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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
プロジェクト開始1ヶ月前
21/32

管制小会議室(磯城の場合・2)



(りく)たちを追い出して、大量の資料とデータを部屋に持ち込んで、管制士の3人は残業をしていた。

葛城(かつらぎ)磯城(しき)は衛星軌道ステーションに詰めているのでまだ良いが、久度(くど)は月面第二ステーションが本拠地だ。おまけに、稼働中のプロジェクトも抱えている。彼がこちらに居られる時間は、ごく僅かだ。

久度の居る内に擦り合わせておかなければならない仕事や、彼にしかできない仕事は山ほどある。今日は徹夜になりそうだ。


「…で、奏志郎(そうしろう)、あの部外者たちは、おまえの思惑通りだったか?」


各班の名簿とシフト管理表を見比べながら磯城が尋ねると、久度は素っ気なく、ああ、と答える。


「フィエナ連合軍の災害救助連隊第三小隊と、SEA軍の特殊任務部隊災害救助小隊。どちらも、数ある災害救助部隊の中でも、最高峰の部隊だ。その士官なら、思惑以上だな」


素っ気ない口調だが、予想以上の大物が釣れて喜んでいるようだ。面倒臭い資料に目を通しているのに、久度はうっすら笑みを浮かべている。


「こちらの思惑通りに動いてくれそうか?」


重ねて尋ねると、


「ああ、問題ない、衡平(こうへい)。こちらの脅しが効いてる限り、大人しく良い駒になってくれるだろう。思わぬボロを出してくれたおかげで、非常に初手が打ち易かった。京終(きょうばて)中佐には感謝だな」


上機嫌な返答が返ってくる。最後の一言を聞き留めた葛城が、不審そうに顔を歪めた。


「…それ、褒めてるのか、貶してるのか?」


「褒めてるつもりだが?」


どうやら本心らしい久度に、葛城が、本気か、と聞き直している。完全に不信感丸出しだ。心外だと云わんばかりに葛城を睨めつける久度に、磯城が問う。


「…上手く、いくだろうか…?」


「大丈夫だ、衡平。上手くいく。もし上手くいかなくても、何とかするしかない」


久度の言に乗っかって、葛城が混ぜ返す。


「そうだぞ、衡平、やるしかないんだ。先の事ばかり心配してると、その内ハゲるぞ」


「うるさい、彼方(かなた)。おまえはもう少し、物事を慎重に考えろ。脳は使わないと、すぐに劣化するんだぞ」


売り言葉に買い言葉で磯城が言い返した。お互いに、眉間に皺を寄せて睨み合う。


「…おまえたちは…。本当に、仲が良いのか悪いのか、よく分からん」


呆れて投げ遣りに言われて、2人は揃って久度に振り向く。


「余計なお世話だっ」


久度に言い放った言葉は、2人一緒だった。


「それより、チビたちにあの4人の素姓を教えて良かったのか?」


自分が感じていた疑問を、葛城が口にする。

久度は手に持っていた書類にサインを書き込むと、次の書類を取り上げた。


「構わない。最初からそのつもりだった」


「どういう事だ?」


「チビたちに警戒心でも持たせる気か?」


磯城が真意を問う。隣で葛城も同時に喋る。お互いに顔を見合わせ、むっと顔を(しか)めた。

久度は、2人を横目で見てから、書類を手に、呆れた吐息を吐いた。


「警戒の有無はチビ共が勝手に判断する。こちらから、どうこう言う必要は無い。特に警戒心の強い生駒(いこま)は、人を観る目が鋭い。誤魔化しが効かん。情けない話だが、奴らの為人(ひととなり)を知るには、生駒の目が頼りだ」


久度の真意に、なるほど、と磯城は納得した。だが、心境は複雑だ。


久度にそこまで言わせる陸を、自慢すれば良いのか、憐れめば良いのか。


「…陸を、判断基準に使うな…」


磯城は、辛うじて保護者として抗議しておいたが、久度は、火急時だ許せ、としれっと返す。


哲也(てつや)に教えたのは?」


葛城が聞くと、


三輪(みわ)は、ガーゴイルの調整データを見れば一発で気付く。事を荒立てはしないだろうが、そこから情報が漏れるのは防ぎたかった」


久度は簡潔に答えた。なるほどな、と葛城も納得した。


ふと、久度が書類から目を離し、端末に届いたメールの差出人を確認している。


「まあ、これで、最大の難関は抜けた訳だ」


葛城がほっと一息吐いて、大きく伸びをする。しかし、久度はメールを読み返したまま、返事しない。どうしたのかと、磯城が久度を見やると。


「……特大の、難関が……」


と呟くのが聞こえた。


「…どうした…?」


心配して磯城が尋ねると、少し青ざめた顔でメールを見ていた久度が、口を手で覆う。


「……チビが、首輪を着ける気か、と、暴れた、と……もう1匹も、引き篭って、出て来ない、と…疾矢(はや)が……」


呆然と呟かれた言葉には、いつもの覇気が無い。


「……あいつら…じゃじゃ馬だ……」


久度の洩らした愚痴は、同情に値するものだった。



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