顔を見合わせて頷いた。


「昨日、あなた方の前職について、陸と一緒に聞かされたのを不思議に思ってたんですが、今朝届いたガーゴイルの調整数値を見て、理由が分かりました。それを踏まえた上で、お聞きします」


三輪は、手にした端末にデータを呼び出すと、とん、とモニターを指で叩く。


「この調整数値は、間違いないですか?」


言われて、麻有たちは一斉にモニターを覗き込む。確認したが、間違いない。


「はい、合ってます」


「この数値で調整するよう指示が出てますが、各々の本社の指示ですか?」


質問の意図が全く読めないが、麻有たちは、素直に答えた。


「…いいえ…」


4人揃って首を振ると、三輪の周りの空気が冷たくなった…気がする。彼は相変わらず柔かに笑っているが、何故か空気が重い。

三郷が、気の毒そうに、そっと顔を逸らした。生駒も苦笑いだ。

三輪は、そうですか、と呟くと、淡々とした声で、


「残念ながら、搭乗許可は出せません」


そう宣言した。

三輪の柔和な笑顔は変わらなかったが、目は笑っていなかった。



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