居住区(麻有の場合・2)
小さな班長たちを部屋まで送り届けたあと、三郷は、麻有たちを割り当てられた個室に案内してくれた。施設内の案内や諸々の手続きのために、明日の朝、迎えに来てくれるらしい。
麻有たちは三郷を見送って、一番手近な部屋に転がり込んだ。
部屋に入るなり、直藤がベッドにダイブする。
「…ちょっと、ここ私の部屋」
麻有が抗議すると、直藤は、少しだけ、と枕と友達になる。
「…仕方ないな、もう…」
諦めの溜め息を漏らして、麻有もベッドの端に腰掛ける。平群は京終に椅子に座るよう促して、自分は扉の脇に凭れかかった。
「そう言や、ダンナ、今日はずいぶん大人しかったが…」
「…麻有に喋るなって釘刺されてるんだよ。俺、すぐ余計な事言うから。余計な事言ったら、速攻で婚約解消するって脅された…」
枕に懐きながら、直藤がぼやく。平群は微妙な笑みを浮かべて、
「うちのミヤにも見習わせてぇが、俺の言う事はちっとも聞きゃしねぇ」
こちらも諦め気味にぼやいた。京終が、ぷう、と頬を膨らませたが、軽く無視される。
「…あー、香芝た…さん、うちのミヤの所為で、とんだ目に合わせてすまなかった」
平群が言いながら頭を下げた。多分、ターミナルで鉢合わせた時、久度に前歴がバレた事を謝っているのだろう。
「いや、ターミナルでの事がなくても、多分、今日中に問い詰められていただろう。どうやら、私たちが軍関係者だと、最初から気付いていたようだ。逆に、都城のおかげで命拾いしたかもしれない」
苦笑しながら、麻有は首を振る。
「とんでもない策士だよ、あの久度という管制士は」
麻有が困り顔で肩を竦め、珍しく初対面の人物を褒めると、直藤が敏感に反応した。過分に嫉妬が混じっている。
「…へぇ、珍しい。麻有が男を褒めるなんて」
「相当、頭の切れるタイプだね。直藤と違って」
嫌味を言う直藤に切り返して、麻有は、乗り換えようかな、と洩らす。
直藤は大慌てで飛び起きて、絶対ダメ、と口走って、後ろから麻有に抱きついた。
「婚約まで漕ぎ着けるのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ。やっと口説き落としたのに、他の男に浮気なんて、絶対ダメっ」
「…本人目の前にして、普通言わないでしょ、それは。情けない」
呆れ口調の麻有の言葉にも、ぶんぶんと首を振って、直藤は抱きしめた腕の力を強める。きっと今でも、麻有を繋ぎ止めておくのに必死なのだろう。
直藤以外を、人生のパートナーに選ぶ気など、さらさら無いのに。
麻有は溜め息混じりに微笑んで、直藤の頭をそっと撫でた。
「……。ダンナ、相変わらずだな…。で、今後はどうすんだ?」
話題を変えてきた平群の問いに、しばらく沈黙が流れて。
「両陣営の思惑が、は、一旦横に置いておこう。個々で動けば、彼らに良いように踊らされて終わりだ。共同戦線を張った方がいい」
麻有の提案に、平群が頷く。彼も、同じ事を考えていたらしい。
「やっぱ、そうきますか」
「じゃ、いつもみたいにフォー・マン・セル組む?」
麻有に頬を寄せながら、直藤が聞いた。
「当分は動かない方が良いけど」
そう返すと、不機嫌な京終が、えー、と声を上げる。
「折角そういうのから離れられたのに、また同じ事するの?」
不服そうに口を尖らせる京終に、麻有は、ほんの少しの間だけ、とご機嫌を取る。
「あの管制士たちが、私たちを追い出せなくなるまでの、少しの間だけだから」
ね、と麻有が宥めると、京終は不満いっぱいの顔つきで上目遣いに見上げてきて。
「……お姉様、って呼ばせてくれたら、頑張ってみていいかも…」
最大の譲歩と云わんばかりに呟かれた言葉に、麻有は頭を抱えた。
「…お願い、本当にそれだけは止めて…」




