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閉じた未来の、その先へ  作者: はなび
プロジェクト開始1ヶ月前
19/32

居住区(麻有の場合・1)



先頭で平群(へぐり)三郷(さんごう)が口ゲンカを始め、それに生駒(いこま)もいつの間にか参戦して、彼らは楽しげに騒ぎながら麻有(あゆ)の前を歩いている。パートナーの直藤(なおふじ)は、好奇心丸出しで彼らを眺めているが、とりあえず麻有の言付(いいつ)け通りに大人しくしていた。


思った通り、というか、予想以上に久度(くど)は厄介だった。手も足も出せずに、完全に久度の掌で転がされた感がある。先行きを考えると、気が重くてマイナス思考に陥りそうだ。


「…あーっ、もうっ! …疲れた…」


自分の中の嫌な気持ちを追い払うように声を上げると、周りの視線が一斉に麻有に集まる。皆、驚いている。


「…あ、驚かせてすまないね。来て早々、あんな目に合うとは思わなかった。でも、何だか吹っ切れたよ」


麻有は苦笑を浮かべると、ふっと息を吐いた。先を歩く三郷が、気の毒そうに慰めてくれる。


「災難だったな」


「一応、覚悟はしていたけれど。ここの官制士は皆、あんな曲者揃いなのかい?」


「いや、あの3人は別格だ」


麻有の質問に、三郷は首を振る。


「久度さんはステーションでは有名人だな。月面第二から動くことは滅多にねぇが、あの人の容赦の無さは『恐怖政治』って畏れられてる。葛城(かつらぎ)さんは食わせ者だ。ヤツは本当に腹が読めねぇ。あの3人の中じゃ磯城(しき)さんが一番まともだが、あの人も、油断すると嵌められる」


三郷は、本人が居ないのをいいことに、好き放題に評価する。その三郷の袖を引いて、三輪(みわ)(たしな)めているが、


「三郷さん、それは言い過ぎです。いくら本当の事でも…」


全くフォローになっていない。隣で生駒が、他人事のように爆笑していた。


完全に気が抜けた。


麻有は、肩を竦めて笑う。


「私たちは、とんでもない人たちに目を付けられた訳だ」


すげぇ有能だが、と付け加えて三郷も笑う。


「確かにとんでもねぇ連中だが、あの3人の誰かと仕事できるってのは、俺らステーション勤務の奴の憧れでもあンだ。だから、あんたらも胸張っていい。何だかんだ言って、結局プロジェクトから外されなかったろ?」


認められたんだ、と言った三郷は、どこか誇らしげだ。

何だかんだ言われていても、あの3人の官制士は、ステーション職員から尊敬を集めているのだろう。


「まぁ、前職が何だろうが、どこの会社に務めてようが、今は同じプロジェクトチームの仲間だ。仲良くしていこうや」


三郷は、子供みたいに屈託なく笑う。


これは、三郷の気遣いだ。


麻有たちが負担に思わないように、さり気なく元気付けようとしている。その気遣いが有難かった。


「そうだな。その通りだ」


麻有が頷く。

気負いが無くなって、麻有の表情が自然に柔らかくなると、京終(きょうばて)の表情も変わる。

目を潤ませて嬉しそうに顔を綻ばせ、本気で抱き着きそうな勢いで駆け寄ってくる。


香芝(かしば)た…」


「その呼び方しないっ!」


麻有はぴしゃりと言い放って、京終の言動を止めた。


「久度官制士から、注意するよう言われたばかりだろう?」


「…だって…」


しゅんとしょげて、上目遣いに見上げてくる京終に、麻有は溜め息を吐く。


「癖になってるなら、名前で呼べばいいから。私も都城(みやこ)と呼ぶ。それで良いだろう?」


苦笑で提案すると、京終は顔を輝かせる。


「…おね…」


「その呼び方も駄目っ!」


彼女の言いかけの言葉を遮って、


「…お願いだから、それだけは止めて…」


麻有は、頭を抱えて懇願した。



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